著者
権藤 与志夫 馬越 徹 石附 実 西村 重夫 望田 研吾 弘中 和彦 丸山 孝一
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

第一年度においては、留学の効果に関する理論的研究を中心にすすめ、とくに留学経験者個人に対する留学の効果測定のための指標の作成を試みた。それにもとづき留学生送り出し国につてWho´s Whoなどの分析を行い、留学先国、留学先大学、取得学位、専攻分野と留学経験者の就職、昇進などとの関連をみた。さらに、留学経験者の価値意識について、留学国に対する態度、留学の効果に関する意識などについて、特に韓国を中心にして分析した。第二年度では、まず送り出し国における留学の効果について、以下の点に関して分析を行った。第一に頭脳流出の問題に関しては、韓国における頭脳流出対策としての「頭脳還流」政策、あるいは台湾における帰国留国生の増加現象にみられる留学における先進国化の事例が明らかにされた。第二に国による留学の統制的政策の存在とその影響の重要性に関しては、インドなどにおける留学生選抜に際しての政府の影響力のもたらす波及効果を分析する必要性が指摘された。受け入れ国にかかわる留学の効果については、とくに留学生受け入れ大国アメリカに関して、以下の点が明らかにされた。第一に、留学の個人に対する効果については、取得学位、専門分野などの要因によって留学の効果に関する意識に違いがみられる。第二に、高等教育機関に対する効果については、国内学生の減少の補充による経済的効果を高等教育関係者は意識している。第三に留学生受け入れの教育的効果として留学生のプレゼンスによるキャンパスの国際化が期待されていることが、アメリカの高等教育機関の留学生担当者に対する質問紙調査においても明らかとなった。これらの研究を通して、留学の効果・影響の考察においては、とくに留学のコストとの関連において精緻なコストーベネフィット分析の必要性が認識された。