- 著者
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服部 徹也
- 出版者
- 日本近代文学会
- 雑誌
- 日本近代文学 (ISSN:05493749)
- 巻号頁・発行日
- vol.94, pp.1-16, 2016-05-15 (Released:2017-05-15)
漱石は『文学論』出版に際し、草稿『文学論ノート』、東京帝国大学講義に見られる描写論を増補している。本稿はこの描写論に作品世界への没入体験である「幻惑」が密接に関わることを示した。またこの描写論の理論的課題が視覚性の問題であることを論証し、漱石がこの課題に小説『草枕』でも取り組んでいたことを示した。漱石の描写論は視覚性の問題を探究してはいるが、『草枕』のような作品を読む際に生じる視覚性とイメージ連鎖を説明しきることはできない。読者の認知過程に多くを委ねる『文学論』は、「自己催眠的」な読者の一回的な読みによって暫定的に傍証を得るしかない理論的限界をもつ。本稿は『文学論』と『草枕』の緊張関係を読み解き、漱石が困難を冒して描写による「幻惑」とその理論化に挑んでいたことを示した。