著者
田中 吉郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.15, no.10, pp.784-797, 1939-10-01 (Released:2008-12-24)

The method herein described is based on the principle of shading by oblique illumination. In working out this new method, however, the author investigated theoretically the intensity of light and shade or the configuration of brightness on a surface, and found a way of correctly representing on a map the brightness thus determined, justifying his view that the reasoning of the investigation should be based on realities, and that the method of drawing should be as scien-tific as possible, so that the resulting map may be exact and true to nature. The process of drawing may be explained with the aid of Fig. 3. The ground is first tinted grey, the contours in the light are then drawn in white, and those in the shade in black. The breadth of the contours, however, varies with the cosine of the angle θ between the horizontal direction of the incident ray and the normal to the contour at the point under consideration. It is shown that the configuration of brightness of the two cases, namely, the actual surface and the map, will resemble each other very closely, if the maximum breadth of the contours may be determined theoretically in terms of the brightness of the ground and of the contours. The advantages of the proposed method are: 1. The method gives a remarkable effect of relief. 2. The process of drawing is simple and scientific, and involves no ambiguity. 3. The maps afford at a glance a clear idea of the minor featuies, no matter how complicated, they may be, to say nothing of the general character of the country.
著者
田中 吉郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.15, no.9, pp.655-671, 1939-09-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
4
被引用文献数
3 1
著者
田口 雄作 吉川 清志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.769-779, 1983-11-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

1981年8月24日午前2時12分頃,利根川支流小貝川の左岸堤防が,台風8115号のもたらした降水による増水のため,茨城県竜ヶ崎市内で決壊した.冠水域は竜ヶ崎市を中心に,約3,300haに及んだ. 筆者らは,冠水域内の165地点の標高点において,洪水痕跡から浸水流の最高水面標高の測定を行なった.また,氾濫時に撮影された空中写真の判読等によって検討を加えた結果,浸水流の挙動に関し,次のような知見を得た. (1) 浸水流は北上流,直進流,南下流の3つの主要な流下方向を有していた.このうち,最も水勢が強く,浸水流の主流となったのは南下流であった. (2) 浸水流は水勢の強い時には,地表面の起伏にあまり支配されずに直進するが,流心から離れるに従って,あるいは水勢が弱まるに従って,地表の低まりに追従する. (3) 論所排水は,洪水排水総量は多かったかもしれないが,浸水流の主要な流路ではなかった. (4) 江戸時代に築かれた内堤防の存在の有無が,今回の冠水域の拡大に,大きな影響を及ぼした. (5) 古文書など諸資料から,経験的な土地利用,防災対策を読み取り,活用することは,現代社会にとっても大いに重要である.
著者
河本 大地
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.373-397, 2006-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
67
被引用文献数
1 1 1

グローバルなフードシステム化が進む現状を踏まえ,途上国における有機農業の展開とそのメカニズムを,スリランカを対象に研究した.その際,特に関連アクターの行動と相互関係に着目して分析した.スリランカの有機農業は,アグリビジネスが先進工業国に有機農産物を輸出することによって実質的な展開をみている.そこには,プランテーション栽培企業と,小農グループを組織する企業という二つのタイプが見出された.他方, NGOも有機農業の推進を行っているが,この場合は輸出よりも農村開発や環境保全に力点を置く.活動の活発なNGOは国際機関などとも密接な関係を持っている.このように,スリランカにおける有機農業の展開は,先進工業国との強い関係性を持ちながら進んでいるが,そこには一方的な従属ではなく,内発性や関係アクター間の連携が一定程度存在することが確認された.
著者
市川 正巳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.112-121, 1960-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
16

