著者
馬越 徹
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,近年,大学の経営力の強化が叫ばれていることに鑑み,大学経営の中枢を担う大学職員に焦点を当て,彼らの職能向上,とりわけ専門職化(プロフェッショナル化)の方法としての大学院教育の役割に注目し,その実態と有効性を検討することを目的とした。その際,この分野で50年以上の歴史と実績をもつアメリカ,日本に先駆けて大学職員を対象とする専門職大学院を立ち上げている韓国の事例と日本のそれを比較研究することにした。研究を通じて得られた知見は以下のとおりである。(1)アメリカでは大学拡張期(1960年代)に大学職員の専門職化が進み,専門職大学院(教育大学院高等教育プログラム)が大量に創設されるとともに,専門職種(トップマネジメント,中級マネジメント)に応じた各種の短期プログラムの開発も行なわれてきた。一方,日本や韓国における職員の職能開発は,大学内および大学団体(協会)などにおける研修事業として行なわれてきたに過ぎない。(2)2000年以後,日本でも大学職員の職能開発のための大学院教育(通信制含む)がスタートしたが,まだ緒についたばかりであり,プログラムや開講形態(夜間,週末,夏季・冬季集中等)の面で改善の余地が多い。(例:桜美林大学・大学アドミニストレーション専攻,名古屋大学・高等教育マネジメント・コース,東京大学・大学経営・政策コース)(3)韓国の場合は,国公私立を包含する大学団体(韓国大学教育協議会)が,大学評価認定制度の運用と連動させて職員研修を体系的に行なってきているが,近年,専門職大学院(教育大学院)における大学職員の教育が本格化している。(亜州大学教育大学院・大学行政管理専攻)(4)これらのケース・スタディに加え,職員研修に関する文献目録を作成し,本テーマに関するデータベース構築の基礎作業をすることができた。
著者
権藤 与志夫 馬越 徹 石附 実 西村 重夫 望田 研吾 弘中 和彦 丸山 孝一
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

第一年度においては、留学の効果に関する理論的研究を中心にすすめ、とくに留学経験者個人に対する留学の効果測定のための指標の作成を試みた。それにもとづき留学生送り出し国につてWho´s Whoなどの分析を行い、留学先国、留学先大学、取得学位、専攻分野と留学経験者の就職、昇進などとの関連をみた。さらに、留学経験者の価値意識について、留学国に対する態度、留学の効果に関する意識などについて、特に韓国を中心にして分析した。第二年度では、まず送り出し国における留学の効果について、以下の点に関して分析を行った。第一に頭脳流出の問題に関しては、韓国における頭脳流出対策としての「頭脳還流」政策、あるいは台湾における帰国留国生の増加現象にみられる留学における先進国化の事例が明らかにされた。第二に国による留学の統制的政策の存在とその影響の重要性に関しては、インドなどにおける留学生選抜に際しての政府の影響力のもたらす波及効果を分析する必要性が指摘された。受け入れ国にかかわる留学の効果については、とくに留学生受け入れ大国アメリカに関して、以下の点が明らかにされた。第一に、留学の個人に対する効果については、取得学位、専門分野などの要因によって留学の効果に関する意識に違いがみられる。第二に、高等教育機関に対する効果については、国内学生の減少の補充による経済的効果を高等教育関係者は意識している。第三に留学生受け入れの教育的効果として留学生のプレゼンスによるキャンパスの国際化が期待されていることが、アメリカの高等教育機関の留学生担当者に対する質問紙調査においても明らかとなった。これらの研究を通して、留学の効果・影響の考察においては、とくに留学のコストとの関連において精緻なコストーベネフィット分析の必要性が認識された。
著者
馬越 徹
出版者
広島大学
雑誌
大学論集 (ISSN:03020142)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.135-155, 1977-03
著者
丸山 文裕 馬越 徹 (1985) 馬越 徹 竹花 誠児 JOE Hicks 山崎 博敏 山下 彰一 HICKS JOE E.
