著者
末次 有加
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.213-232, 2012-06-15 (Released:2013-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
2

本稿は,ある公立保育所における発達障害とされる幼児への「特別な配慮」の実践に着目し,その実践がどのようなものであるのか,また,その実践がその場全体にいかなる意味や影響をもたらしているのかについて検討することを目的としている。その際,健常児同士のトラブル場面と発達障害児と健常児の場面を取り上げて比較し,それぞれへの保育者の対応の違いを明らかにする。分析の結果,以下の二点が明らかとなった。 第一に,発達障害とされる幼児への「特別な配慮」は,最初からそれとして行われるのではなく,その場の人々の相互作用を通じて状況依存的・協働的に作り上げられていくものであるということである。 第二に,障害のある幼児への「特別な配慮」の実践は,その子どもをクラス内で可視化・差異化する実践であることが観察可能となった。しかしながら,それは,クラス集団から障害児を切り離す実践というよりもむしろ,健常児と障害児との間にある差異を双方に確認させ,両者の関係を媒介するような働きかけとして行われていたのである。 以上の知見は,従来の医学・心理学的アプローチにおいて提出されてきた子どものニーズを実体的・抽象的に把握してなされるような「特別な配慮」とは異なる。加えてそれは,健常者と発達障害者とのコミュニケーションのありようを再考していく契機となりうるものであると考える。