著者
平野 弘道 岡本 隆 服部 幸司
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.157, pp.382-411, 1990
被引用文献数
2

後期白亜紀の北太平洋には, デスモセラス亜科のアンモナイト類が繁栄した。北西太平洋の白亜紀前弧海盆堆積物の一代表とされる蝦夷累層群からは, このデスモセラス亜科のものが多数産出する。これらのうち, 産出頻度の高いセノマニアン期のD. japonicum, D. ezoanum, チューロニアン期のT. subcostatusについて, 主として大夕張および小平地方のサンプルを用いて, 相対成長解析を主たる方法として, 各種の形態進化および各種間の関係を考察した。すなわち, D. japonicumとD. ezoanumは, 各々生存期間を通じて形態の有意の変化はない。T. subcostatusは, D. japonicumと一二の形質を除いて差はなく, 後者から進化したものと考えられる。また, T. subcostatusもその生存期間を通じて形態に有意の変化は無いが, チューロニアン期中頃までに種分化しT. matsumotoi, n. sp.を生じた。D. japonicum, T. subcostatus, T. matsumotoiの進化系統を通じて, 縫合線の長さの螺環断面積に対する相対成長は, 漸次加速されているが, 種分化のつど成体のサイズが減少し, 生息域の東方限界が西方の陸よりに移動した。また, これらの種の分化や絶滅は, 海退・海進や海洋無酸素事変とタイミングが一致することから, このような海洋環境との関係についても論じた。