狩野川台風に伴う豪雨によつて,狩野川上流地域に多くの山地崩壊が発生した.その分布密度の高い地域は,総雨量550~700mmの地域,とくに9月26日20-23時の降雨量分布にきわめてよく一致し,同種の岩石で占められる地域においても,雨量の多い地域にとくに崩壊が密集している.このことから,今次の狩野川上流域の山地崩壊は全く雨量型崩壊といえる.従来の研究では,崩壊した物質が, 1度の出水では100mの短距離運搬されるに過ぎないことが知られている.しかし,大見川上流筏場の軽石質砂礫層の大崩壊では,崩壊物質の98%が1度の洪水で数10km下流に流出したことが,原土と下流の洪水堆積物との比較によつて知ることができた. 洪水によつてどこに河岸の侵蝕と河床の堆積が発生するかは,そこの地形的特徴によつて決定することができる.すなわち,侵蝕堆積の地点における川幅と谷幅との比と,河床勾配との関係は第6図のようで,川幅/谷幅の比が大であつても,河床勾配が小であれば,その地点の河床に堆積が生じ,両者の比が小であつても河床勾配が大きい地点には侵蝕が発生する.このことから,ある地点の河床勾配に対応した川幅/谷幅の比を求めることができるので,洪水対策に重要な示さを与えることができるであろう.
著者
村田 陽平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.13, pp.813-830, 2002-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45
被引用文献数
3 3

本稿の目的は,従来の地理学ではほとんど検討されてこなかったセクシュアリティの視点に注目して,公共空間における男性という性別の意味を解明することである.日本のセクシュアルマイノリティの言説資料を基に,「外見の性」という性別に関わる概念を分析軸として検討する.まず「外見の性」が現代の公共空間といかに関連しているのかを考察する.次に,男性の「外見の性」に意味付けられる女性への抑圧性を検討し,その意味付けを行っている主体は,女性のみならず男性でもあることを示す.そして,公共空間における男性という性別は,「外見の性」が男性である状態を意味することを明らかにする.この知見は,日本における「女性専用空間」の意味を考える上で有意なものである.
著者
菊地 光秋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.184-189, 1960-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
2
被引用文献数
1

狩野川台風による東京地方の水害地域は,水害型と地形の上から, (A) 東部および東南部のデルタ地帯, (B) 西部の武蔵野台地上の地域に2大別される. (B) 地域はさらに3分され, (1) 武蔵野台地上に水源を持つて,台地上を貫流している白子川・石神井川・妙正寺川・桃園川・善福寺川・旧神田上水など,荒川水系の谷とその沿岸地域, (2) 排水溝幹線として利用されている灌漑用水路および元灌漑用水路の沿岸地域, (3) 武蔵野台地上に点在する窪地の湛水による浸水地域で,水路に沿つていない地域とすることができる.東京地方西部の台地上の水害では,山岳部に雨量が少なく,平野部に豪雨が集中したために,中小河川の氾濫が目立つて多く,また窪地の浸水が多かつた.東京西部の市街地における家屋密度の増大と,西部の近郊農村の住宅地域化は,近年目立つて大きくなつている.この住宅地域の拡張と,下水溝および排水路としての中小河川対策が,平行して行われていないため,豪雨の影響をうけて被害が大きかつた.東京西部の台地上における多数の浸水家屋のうち,新築住宅の被つた水害の多いのもいちじるしい特色である.
著者
松原 宏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.165-183, 1982-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
19
被引用文献数
7 4

本稿では,私鉄資本による代表的な大規模住宅地開発である東急多摩田園都市をとりあげ,その形成過程や特徴に,開発主体である東急の動向がいかに具現化しているかをみた.その結果は以下の点に要約できる. (1) 東急主導の土地区画整理手法.この手法により東急は,少量で分散した土地買収状態でも,新線沿線の広域的開発を主導できた.しかも事業を代行することにより,新たに保留地を安価で大量に取得することが可能となった. (2) 人口定着策としての高密度開発.私鉄資本ゆえに新線の収益性を無視することはできない.そこで,東急は高密度開発を進めたが,一方で社会資本の不足を激化させることになった. (3) 遠隔地からの住宅地形成.東急は新線沿線各所に土地を所有していたため,地価上昇を見込んで遠隔地から分譲するという傾向がみられた. (4) アンバランスな土地利用の混在.東急は高級な一戸建住宅や分譲マンションを,地元地主は独身寮や賃貸マンションを建設したため,土地利用は無計画なものとなった.
著者
斎藤 叶吉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.432-442, 1959-08-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
11

