著者
本多 昇 岡崎 光良
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.20, 1962-09

1)水田地帯で約70cmの厚さに盛り土した葡萄園に1949年3月に栽植されたキヤンベル種葡萄で栽植距離18×1.8mにて一文字仕立(双腕コルドン)に整枝されたものについて1959~1961年にわたつて早期落葉の発生状態を調査し,若干の考察を加えた.2)キヤンベル種葡萄の萠芽期は4月中旬,開花期は5月下旬,硬核期は7月中旬,収穫期は8月中旬である.10~11節で摘心された本梢葉について7月から8月末におこる早期落葉を主とし,その発生率について調査した.ほゞ9月上旬までは,先づ葉身が葉柄との接着点から離脱するがそれ以後は概して葉柄を着けた葉身が葉柄の基部から離脱する.3)先づ樹勢別3区の平均の落葉率についてみるに1958年の7月末,8月末及び9月末日の累加落葉率はおのおの4.7,22.0及び44.3%である.ところが1959年には落葉期が著しく早くなり7~9月の各月末の累加落葉率はおのおの21.1,71.6及び88.6%となつた.その後1960年9月15日には累加落葉率が87.1%であり,1961年には8月31日に87.3%であるように連年落葉の時期が早くなつて来ている.4)1959年に前年に比し早期落葉が急増したことについては1953年に暴産したため樹勢の弱つたこと,1959年7月中旬の窒素肥料追肥によつて副梢の暴発及びおそのびによることが認められるほか,双腕コルドン整枝が誘発するT/R率のアンバランスの危期に到達したためと推定される.5)1958年及び1959年には強>弱>中勢区の順に早期落葉が顕著であつたのは,この両年には強勢区の樹では特におそ伸びにより,生長週期が乱されることにあるようである.然るに1960,1961年には早期落葉の順位が弱>強>中勢区になつたことについては,強勢区の樹勢がおさまつたこと,弱勢区では連年衰弱の程度が甚だしいことによると思われる.6)1961年における早期落葉には明らかに3つの波相がみとめられた.7月24日をピークとする第1の波相では弱勢区が特別に顕著であり,強・中勢区ではともに顕著ではない.8月3~7日をピークとする第2の波相は第1,第3の波相よりも著しくはない.第2の波相では強勢区の落葉が特に著しい.8月21日をピークとする第3の波相は中勢区が特に顕著であり,強勢区はそれに半ばし弱勢区ではさほど著しくない.7)弱勢区では根群が極めて浅いために梅雨あけ直後即ち7月中旬の乾燥によつて落葉が誘発され,またそれによつて連年の「樹力」の衰退度が急速である.1961年においてさえ強勢区の繁茂度(単位面積当りの葉面積)は中勢区の1.71倍であることは8月上旬に至つて吸水量のアンバランス,日照不良の度をますこと,又は葉中の苦土含量も低めとなること等により落葉が誘発されるものと思われる.中勢区はその生育相が最も適正ではあるが結果性が高いために暴産に陥り易く,かえつて収穫期にはなはだしく落葉する.このことは果実1kg当りの葉面積の小であること及び前報した如く収穫直前に起る8月上・中旬の光合成能の激減と関連していることは興味がある。
著者
本多 昇 岡崎 光良
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.57-60, 1959

(1)本実験では overlimingによるクリの生育抑制が燐の吸収減退に由来するや否やについて実証した.花崗岩風化土壌18KgとN.P.Kおのおの1g宛を入れたワグネルポットを用い,St区(標準区)とCa区(消石灰18.9gを混入)との外に,St-P区,Ca-P区などの無燐酸区, Ca区に対し2倍量又は3倍量の燐酸を施与したCa+2P区,Ca+3P区などの6区を設けた. 1ポット当り2本宛のクリの実生を5月14日から10月17日の間栽培した後掘上げて調査した. (2)クリはoverliming又は燐酸無施与による燐吸収減退によつて生育を制限されない.クリの燐要求度は小であり(標準区の風乾葉中P含量は0.106%),葉中のP含量が0.062%となつても(St-P区及びCa-P区)燐欠乏症状が見られない。
著者
本多 昇 岡崎 光良 藤原 重彦 中尾 宏量 渋鍬 啓
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.37, pp.27-41, 1971-03

