著者
服部 浩一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究で、研究代表者らは、凝固・血液線維素溶解系(線溶系)因子に代表されるセリンプロテアーゼや、膜型あるいは可溶型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)等の各種プロテアーゼの活性化を起点として、骨髄由来の造血系細胞群の腫瘍組織への動員が誘導され、そして白血病・リンパ腫をはじめとするがん組織微小環境―「悪性ニッチ」の構成・形成を通じて、腫瘍性疾患の病態を制御していることを示唆した。また本研究を通じて、研究代表者らは、線溶系阻害剤によるMMP活性と腫瘍増殖の抑制に成功し、白血病・リンパ腫を含めたがん・腫瘍性疾患に対する、線溶系因子を標的とした、新しい分子療法の可能性と有用性を提示した。
著者
服部 浩一
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では、各種生殖細胞系列の分化成熟過程におけるマトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)、血液線維素溶解系(線溶系)に代表されるセリンプロテアーゼ等の各種プロテアーゼ活性の意義及び重要性を理解し、生殖細胞動態制御機構の解明を主目的としている。代表者らは、各種MMP及び線溶系因子プラスミノーゲン(Plg)の遺伝子欠損マウスで、有意な妊娠、出産率の低下を認め、特に後者群について、精巣中の精子数に有意な減少、さらに精巣重量の低下を見出した。代表者らは、この原因として、今年度迄の研究を通じ、Plgの遺伝子欠損マウスでは、テストステロン及び下垂体ホルモン(LH)の分泌に障害があることを見出した。また、Plg遺伝子欠損雄性マウスでは、こうしたステロイドホルモンの分泌障害に基づくと考えられる貧血を呈していること、テストステロン分泌の主体と考えられる精巣中のライディッヒ細胞が有意に減少していることも明らかとなった。加えて各種MMP及びPlgの遺伝子欠損マウスでは、生理学的ストレス刺激時の雄性生殖細胞の分化増殖因子Kit-ligandの細胞外ドメイン分泌に有意な障害のあることが判明しており、これらの各種プロテアーゼ活性が、生体内の生殖細胞系列の分化調節に様々な角度から関与していることが確かめられた。また代表者らは今年度の研究で、各種プロテアーゼ遺伝子欠損マウスについて停留精巣モデルを作製し、精巣重量を経時的に測定したところ、これらの野生型と比較して有意な重量減少と、これに応じた精巣の組織傷害が進むことが判明した。またこの時、遺伝子欠損マウスでは、血中のKit-ligand濃度の上昇が抑制されていること、さらに野生型において、Plgアクチベータの投与が精巣重量の減少を有意に阻害したこと等から、各種プロテアーゼ活性は雄性生殖細胞の分化増殖に寄与し、その再生にも関与していることが示唆された。