福島盆地について桑園減少と果樹園増加の傾向,両者の関係,各地域の内部構造について調査した.その主な結果は次のごとくである. 桑園増加は1920年頃まで行われ,その後は停滞か減少をつづけた.これは暖地の桑園増加におされた結果である. 1929年以降の桑園増減形式では,南部は戦後も残存が多いが,減少をつづける型,東部も残存多く,最近やや増加傾向を示す型,その他の地域には減少をつづける型があらわれる. 桑園は根刈か中刈が多いが,ここは兼用桑園の北限にあるため,根刈は葉が軟弱となり,能率が悪い.交互抜採の中刈桑園がよい. 盆地の桑園は現在,梁川付近の阿武隈川氾濫原に多いが,県全体の分布中心地は,その西の阿武隈山麓丘陵地にある.福島県の桑園分布の中心は東に動いた形勢がある. 果樹園の増加は各果樹の古くからの中心地から周辺に広がつた形をとつている. 1929年以降の増加傾向をみると,最大の増加地域は盆地の中央部にあらわれ,西部から西北部がそれについでいる.これらは桑園減少の大きい地域と一致する.未結果果樹園の分布も果樹園増加傾向と似ているから,現在福島盆地にみられる地域分化は,今後いつそう深められそうな状況がうかがえる. 最初りんごは水田,梨は開墾畑,桃は河畔や丘陵の畑に入つたが,戦後,りんごは水田・普通畑・桃畑,梨は普通畑,桃は桑畑と開墾畑に多く入る.農業統計からみると,盆地中央部の果樹地域では水田と桑園が果樹園化し,その他は桑園からであるが,桑園の減少した面積を果樹園と普通畑,ときには水田も加わつて,地域ごとに異なる割合でで蚕食している.開墾畑の果樹園化も考えられる. 藤田・保原・福島・微温湯を結ぶ線は,果樹作と他の形の農業との競合線にあたる.その線の内外で農業目標を異にし,内部溝造にも影響がおよんでいる. 盆地は農業の地域分化が明らかである.未結果果樹園率からみて,甲府盆地・長野盆地ほど果樹園化が活発でなさそうに思えるから,この地域分化は当分の間存続しそうである.
著者
牛垣 雄矢
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.527-541, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1 1

本稿は,多様な展開がみられる都心周辺地域の都心化について,建物を単位とした詳細で長期的な土地利用の分析よりその歴史的背景を明らかにした.研究対象とした東京の神楽坂地区は,江戸末期では一部を除き旗本屋敷で,現在もほぼ同じ用途地域と容積率に指定されているが,以前に料亭街であった街区は密集市街地を形成していたために,今日でも建築基準法による規定の影響で街区内の建物は低中層である.また,中層化した建物も以前の狭い敷地を承継した建物が多いため,オフィスや住居のみならず飲食業も多く,かえって飲食店街としての性格をより強めている.一方,料亭街が形成されなかった街区では,大規模な建物が建設される余地が残されていたことに加えて,鉄道路線の結節点となった飯田橋駅にも近いことにより,大規模な中高層建築物が建設されてオフィスやマンションとして利用されるなど,都心的な土地利用を形成している.
著者
安田 初雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.16, no.10, pp.657-672, 1940-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
25

