著者
泉本 勝利
出版者
岡山大學農學部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.85-95, 2010-02

食肉生産はコストと労力がかかり、比較的高価な食品素材である。食肉は栄養的価値のみならず嗜好的にも優れ、人気の高い食品素材である。明治時代以降、肉食禁止令が廃止され、政府も奨励した結果、消費量が増加した。近年、飽食、グルメ時代といわれる一方、自給率低下など日本の危うい食事情について危惧されている。食品の選択は栄養価などよりも、まず嗜好性、美味しさが最優先されていることからも、食品は量的確保のみならず品質の良いことが要求される。品質劣化で廃棄されれば負の生産になってしまう。食品は嗜好性、栄養分、安全性、経済性などが総合的に判断されて消費者に選択される。「これらのうち嗜好性が最も受諾性に影響する。」といわれるが、日本に限らず世界史は食糧難の歴史であり、つい最近まで供給側が経済的に有利であった。この状況では量が優先され、消費者は粗悪品でも甘受せざるを得なく、品質の向上について意識的に取り組まなくても済んでいた。近年、少なくとも先進国では食料の生産性、保存技術の飛躍的進展によって、量の確保は十分に行えるようになった。すると、需給関係は逆転し、経済的に消費側が有利になっており、際限なく品質への要求が高くなっている。本稿は食品とくに食肉の品質について述べる。本稿では食肉の品質について焦点をあて、まず、評価と管理について説明する。続いて、色調品質の特性解析と管理の自動化、テクスチャー品質のヒューマンインターフェース、安全性に関わる事項のヘムタンパク質による細胞DNA損傷の抑制、機能的品質に関わる亜硝酸を使わない発色およびACE(アンジオテンシン�T-変換酵素)阻害活性について述べる。
著者
須藤 浩 内田 仙二 金田 清
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.41, pp.61-68, 1973-03

7月2日植えつけのサツマイモについて,飼料的利用の角度から,ツルとイモの収量を9月28日から11月25日の間6回収穫してその成分と収量を調査するとともに,ツルのサイレージをそれぞれの収穫の時期につくり,その品質ならびに飼料養分を調査した. 1)イモヅルによる養分の最大収穫期は,10月29日で,イモの最大収穫量の期日は11月10日であった. 飼料としてツルとイモの両者を利用する場合は,10月末~11月初旬に収穫するのがよいことになる. 2)収穫調査6期の材料で,イモヅルサイレージを調製したが,でき上がりサイレージの品質は,時期による差はほとんどなく,いずれも良質のものが得られた. 3)イモヅルサイレージのヤギによる消化率は,材料が10月中旬までのものが,下旬以降の材料からつくったサイレージに比較して少しく高かった. 10月19日以前の3期のサイレージの有機物の消化率は70%程度で,10月30日以降の3期のサイレージの有機物の消化率は65老程度であった. 4)ヤギとウサギによるサイレージの消化率は,本実験の前半のサイレージでは,ヤギがウサギにまさる消化率を示したが,後半では,余り差がなかった. 粗繊維の消化率は,いずれもウサギがヤギより低かった. 5)10アールあたりの圃場から生産されるイモヅルそサイレージを調製する場合TDNの収量からみて,10月下旬に収穫するのがよく,イモの収量もあわせて考える場合は10月末~11月初めに収穫するのが適当と推察された. 6)イモヅルのプロビタミンA含量は,生育が進むにつれて,その含量は低下する. 埋蔵中に失われるプロビタミンA盤は,極端に遅い期の材料のものを除いては,11~25%程度であった. 埋蔵期別による明確な差異は認められなかった。
著者
中村 怜之輔 風岡 三信
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.27-36, 1977

