- 著者
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松山 敏剛
松隈 敬太
塚本 直樹
柏村 正道
柏村 賀子
木寺 義郎
岩坂 剛
井上 功
杉森 甫
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.2, pp.196-202, 1982-02-01
1973年より1980年までの8年間に,広汎性子宮全摘術を施行した396症例中,術後摘出標本の子宮頚部亜連続切片の病理組織検索で,初期浸潤癌,あるいは,それより軽度の病巣しか認めなかった症例62例を発見した.これらの症例は術前,浸潤癌と診断して(Ib期54例,IIb期8例)手術を行なったにもかかわらず,実際は初期浸潤より軽度の病巣しか無かったわけで,術前の生検診断の誤りと考えざるを得ない.そこで術前の生検標本を再検討した結果,生検標本を誤まって真の浸潤癌と診断した原因として,1.腺管内侵襲を深い浸潤と間違った.2.標本がtangentialに切れているために浸潤と間違った.の二大原因が考えられた.さらに,生検の小切片のみでは,浸潤癌であることは診断できても,それが初期浸潤であるか,真の浸潤であるかの鑑別は困難であることが多いことも判った.そこで,同時に行なった細胞診,コルポ診の診断を調べてみると,いずれか一方が真の浸潤癌を否定した症例は44.2%,両者共真の浸潤癌を否定した症例は37.2%であった.少なくとも,コルポ診,細胞診共に真の浸潤癌を否定し,生検のみ真の浸潤癌と診断した場合は,円錐切除診を行在い,over diagnosisを防ぐべきであったと考えられた.癌の診断における生検診断のover diagnosisの可能性については過去にあまり注目されていないが,前述した様な可能性を考慮に入れて,臨床医は生検診断を鵜呑みにせずに,細胞診,コルポ診,臨床所見を総合して,疑問があったら積極的に円錐切除診を行なう態度が必要であろう.