It is prevailing rural landscape that Hasagi (trees on which the rice harvest is hanged to dry) spread over on low land in Hokuroku district. In Etigo, Hasagi are distributed all over the main delta plains composed of Agano, Sinano, and Ara-kawa. The plains of Toyama, Kaga, and Hukui that are compound alluvial fans, are dot-ted with regions of Hasagi, throughout all of which regions Hasagi are planted along creeks and foot pathes in a marshy rice field of swampy delta or margine of alluvial fan. No Hasagi are found in mountaineous regions and upper part of alluvial fan. As Hasagi shades the sunshine, there distribute artificial Hasa built after harvest, in the former, where materials for it are obtained near by. In the latter regions, rice crop is layed down to dry directly on the field drained when harvest is finished. Rainy season always visit Hokuroku in September or October as soon as the rice harvest is finished. On this reason how to dry is the most important concern to the farmers in this district. And Hasa is the best. method for this purpose. At marshy land of delta and margine of alluvial fan, alders and ashes are planted as Hasa-gi, for there are no materials to built artificial Hasa. Explanation of figures: Fig. 1 Distribution of dialects meaning Hasa ; Hasa, Haza, Hase, and Haze. Fig. 2 Diffusion of Hasa-gi in Kaitu plain, NE part of Niigata prefecture. Fig. 3 Damaged district by the flood of Oct. 1st, 1917. Fig. 4-7 Diffusion of Hasagi at plains of Kubiki, Toyama, Kaga, and Hukui respectively. Every figures except 1, shades show the density of Hasagi.
著者
武者 忠彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.1-25, 2006-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
3 1

本研究では,松本市中央西土地区画整理事業を事例に,地方都市における中心市街地再開発のメカニズムを制度的環境,都市政治,商店経営者の戦略という三つの視点から分析した.松本市では当初,行政と商店街組織の連携により再開発計画が推進されたが,補助金の削減という財政的要因に加え,個々の商店経営者らの現状維持的な戦略によって再開発は1980年代を通じて停滞した.しかし,大店法緩和を契機に,市長の開発主義的思想に基づく中心市街地への積極投資や行政の大型店対策が都市成長という名目で正当化され,再開発推進体制は再強化された.一方で,商店経営者の戦略は推進体制と必ずしも連動せず,固定資産税の増加などによる商店街からの撤退,テナント賃貸業への転換による商店街への残留,テナントの供給増に対応した新たな経営者の進出など,戦略は多様化した.こうした多様化は,区画整理事業の展開や事業後の商店経営環境の維持にプラスに作用する一方,開発目的を商店街振興から都市成長へとシフトさせ,行政主導の再開発を加速させるという結果をもたらした.
著者
鏡味 完二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-14, 1952-01-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
23

There are many different nominations of mountains in Japan. The author picked up here only the last syllables of the mountain-name. He count, ed More than seventy sorts all in Japan. Among them, “-yama”, “-také”, “-mori”, “-miné”, these four sorts of calling are definitely more frequent than the others. Hence he took in this paper the distribution and meaning oof these four suffixes. This study consists of two parts, the one is title significance and history of these four sorts, and the other is the historical geography of their distribution and meanings. . They are described as follows. “Yama” is the name that has existed from the ancient time throughout the history of the Yamato race. It distributes widely all over the country and are attached to the highest Mountains as Fujino-yama as well as to the lowest hills as are seen everywher. “-Miné” has long a history as “-yama”, since the earliest time of the Yamato race. Many of these names are found in the famous poetical works, such as Mannyo-shyû. But now “-mine” has become less common because it changed its conceptionn into the meaning of mountain-ridge or tower-shaped peak. It does not distribute so widely as “yama” in the whole country, but is found rather densely is the districts that indicate the past Yamato race's domain and decreases in the marginal areas. “Také” is later in its history of development than “-mine”, but its distribution covers the whole country. It may be remarked that “-také” has a linguistic influence from continent. This development of “-také” was taken in the period of Nara dynasty. Having no distribution within the district of “-miné” and “-sen” (“-sen was existed from ancient times as “-miné”), “-také” has a blank area in the district of “-mine” and “-sen”. (Fig. 4) This district coincides with the area of the earlier period of Yamato dynasty. (Fig. 10) And “-také” is found on the rocky mountain. “-Mori” has its origin in Ainu and Korean languages, perhaps the former influence was more definite. These names are almost found on the round topped peaks, and its distribution, according to the Law of Baxter, is made up from three districts as no distribution area in the centre, “-mori-yama” region in the intermediary, and “-mori” region in the outer part of Japan.
著者
千葉 徳爾
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.461-474, 1972-07-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