現在わが国のバナナ消費量の85% を占めるフィリピン産Cavendish種バナナの流通経路を次の3段階に大別し,温度条件を中心にして輸送環境を追跡調査した. 1)プランテーション→輸出港(フィリピン) トラック輸送を含むこの工程での箱内温度は気温付近の25~28℃で,冬期にはこの工程で高温の影響を受けることはないと思われる. しかし,滞荷が生じるとパッキング・ハウスや桟橋で直射日光にさらされて,果実温度が一時的に30℃を越えることが予想される. とくに夏期には注意が必要であろう. 振動は輸送距離が短かい割には回数が多く,また3G以上の強振動が日本国内の通常の輸送状態の場合と比較してかなり多かった. 2)海上輸送(ダバオ→大阪) 5000トン級バナナボートで,目標温度13.5℃,5日間で低温輸送した. 3Aホールドでは冷却速度が遅く,大阪到着時にも14.5℃で目標には達しなかった. 一方,4Bホールドでは50時間後には目標に達し,その後も低下して12℃に至った. 今回は低温障害の発生はみられなかったが,危険性は十分にあり,今後船内での過冷却については十分注意する必要があろう. ホールド内湿度は荷積後数時間後には95% RHになり,以後そのまま保たれた. また大阪到着時のホールド内空気組成は酸素19.4% ,炭酸ガス0.20であった. 船の動揺による振動加速度は,使用した加遠度計では記録されなかった. 3)輸入港→追熟加工業者(日本) 大阪港→出雲市(バン・トラック),神戸港→米子市(二重シートがけ)の2回のトラック輸送を行なった. 峠を越える時点で,外気温は一時的に約0℃にまで低下したが,箱内温度はほとんど影饗を受けなかった. また振動は比較的少なかった。
著者
後藤 丹十郎 石井 真由美 藤原 一毅
出版者
岡山大學農學部
巻号頁・発行日
no.100, pp.25-29, 2011 (Released:2012-12-03)

ブプレウルム(Bupleurum rotundifolium L.)は,種子のロットによって発芽や生育が異なることが生産上大きな問題となっている。本実験では種子のロット(No.021793,025090,026247,027668)および採種時期が生育,発芽および開花に及ぼす影響を調査した。ロットによって発芽率は異なった。発蕾および開花は025090で最も早く,026247で最も遅く,027668と021793はその中間だった。自家採種種子は採種時期により発芽が異なり,6月中旬から7月上旬の高温期に採種した種子は発芽率が著しく高かった。しかし,高温期採種種子は著しく開花が遅れ,節数が多く,切り花品質が低下したのに対し,低温期採種種子は開花が早く,切り花形質が優れる傾向があった。種子のロットによって生育や開花が異なった。親個体のロットによる違いがほとんど認められなかったので,採種種子の性質の違いは親個体のロットによる違いよりも採種時期の環境条件の方が大きく影響していると考えられた。
著者
松浦 健二
出版者
岡山大學農學部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.73-79, 2005-02

ヤマトシロアリの配偶システムと単為生殖に関する最新の研究結果をレビューした。まず、シロアリの生活史について述べ、特に群飛から異性探索、そしてコロニー創設に至るまでの行動特性に関する新たな知見について述べた。ヤマトシロアリの雌の有翅虫は、群飛後に雄と配偶できなかった場合、単独、または二雌の共同でコロニーを創設し、単為生殖により繁殖することが明らかになった。単為生殖で産まれた子は、わずかな卵期間の延長を除けば、有性生殖の子と同様に正常発育する。染色体観察およびマイクロサテライト遺伝子解析により、ヤマトシロアリの単為生殖では末端融合型のオートミクシスにより二倍体に核相回復することが示された。さらに、単為生殖の進化に必要な条件、単為生殖の伴う遺伝的・発生的制約に加え、生態学的制約について考察した。
著者
牛島 幸一郎
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.85-90, 2005-02

Self-incompatibility(GSI) in the rosaceous species is controlled by the S locus consisting of S-RNase gene and an unidentified 'pollen S' gene. A~200kbp of cosmid contig for the Sc haplotype of almond was constructed. Genomic Southern blot analyses showed that most cosmid end probes, except those near the Sc-RNase gene, cross-hybridized with DNA fragments from different S haplotypes, implying that the cosmid contig extends to the borders of the S locus. A~70kbp segment of the Sc haplotype, the S haplotype-specific region containing the S-RNase gene, was complentely sequenced. This regin was found to contain two pollen-expressed F-box genes that are likely candidates for pollen S genes. One of them, named SFB(S haplotype-specific F-Box protein), was specifically expressed in pollen, and showed high level of S haplotype-specific sequence polymorphism, comparable to that of the S-RNases. The other is unlikely to determine the S specificity of pollen, because it showed little allelic sequence polymorphism and was expressed also in pistil. Three other S haplotypes were cloned and the pollen-expressed genes were physically mapped. In all four cases, SFBs were physically linked to the S-RNase genes, and were located at the S haplotype-specific region, suggesting that the two genes are inherited as aunit. These features are consistent with the hypothrsis that SFB is the pollen S gene. This hypothesis predicts involvement of the ubiquitin/26S proteasome proteolytic pathway in the RNase-based SI system.
著者
奥島 史朗
出版者
岡山大學農學部
巻号頁・発行日
no.62, pp.39-44, 1983 (Released:2011-03-05)
著者
藤崎 憲治
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.83, pp.p113-132, 1994-02
被引用文献数
2

