- 著者
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木村 朗子
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.4, pp.16-27, 2011 (Released:2016-12-09)
本発表では、中世社会の信仰がどのようなイマジネーションに支えられ、どのようなものを幻視させるのかについて考えてみたい。ジュリア・クリステヴァは近著、Cet incroyable besoin de croire (Bayard, 2007) [This Incredible Need to Believe, 2009] で、信じること、信仰することについて論じ、信じるということは、それを真実と捉えるという意味だと述べている。多くの場合、宗教的な信仰は、とても信じ難いエピソードの集積の上に成り立っている。さらに、その真実性を補強するために経験譚や目撃譚などがあらわれる。信憑性への希求が結果としてますます信じられそうもないエピソードを上重ねしていくことになる。とくに信憑性をめぐるエピソード群は、一般に正典化されたものにたいして、外典的なものを派生させていく。正典は、外典を排除しようとするが、かえって外典的なものがさらに強い信仰に支えられて生き延びさせてしまう。本発表では、外典的エピソードのなかから、それらの体験という想像における見ることとしてのヴィジョナリーをめぐってうみだされた物語の視覚的イメージと語りとの関係について考える。