1) 八重山諸島のマラリアは3日熱のほか,わが国に稀な熱帯熱マラリアを含む.著者はその歴史的消長過程を手がかりとして,風土病についての地域の諸構成要素の連関を分析し,やや詳しい記述を試みた. 2) この地域では,日光の照射を必要とするnopheles minimusが,熱帯熱マラリアの強力な媒介者として山麓の渓流・湧泉に棲息し,近世の開墾の進展と津波災害にもとつく森林の減少にともなって,日光を忌む比較的弱い媒介者, Anopheles ohamaiと交代した.近世中期以後にマラリアによる廃村化が急速に進行した1因は,かような生態的作用系列によると推測される. 3) 八重山諸島のマラリアのEndemicareaに,あえて住民を立入らせ,Pandemicな流行を出現させた作用は,近世から明治中期までは人頭税,太平洋戦中の軍による疎開命令,その後には人口過剰による移民促進という,地域外から及んだ社会的作用系列に属する. Endemicareaの地域的構造は,薬品によるマラリア原虫駆除の完了によっても,なお厳存していて,将来何かの原因でマラリア原虫が導入されれば, Pandemyが再現される可能性がある.
著者
大橋 由美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.591-603, 2008-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿の目的は, 循環型社会構築に向け注目を浴びている自治体レベルでの家庭系生ごみの堆肥化事業について, 今後, 事業を進めていくために何が重要であるかを明らかにすることである. この点を検討するために, 本稿では, これまで堆肥化事業に着手してきたすべての自治体から得られた終了要因と問題点を基に, 事業の終了と継続に関わる要因を考察した. 事業終了自治体では, 施設の老朽化が顕在化したところで, 取組みをやめる自治体が多く, 終了するか否かの決定には, 堆肥需要とコスト負担の問題が影響を与えていた. 需要を左右するのは堆肥の質であり, ここには分別の徹底や排出される生ごみの組成が日々変化するという家庭系生ごみ特有の問題が関係している. 近年, 多くの自治体が事業を開始しているが, これら自治体が施設の更新時期を迎えた時に, 事業を継続できるかは, 需要のあり方を左右する堆肥の質の問題をいかに克服できるかが重要となる.
著者
伊賀 聖屋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.150-178, 2008-05-01 (Released:2010-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
5 7

近年, 新たな食料供給のあり方としてショートフードサプライチェーン (SFSC) が注目を集めている. その主な特徴は, 主体間の近接性や独自の価格形成・保証方式にある. 本稿では, ローカルな場面で酒造業者A・B社が酒米生産者と結ぶ提携関係をSFSCと位置づけ, その形成過程とそれが個々の主体に及ぼす影響を考察した. その結果, 以下の点が明らかとなった. (1) A・B社と酒米生産者の提携関係は, そこでの「個人間の相互作用」と「密な情報交換」に対する各主体の期待が合致することで生み出された. (2) その形成過程では, 主体の積極的働き掛けのほか, 自然食品のネットワークや生産地域内の近隣関係が各主体の思惑を結びつける機能を果たしていた. (3) 提携が主体に及ぼす影響としては, 信頼関係の醸成, ネットワークの進化, 酒造業者による経済的支援, 市場競争力の強化, 生産調達リスクの増加が挙げられ, これら作用をいかに活用ないし克服するかが提携の存立に向けた鍵といえる.
著者
佐藤 英人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.907-925, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
57
被引用文献数
1 5