昆虫の分散多型性とは,「飛翔能力に影響を及ぼす多型性」と定義される.それは,大きく,翅多型性,飛翔筋多型性,及び飛翔行動多型性に分類される.さらに,このような分類では必ずしも包含できない,もう一つの分散多型性として,相変異性がある. 分散多型性の中でも,とりわけ翅多型性あるいは翅二型性は,もっとも顕著な例である.翅型は,単純なメンデル遺伝を行う場合もあるが,通常はポリジーン支配が多い.そのいずれも,短翅化に促す幼若ホルモンのあるレベルに対する遺伝子型の閾値反応により,翅型が決定されると考えられている,しかし,同じ遺伝子型であっても,幼虫期の環境条件により翅型は変化することが多いので,翅多型性は表現型の上できわめて可塑性な性質でもある. 卵形成と飛翔とはトレード・オフの関係(卵形成-飛翔症候群)にあるので,短翅化は,繁殖開始を早め,かつ産卵数を増大させる効果を持つことが多い.このことは,飛翔器官の形成と維持に関するエネルギーを,いち早く卵巣成熟に転換させることで達成されているものと考えられる.したがって,昆虫の翅多型性は,生息環境の異質性に対する適応としての移動性が大きなエネルギーコストを含み,それ故に他の適応度形質を制約することのジレンマから抜け出す一つの進化的道筋であるとみなされる. 飛翔行動多型形は,通常の長翅からばかりなる種で見られる,飛翔能力における変異性であり,翅多型あるいは翅二型性へと至る進化の出発と考えられる. したがって長翅型の方が祖先型であり,生息場所の安定化にともない二次的に短翅型が出現したものとみなされている.飛翔筋多型性は,これら二つの分散多型性の中間に位置づけられる性質である. 一方,相変異性の場合は,低密度で生じる独相を祖先型として,高密度で生じる群生相が二次的に進化したものであり,不規則に変動する予測不能な環境に対する適応でると考えられている. この総説は,昆虫の分散多型性の適応的意義と進化について,主に近年の成果を中心に紹介し,今後の研究のあり方を考察したものである。
著者
岡崎 光良 小河原 公司 稲生 美子
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.24, 1964-10

1.柑橘類の種子は短命種子でかっ乾燥に弱いといわれている.しかし,種子の発芽力の低下の原因について,水分含量のみでは説明出来ない.また,柑橘類の種子は乳熟中に発芽力を獲得するといわれている.本実験は1961~62年にカラタチ(Poncirus trifoliata Raf.)種子の発芽特性と貯蔵法および発芽力喪失の原因を知るために行なった.2,カラタチ種子は開花後90~105日間に発芽力を獲得し,135日目に最高に達す.その後低下する.しかし,剥皮種子は135日以後も低下することなく,発芽力を最高に持続する.種子は25℃でよく発芽する.しかし剥皮処理をすると20°および25℃よりも30℃で最もよく発芽する.ジベレリンは高温での効果は少ないが,低温での効果がみとめられた.3.30℃の高温で開放貯蔵したものは,発芽力,水分含量ともに急速に減少した.しかし低温で貯蔵したものでは,発芽力および水分含量の減少は徐々であり,20℃区では約25日で,また5℃区では65日に急速に発芽力を失なった.カラタチ種子寿命を持続させるのには,低温で貯蔵するのが有効である.4.砂に貯蔵したときには,密封または開放貯蔵より長く発芽力を持続し,室温下で全然水分を含まない砂に貯蔵したものが最も良かった.5℃で5%の水分を含む砂中に貯蔵したときには65日以上に貯蔵することができず,高温多温下で貯蔵すると貯蔵中に発芽し,低温多温下では種子が凍結したためか発芽力が劣った.5.種々の条件下で55日間貯蔵した種子の発芽力については,剥皮をすれば各区とも完全に近い発芽力を示したが,無処理種子の発芽率では貯蔵条件により,かなりの差がみとめられた.そして,室温下で0%水分含量の砂に貯蔵したものは100%発芽した。
著者
Tahara Makoto Yamashita Hiroki
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.7-11, 2007-02

