著者
北條 正司 能勢 晶
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.171-181, 2008 (Released:2008-03-24)
参考文献数
43
被引用文献数
2 1

アルコール飲料中における水-エタノールの水素結合の特性は十分には解明されていない.本研究中では,水及びエタノールのOHの1H核磁気共鳴及びラマン分光データに基づき,水素結合構造性に及ぼす要因を研究した.酸類(H+及び解離していないHA)だけではなく,塩基類(OH-及び弱酸からの共役塩基A-)が水とエタノール間のプロトン交換を促進するとともに,水-エタノール混合媒体の水素結合構造性を強めていることが明らかになった.酒類(ウイスキー,日本酒,焼酎)中においても,溶存する化学成分によって,水素結合性が強められていることが実証された.酒類又はアルコール飲料中において,元々含まれていたか,又は後に獲得された成分である水素結合供与体及び受容体が水とエタノール分子間のプロトン交換速度を促進すると示唆された.
著者
能勢 晶 朝日 輝 小路 博志
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.363-376, 2019 (Released:2023-10-27)
参考文献数
36
被引用文献数
2

①市販の連続蒸留式焼酎の1H NMRスペクトルを25℃と5℃で測定した結果,水分子とエタノール分子のピークが,25%(V/V)エタノール溶液と同様に両温度において別々に存在する焼酎と,25℃では二つのピークが一体化し5℃でのみ分離している焼酎,さらに両方の温度において二つのピークが一体化している焼酎が存在しており,この両方の温度においてピークが一体化している焼酎は水-エタノールの水素結合が全体として他の焼酎よりも強くなっていることも分かった。②①において25℃と5℃の両温度で水分子とエタノール分子のピークが一体化し,水-エタノール分子間相互作用が最も促進されている焼酎は,他の焼酎に比べ炭酸水素イオン含量が高く,ナトリウム,カルシウム,マグネシウムなども多く含まれていた。③炭酸水素イオンには,5℃において水-エタノールのプロトン交換を促進し,同時に水素結合構造を発達させる力があることがわかった。このことは1H NMRスペクトルの半値幅の変化からも確認することができた。この効果は他のNa塩,Ca塩,Mg塩には認められなかった。炭酸水素イオンの存在が,焼酎において水-エタノール相互作用を促進し,水素結合構造を強くしている主な要因であると考えることが出来た。④官能評価の結果,炭酸水素ナトリウムが15%(V/V)のエタノール水溶液に存在することで「甘味」を強く感じ,「アルコール刺激」が低減することが示唆された。⑤割水用水に含まれていると考えられる炭酸水素イオンは,連続式蒸留焼酎の水-エタノール相互作用の強さに影響を与え,アルコール刺激の低減という効果を持っていることが示唆された。
著者
能勢 晶 濱崎 天誠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.362-370, 2016 (Released:2018-07-13)
参考文献数
16

清酒製品の着色は,品質劣化の大きな要因であることから,製造者及び販売店は輸送時や店頭での着色増加が起こらないよう大きな注意を払っているのが現状である。 着色反応は温度の影響を最も大きく受けるが,今回,割水由来のフミン酸が存在すると,低温下でも蛍光灯の光により徐々に着色が進行し品質が劣化していくことが著者らによって見出された。 最近は,出荷前の瓶貯蔵が多くのメーカーで行われており,店頭での陳列時と合わせて,蛍光灯の光を受ける機会が増えてきており,当事者の知らない間に着色が進行していることが考えられる。醸造用水の環境悪化による有機物の混入も多くなってきていることから,フミン酸による着色現象や着色機構,品質への影響等について解説して頂いた。熟読をお勧めしたい。
著者
岩野 君夫 三上 重明 福田 清治 能勢 晶 椎木 敏
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.200-204, 1987
被引用文献数
6

焼酎白麹の各種酵素生産に及ぼす製麹条件の影響について検討し次の結果を得た。<BR>1.白麹菌は40℃においてAAase, GAase, TGaseおよびRSDの生産が大であり, 酸の生産は30℃, 35℃で大であった。APaseとACPaseの生産は製麹温度の影響が少なかった。<BR>2.白麹菌は精米歩合が90%以上の白米で酵素生産が大であり, 精米歩合が85%以下になると急激に酵素生産が低下する。特にAAase, GAase, ACPaseおよびTGaseでこの傾向が大であった。<BR>3.白麹菌の酵素生産に及ぼす吸水率の影響は製麹原料が破砕精米とコーン・グリッツでは少なく, 麦類では大きく, 吸水率が40-50%と高いほど酵素生産が大であり, 酸の生産も大きかった。<BR>4.白麹菌の酵素生産は菌体量と極めて高い正の相関関係が認められた。<BR>5.米焼酎仕込みにおける麹歩合を酵素活性の面から検討し, 白米1g当りAAaseが約20単位, GAaseが約33単位ほどが必要酵素量でないかと推論した。<BR>最後に臨み, 本研究の遂行に当り御指導を賜わりました当試験所中村欽一所長に深謝致します。