著者
能勢 晶 朝日 輝 小路 博志
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.363-376, 2019 (Released:2023-10-27)
参考文献数
36
被引用文献数
2

①市販の連続蒸留式焼酎の1H NMRスペクトルを25℃と5℃で測定した結果,水分子とエタノール分子のピークが,25%(V/V)エタノール溶液と同様に両温度において別々に存在する焼酎と,25℃では二つのピークが一体化し5℃でのみ分離している焼酎,さらに両方の温度において二つのピークが一体化している焼酎が存在しており,この両方の温度においてピークが一体化している焼酎は水-エタノールの水素結合が全体として他の焼酎よりも強くなっていることも分かった。②①において25℃と5℃の両温度で水分子とエタノール分子のピークが一体化し,水-エタノール分子間相互作用が最も促進されている焼酎は,他の焼酎に比べ炭酸水素イオン含量が高く,ナトリウム,カルシウム,マグネシウムなども多く含まれていた。③炭酸水素イオンには,5℃において水-エタノールのプロトン交換を促進し,同時に水素結合構造を発達させる力があることがわかった。このことは1H NMRスペクトルの半値幅の変化からも確認することができた。この効果は他のNa塩,Ca塩,Mg塩には認められなかった。炭酸水素イオンの存在が,焼酎において水-エタノール相互作用を促進し,水素結合構造を強くしている主な要因であると考えることが出来た。④官能評価の結果,炭酸水素ナトリウムが15%(V/V)のエタノール水溶液に存在することで「甘味」を強く感じ,「アルコール刺激」が低減することが示唆された。⑤割水用水に含まれていると考えられる炭酸水素イオンは,連続式蒸留焼酎の水-エタノール相互作用の強さに影響を与え,アルコール刺激の低減という効果を持っていることが示唆された。