著者
木村 辰男
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.269-291, 1963
被引用文献数
1

(1) 等運賃線は,運賃の地域的構造を示す一つの有効な方法である。そしてその構造は場所によって非常に変化し,かならずしも模式的な同心円にはならない。(2) 鉄道車扱貨物運賃の複雑な構造は,わが国の鉄道で現在行なわれているさまざまの制度や,大都市・地形による路線の迂回に基づくものであり,とくに前者の制度的な要因は重要な意味をもっている。(3) トラック貨物運賃の構造は比較的同心円状を示すが,山地では迂回も多くなり,運賃構造もいくぶん不規則になる。鉄道のような制度的要因に左右されることはほとんどなく,主に地形による道路網分布の疎密に左右される。しかし全般的に鉄道に比べれば規則的である。(4) 末端運送の諸掛りを考慮に入れた鉄道運賃とトラック運賃の構造をつき合わせることによって,両交通機関の運賃競争力の分界線が得られる。これは貨物の種類によって変動し,また都鄙の度合いによって差異のみられる鉄道諸掛りや,トラック運賃のダンピングの程度によっても変化する。(5) この分界線は種々の地理的意味をもっており,鉄道・トラックの運賃構造の結節地域を画定する。また,これは交通機関選択の重要な基準になり,両交通機関の競合・補完の問題を中心にして,交通地理における運賃のダイナミックな一つの側面を示しているものといえる。(6) しかし現実における交通機関の選択に際しては,運賃ばかりでなく運送速度その他の運送のサービスの質的な面についての諸考慮もあわせて行なわれる。運賃を当面の課題として取り上げた関係で,本稿ではこれらの問題を一応見すごすことにするが,個々の貨物の動きと運賃その他の運送のサービスなどとの関連については,今後の考察にゆずりたい。(7) 本稿では車扱運賃だけを対象にしたが,近時における路線トラック事業の進展は,むしろ小口扱においての鉄道・トラックの競合関係が強くみられるから,小口扱貨物運賃の検討も必要である。(8) 最近は経営合理化の観点から,鉄道貨物取扱駅の大幅の整理と,それに伴う貨物集約輸送体系の新しい組織化が進行しつつあり,これに伴って運賃構造にも大きな変化がもたらされようとしている。これについては,貨物運賃構造の図示法の問題とも関連して,今後の検討がなお必要である。