著者
加藤 航平 武山 佳洋 木下 園子 岡本 博之 前川 邦彦 森 和久 成松 英智
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.399-405, 2013-07-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

【背景】一般に骨折のスクリーニングにおいて血液検査はあまり有用ではなく,その意義は主に合併する疾患や既往のための検査である。我々は骨折と血清D-dimer値(DD)の関連について調査し,その診断的意義について検討した。【仮説】DDの上昇は,多発外傷を伴わない鈍的外傷患者において骨折と関連がある。【方法】2008年1月から2010年2月までの約2年間に市立函館病院ERに搬入された症例を後ろ向きに検討した。鈍的外傷患者で,DDを測定された症例を対象とした。このうち専門医による最終診断が得られない症例,受傷から24時間以上が経過している症例,多発外傷,頭蓋内損傷,大動脈疾患,最近の手術歴がある,膠原病・麻痺・血栓症の既往,悪性腫瘍のある症例を除外した。最終診断名から骨折群と非骨折群に分類し,年齢,性別,ER(emergency room)における初期診断,専門医による最終診断,搬入時のDDとの関連について後ろ向きに検討し,ROC解析からそのcut-off値を計算した。【結果】対象となった341例中210例(61.6%)が骨折群,131例(38.4%)が非骨折群に分類された。骨折群は非骨折群に比較して有意に高齢であった(61±23 vs. 49±23 歳, p<0.01)。DD(μg/ml)は骨折群で有意に高かった(DD, median(IQR): 8.4(3.0-24.9)vs. 1.4(0-3.1),p<0.01, ISS, mean±SD: 7.4±3.9 vs. 2.8±2.6, p<0.01)。ROC(receiver operating characteristic)解析からROC曲線下面積は0.81(95%CI 0.77-0.86)で最適なcut-off値はDD ≥4.5μg/mlで,感度69.0%,特異度84.7%,陽性的中率90.6%であった。【結論】骨折群では非骨折群と比較してDDは有意に上昇しており,診断の参考指標として有用と考えられた。今後さらなる検討が必要である。