本研究の目的は, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転を, 従来, 住居移動で議論されてきたフィルタリングプロセスを適用して分析し, 新たに供給されるオフィスビルが, 既存市街地内のオフィスビルに対して, 不動産経営上, どのような影響を与えるのかを解明することである. 分析の結果, 横浜みなとみらい21地区には, 横浜市内から転出した企業が多く, 新旧オフィスビル間にはテナント企業の争奪が認められた. 争奪によって空室となった既存市街地内のオフィスビルでは用途転用が確認され, 公共施設や商業施設への転用が認められた. また, 引き続き事務所として利用されたオフィスビルは, 横浜市内への進出を目指す中・小規模企業の受け皿となっている. したがって, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転は, テナント企業の連鎖移動を誘発させ, 結果的には, 既存市街地のオフィスビルに入居するテナント企業の選別格下げが起る.
著者
山本 健太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.442-458, 2007-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
被引用文献数
8 5 3

東京におけるアニメーション産業の集積メカニズムを企業間取引と労働市場の実態分析により検討した. その結果, 企業間取引の特徴として, 業界内の受外注は短納期であり, 契約内容が明文化されないことが明らかになった. アニメーション制作企業は取引先企業の技術力と支払いに対する信頼を通して取引の柔軟性を得ている. そのため, 企業相互の関係構築が重要になっている. 一方, 労働市場の主な特徴はフリーランサーが業界の主要な労働力になっていることである. フリーランサーは不安定な就業状態におかれているが, 仕事を通じた縦の人的つながりによって技術を修得し, 仕事仲間の横のつながりによって仕事を得ている. したがって, アニメーション産業の東京集積は, (1) 相互間の知識と信頼に立脚した取引が可能となる同業他社との近接性, (2) 柔軟性に富んだ専門的な労働者の確保と再生産が可能な労働市場, (3) スポンサーとなる関連コンテンツ産業の集積, (4) 新規労働者を供給する専門学校などの相互連関により維持されていると理解できる.
著者
杉原 重夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.703-718, 1970-12-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
24
被引用文献数
11 12

下総台地の西部を構成する地形面を,とくに関東ローム層の層序に注目して区分・対比し,台地の地形発達を明らかにした. (1) 関東ローム層をのせる地形面は,上位から下総上位面,下総下位面,千葉第1段丘,千葉第2段丘に分けられる. (2) 下総上位面は海岸平野,下総下位面は海岸段丘又は氾濫原平野,千葉第1段丘,千葉第2段丘は河岸段丘である. (3) 下総上位面,下総下位面の分布状態から,下末吉海進の海が海退に転じた直後の古東京湾中部における古地理を明らかにすることができた.古東京湾の海が南(東京湾方向)と北東(鹿島灘方向)に分化した時期は,少なくとも下末吉ローム層中部のPm-1軽石層堆積以前である. (4) 周辺諸台地との対比をおこなった結果,今まで下末吉面と武蔵野面の2段に区分されていた地形面は, S1・S2・Mの3面に分けられるべきことが明らかになった.このうち台地の主面として広く分布するのは, S1・S2面で,これまでの武蔵野面 (M面)は,ごく狭い地域にしか分布しない.
著者
石川 菜央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.14, pp.957-976, 2004-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
84
被引用文献数
8 3

宇和島地方において闘牛が存続してきた要因を,担い手の生活や行動に注目して分析した結果,以下の3点が明らかになった.第1に,生業における牛の必要性が農民の娯楽としての闘牛を生み出した.ゆえに農業が機械化されると闘牛は消滅した.しかし第2の要因である観光化と担い手の組織化が,これを復活させた.宇和島市・南宇和郡の各組織が観光化と地域の状況に対応しながら大会を維持してきたことは,現在の共存関係につながっているといえる.組織を支える第3の要因として,担い手の中心である牛主や勢子,それを支えるヒイキなどが組織内で育まれていることが最も重要である.彼らは勝負の時だけではなく,牛の世話や飲食など日常生活を通して交流し,確固たる人間関係を築いており,そこから次の担い手が再生産されている.闘牛は伝統行事であると同時に,現在においても担い手の生活の核となり,新たな人間関係を生み出しているのである.