Sequence analysis of Rtsp-1, an active LTR retrotransposon in the sweetpotato genome,revealed a possible novel Rtsp-1 RNA/tRNAMet complex for initiation of reverse transcription and the first DNA strand transfer. The Rtsp-1 RNA has a primer binding site (PBS) that is partly complementary to the 3' end of tRNAMet, and possesses an additional sequence complementary to the 5' end of tRNAMet downstream of the PBS. These additional base-pairings might stabilize the Rtsp-1 RNA/primer complex. In the free form, the 5' LTR of Rtsp-1 appears to form a stemloop structure apparently preventing the initiation of reverse transcription. While the stemforming site adjacent to the PBS is complementary to the tRNAMet, the other stem-forming site on the LTR complements a region just upstream of the 3' LTR. Additionally, another region at the 3' end of the Rtsp-1 RNA shows sequence complementarity to the tRNAMet. As the 3' end of Rtsp-1 approaches the tRNAMet bound to the PBS, the stem-forming strands dissociate and basepair with their complementary regions in the tRNAMet and the 3' end of Rtsp-1, respectively. Consequently, the LTR loop opens, allowing reverse transcription to initiate. After the initialreverse transcription stops at the 5' end of the Rtsp-1 RNA, the synthesized minus strand DNA needs to be transferred to the 3' end of the RNA to synthesize internal sequences. The Rtsp-1 RNA/tRNAMet complex may have evolved to facilitate this DNA transfer. Similar RNA/tRNA initiation complexes have been reported from reverse transcription in retroviruses and yeast retrotransposons (Ty1 and Ty3).カルスにおける転移が示されたサツマイモ LTR 型レトロトランスポゾン(Rtsp-1)の塩基配列を調べたところ,逆転写が開始される際,転写された Rtsp-1の RNA と最初の逆転写のプライマーに使われる tRNAMETとの間で,特徴的な逆転写開始複合体を形成し,この複合体が最初の逆転写とその後の過程で必要な逆転写産物(cDNA)の転移などを確実なものとしていることが示唆された.その内容は,1)転写された Rtsp-1の RNA 逆転写開始部位の塩基配列は自身の LTR 配列とステム構造をとること,2)tRNAMETが結合する Rtsp-1の Primer Binding Site 部位には,プライマーの機能を果たす tRNAMETの3'末端の相補配列に加えて,その隣接部位に tRNAMETの5'末端部位と相補的な結合部位が存在するために,tRNAMETの両末端が結合すること,3)Rtsp-1の3'末端側に,tRNAMET及びステム構造に関わる5'LTR の部位との相補配列があり,この3セ末端側が転写開始複合体と結合することにより,ステム構造が崩れて逆転写が開始されると推定されること,4)逆転写が開始された後も,tRNAMETの結合によってRtsp-1の5'末端と3'末端側に近接した状態が保たれることである.Rtsp-1の3セ末端側の転写開始複合体への結合を転写開始の条件とすることにより,最初に合成される cDNA の3'末端への転移が容易となることなどが示唆された.
著者
中村 宣督
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.87-91, 2006-02