1.1964年6月15日および8月1日に,岡山県山陽町でMuscat Bailey Aの28園について採葉して葉分析をおこなった. N含量については6月15日に2.63%(100)であったものが8月1日には2,16%(82)となっていることは不当な栽培法によるものと思われる. Mg含量は6月15日に0.19%(100),8月1日には0.33%(174)であるから,本品種は6月15日に"早期潜在的苦土欠乏"に陥っているということができる. 2.8月29日から10月16日までに4回にわたり,葉の片側から,その下方と上方から合計4切片(1切片当り1cm2)を打ち抜いた. 10月29日現在無処理の半面と他の半面との間でN,P,K,CaおよびMgの含量については,Ca以外にはほとんど差が認められなかった. 3.8月29日,9月29日および10月29日の葉内N含量は2.11%(100),1.90(90)〔100〕および1.49(71)〔78〕であって,10月末までに葉中N化合物が樹体内に移行する量は多くはない. Kは9月下旬の多雨による溶脱のためか,9月29日に1.10%〔100〕となったが,10月29日には1.87%〔170〕となった. 9月29日から10月29日の間のMg葉量の増大率(66%)はCaのそれ(21%)より大である. 葉内P含量は9月15日から10月29日の間でほとんど差がない. 4.10月29日現在,クロロシス発現葉の右側半分および左側半分の脈間部のMg含量は0.34%および0.30%であったが,健全葉のそれらは0.40%および0.33%であった. Muscat Bailey AのMg欠乏症発現についての8月の葉中Mg含量の安全限界濃度は0.30%と推定された。
著者
本多 昇 岡崎 光良
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.5, pp.10-19, 1954-09

1,栗を含む14種果樹の葉汁のPH及び緩衝能を測定し植物生理上二三の考察を行つた. 2, initial PHが5.2~6.2の間にあつて最も普通の酸度を示すもの8種, PH6.54~7.13のものは菓子胡桃,ペカン,無花果の3種,PH3.21~3.69のものは欧州葡萄,間生葡萄,梅の3種である. 3,果樹は作物に比し緩衝能が極めて大である.PH4.6~4.8とPH6.4~6.6に於けるBuffer-indexと反応抵抗性との相関は認められない. 4, initial PHを中心として酸性側に於て日本栗が14種果樹中最も緩衝力が弱いが initial PHから0.2PH単位の巾の酸性側の Buffer-index(A)に対するアルカリ性側の同様なBuffer-index(B)の比較(B/A×100)は最も大である. 5,14種の果樹を Buffer-index curveにより酸性側の緩衝能の最も強い第Iグループ(L型カーブ)に属する夏橙,温州及び梅,第IIグループ(ほぼL型カーブ)に属する欧州葡萄,枇杷,桃,無花果,間生種萄葡及びオリーブと酸側緩衝能は最も弱いがアルカリ側の緩衝能が大で-U型カーブを示す第IIIグループに属する果樹即ちペカン,菓子胡桃,日本栗,柿,支那栗とに大別出来る. 6,日本栗と支那栗,間生種葡萄と欧州葡萄,温州と夏橙に於ける如くPH3.5~4.0と3.0~3.5に於けるカーブの型により各種間に大差が見られる. 7,アルカリ側に於ても日本栗と支那栗の Buffer-indexに大差がある.又日本栗がPH7.0~7.5にて14種果樹中最大の緩衝能をもち,且つPH6.83及び7.46に於てTitration curve上特異な変曲点をもつ.8,以上の諸事実は種によるメタボリズムの特性を示唆するものである。
著者
本多 昇 岡崎 光良
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.37, pp.17-26, 1971-03

1.高地温が光合成におよぼす抑制的効果について研究するために,1966年にコイトトロンに入れた鉢植えのブドウの地温を,流水によって冷却することより,たとえば気温は35℃にかかわらず地温を約28℃とした. さらに,第1日目には25℃区と40℃(鉢冷)区として処理した両ポットを翌日は25℃のコイトトロンに入れ高温が光合成におよぼす後作用について評定した. 2.Campbell Earlyの25℃:30℃:35℃(鉢冷)区の光合成能は533.8mg/㎡/h(100):209.7(39):367.1(70)であり,Muscat of Alexandriaについては同じ順序で,それぞれ497.8mg/㎡/h(100):202.8(40):312.2(65)であった. 3.Campbell Earlyの初日の25℃:40℃(鉢冷)区の光合成能比数は100:32であり,翌日の同順序の光合成能比数は100:75であるから高温の後作用が判然した. Campbell Earlyと同様に処理したMuscat of Alexandriaについては,初日の光合成能比数が上述の順序で100:14であるが,翌日は25℃区の光合成能が,Campbell Earlyの場合を考慮すると,期待に反して低かったために100:143となった. 4.高温の光合成に対する抑制作用を緩和するために,試験の前週にアスコルビン酸1,000ppm,アデニン20ppm,ビタミンB12100ppmの混合水溶液を4回散布したところ,この期待はCampbell EarlyならびにGros Colmanについてかなり満足された. (第3表) 5.ガラス室のMuscat on Alexandriaの地植えされたもの(90×180×45cm)では,対照区と散布区で,晴天で極めて暑い3日間の平均では,光合成能比数が100:324であったが,曇ったかなり暑いある1日には同様の比数が100:109であった. 前述の混合水溶液(Vitamin B12を除く)を土壌施与することは散布法よりも効果が劣るようである。