著者
佐藤 千佳 辻 まゆみ 木村 謙吾 小口 勝司 中西 孝子 舟橋 久幸 齋藤 雄太 植田 俊彦 小出 良平
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.450-457, 2015 (Released:2016-01-23)
参考文献数
30

生直後から12日齢まで80%酸素にて飼育した未熟児網膜症モデルラットと以前,報告された高酸素負荷による酸化ストレス誘発性脳障害モデルと比較し,未熟児網膜症モデルの酸化ストレス誘発性脳障害モデルとしての有効性について検討した.出生直後より12日齢まで80%高酸素負荷ラット(P12)およびその後大気中に移動し24時間飼育したラット(P13)は,脳(海馬)を摘出した.海馬の凍結切片を作製し,DNA酸化損傷マーカーである8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)を免疫染色し,局在を確認した.また,ホモジェネートを作製し,酸化ストレスマーカーであるreactive oxygen species(ROS),脂質過酸化物(malondialdehyde: MDA),酸化型グルタチオン(GSSG)量を,RT-PCR法によりO2-を酸素と過酸化水素へ不均化する酸化還元酵素Cu/Znsuperoxidedismutase(SOD)mRNAを測定し,記憶や学習に関わる海馬への酸化ストレスを確認した.さらに,ROSを積極的に産生する酵素type 4 nicotinamide adenine dinucleotide phosphate(NADPH)oxidase(Nox4)mRNAを測定し,Nox4の役割について考察した.8-OHdGはコントロール群に比べて,高酸素負荷終了直後(P12)増加していた.特に,CA1,CA3,歯状回(DG)では8-OHdG陽性細胞数の増加は顕著だった.P12海馬内ROS,Cu/Zn SOD mRNA,GSSG,MDA量は高酸素負荷群でコントロール群に比べ有意に増加しており,P13でも同様の結果を示した.P12での海馬内酸化ストレスの結果はこれまでの報告と一致していた.海馬Nox4 mRNAはコントロールに比べP13の酸素負荷群で2.7倍となり,相対的低酸素状態(脳虚血)から低酸素状態への適応(再灌流)による神経変性を増悪する可能性が示唆された.ラット脳,網膜などの神経組織が成熟する生後12日(P12)まで高酸素投与を継続する未熟児網膜症モデルは本研究により初めて酸化ストレス誘発性脳障害モデルとしても応用可能であることが示された.