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本研究は、ドーア(Ronald P.Dore)教授の「学歴病(Diploma Disease)」仮説を、アジアの現状に即して検討することであった。すなわち、学歴獲得競争は後発工業国ほど激しく、それゆえに学校教育は本来の教育機能よりも選抜機能を強め、一種の病的症状を呈するという考え方である。われわれは東アジア(中国,韓国),東南アジア(フィリピン,インドネシア,マレーシア,タイ)の各国を対象に検討を重ね、次のような結論を得た。1.アジア各国では、教育機会は拡大しているにもかかわらず、なおそれを上回る上級学校進学要求が根強く存在している。特に大学への進学要求はますます高まっており、競争は激しさを増している。このため、学校教育のすべての段階で「試験」のための教育という圧力にさらされている。」2,国家・社会は、その経済発展政策において、大学卒のマンパワーをますます必要としており、高等教育の拡大に力を入れているが、雇用市場の方は、大卒者を十分に吸収できる条件が必ずしも整っているとはいえない。そのため、大卒失業者が出ている国もある。また、大学教育の内容(カリキュラム)が、社会の要求に合わず、大学と社会の間に不適合現象がみられることが多い。3.いわゆる「学歴病」の克服に、明確な処方箋を発見した国は今のところ見当らないが、上記のような問題を改善するために、各国とも、1)高等教育制度の多様化、2)教育内容・教授法の改革、3)教員のスタッフ・デベロップメントの強化、4)入試制度の改善、5)高等教育財源の増大、などに懸命に取組んでいる。
著者
長島 啓記 馬越 徹 澤野 由紀子
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
日本教育学会大會研究発表要項
巻号頁・発行日
vol.62, 2003-08-20

アメリカやイギリス、ロシア、中国、韓国などの教育から、学ぶことは多い。しかし、そうした国や地域の教育について研究していて、「外国のことを調べているだけで比較になっていない」と言われたことがある者は多いに違いない。そして「日本のことはいつも頭の中にある…」とつぶやいたかもしれない。これまで要因分析法、段階分析法など、比較教育学のさまざまな理論・方法が提唱されてきたが、それらを明確に意識した研究は必ずしも多いとは言えない。だからと言って、成果が上がっていないというわけでもない。世界システム論などの近年の理論・方法は難解でもある。また、研究対象の広がりから、「比較教育学」ではなく「国際教育学」あるいは「比較・国際教育学」という分野も注目されるようになっている。これらの理論・方法という、古くて新しい、また悩ましくもあるテーマに関する意見交換の場としたい。
著者
馬越 徹
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年におけるアジアの大学は、従来の理論(欧米の大学への従属から脱することは不可能とする言説)では説明できない発展相を示している。特に、広義の東アジアの大学は、グローバル化に対応した積極的な戦略を展開してきており、いわゆる「研究大学」が確実に誕生しており、国際競争力を増している。本年度(初年度)は、韓国、マレーシアの事例研究を中心に作業を進めた。まず韓国においては、「頭脳韓国21世紀計画(通称:ブレインコリア21)」(第2期)事業を通じ、ソウル所在の有力大学(ソウル大学、高麗大学、延世大学等)及び韓国科学技術大学等が、国際的大学ランキング(例:タイムズ紙)の上位200校入りを果たしたことに見られるように、研究大学としてのレベルアップが図られている。国家的にも教育科学技術部が打ち出したワールドクラス大学育成事業(WCU)がスタートし、研究大学の強化が図られている。また、マレーシアの場合も、従来から有力大学であったマラヤ大学のほかに、2020年を目途とする国家戦略のもと、マレーシア科学大学(ペナン)、国民大学(セランゴール州)、プトラ大学(セランゴール州)が研究大学の仲間入りを果たし、マレーシア科学大学が国内ランキングの上で、マラヤ大学を追い抜いたことに見られるように、大学間競争が熾烈となっている。これらの大学は法人化されており、ますますのガバナンス改革と競争力強化のための戦略が進行中であることが判明した。同時に、大学の質保証機構としてMQA(マレーシア大学質保証機構)が本格的な活動を開始していることも注目される。