- 著者
-
木村 惠子
- 出版者
- 日本教科教育学会
- 雑誌
- 日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.3, pp.19-28, 2008-12-25 (Released:2018-05-08)
生活算術は大正末期から昭和初期にかけて展開された教育運動であり,わが国の算術教育が現代性を獲得する過程で注目すべき実践の総体である。しかし,生活算術の全体像は今日においてなお明確にされているわけではない。本稿は生活算術の全体をとらえるための基礎的研究として,生活算術実践家の一人である藤原安治郎の実践に焦点をあて,その実践の具体的様相を理解しようとするものである。本稿では大正末期から昭和初期の藤原の算術教育実践について,「生活」,「数理」,及び両者の関係を中心に時系列的に検討した。その結果,藤原の算術教育実践は「生活」から「数理」を切り離してそれぞれを独立してとらえる過程で,両者を結びつける統一原理として「函数観念」が意識され,「生活」と「数理」は循環作用をもつものとなった。更に「数理」を中心概念として「生活」をとらえ,「数理」の会得が生活力の基礎であると主張するに至っている。このような変容の過程は4つの時期に区分できた。