野菜全般の摂取と健康状態に関する疫学的研究は,近年数多く報告されており,様々な疾患リスクの低減だけでなく,通常の健康状態に関しても野菜の有効・有用性が示唆されている.その一方で,食生活の欧米化の着実な進行から,肉食・魚介類の順調な消費の伸びに対し,野菜消費量が減少の一途を辿っている.特に,若年齢層を中心とした世代の野菜消費量の減少が顕著であり,生活習慣病の若年齢化との相関から,社会問題として注目を浴びつつある.例えば,野菜を十分に摂取出来れば所要量の確保が容易なビタミンである葉酸であるが,新生児の神経管閉鎖障害症の最近の増加から,妊娠初期の女性の摂取不足に厚生労働省が警鐘を鳴らしている.また,昨今の栄養・健康情報の氾濫とサプリメント(栄養補助食品,健康補助食品)市場の急激な成長により,サプリメントを利用しておけば普段の食生活はないがしろにしても構わないという風潮に歯止めがかからなくなっている.野菜の摂取を推奨していくためには,人の健康と野菜摂取との関連を科学的かつ体系的に解明・整理にすることが今一度必要である.野菜中に含まれる,より具体的な機能性成分の性質や分布を正確に理解し,健康維持や疾病予防への寄与を明らかにすることができれば,より健全な「日本型食生活」への回帰を目指した野菜の消費拡大の一助となることはいうまでもない.それゆえ,これからの食品機能の基盤的研究が果たす役割は極めて重要であるといえる.食品機能の基盤的研究のなかで,現在最も体系的に進んでいる研究分野として,がん予防に関する研究が挙げられる.発がんの原因物質の排除と発がん抑制物質の積極的な摂取が「がんの化学予防」の基本戦略であるが,数多くの疫学的研究や動物実験の成果から,野菜や果物などの植物性食品の摂取が予防に有効であるといわれて久しい.特に,1990年代に米国で「デザイナーフーズ」計画がスタートしたことをきっかけとして,十数余年にわたるこれまでの研究は,がん予防に有望な素材・成分の化学的解明,動物実験成績や基本的作用機構に関する知見の蓄積だけでなく,その他の疾病をターゲットとした食品機能研究の進展に大きく寄与してきた.その一方で,β-カロテンのヒト介入試験での不成功から,食品成分による疾病予防法確立への道は決して平坦なものではないことも浮彫りとなった.現在,がんの化学予防研究は,ヒトにおける有効性をどのように評価して行くかを共通課題とし,体内動態や遺伝子発現の網羅的,体系的解析などのより詳細な分子レベルでの研究へと進展を遂げつつあり,筆者も例に漏れず研究標的をシフトしてきた.また,これまで有効とされてきた素材・成分の再評価,品種改良などによる有効成分(活性及び含量の)増強素材の開発,より偏りの少ない食事・栄養指導など,網羅すべき課題の広がりにより,食品化学分野は新展開の局面を迎えている
著者
岡本 五郎 賈 惠娟 水口 京子 Hirano Ken
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.39-46, 2003-02
被引用文献数
1

Skin color and juice constituents in large(L), medium(M), nad small(S) fruits of four peach cultivars, Hashiba-hakuho(early maturing), were analyzed to elucidate the effect of fruit size on the quality. The fruits containing higher soluble solids than 12°Brix were samled at a commercial packing-house located in southen Okayama. They were stored at 25℃ until fully ripened. The skin color on the cheeks (yellowish) was dark in S fruits of Hashiba-hakuto and Hakurei, respectively, compared to the fruits of other sizes. The sucrose + fructose content in juice, the major source of the sweetness, was higher in S and M fruits in Hakuho, Shimisu-hakuto, and Hakurei, while the malic+citric acid content, the major sour constituent, was lower in L fruits in those cultivars, although no significant difference was found in Hashiba-hakuho. Asparagine, the biggest amino acid fraction and thought to deteriorate the fruit taste at high levels, was higher in L fruits tahn in S fruits in Hashiba-hakuho and Hakuho. The content in Shimizu-hakuto and Hakurei fruits was generally low and not affected by fruit size. The content of γ-decalactone, the major peachy aromatic substance, was higher in L fruits in Hashiba-hakuto, in M fruits in Hakuho and Shimizu-hakuto, and in S fruits in Hakurei, than in those of other sizes. Sensory tests revealed that the L fruits of Hakuho and S fruits of Hakurei were poor in flavor. These results suggest that the larger fruits of Hakuho, Shimizu-kakuto, and Hakurei, the representative white peach fruits in Okayama, have rather falatter tastes than medium size fruits because of their lower sweetness and sourness and weaker aroma, as well as poorer texture.岡山市一宮のモモの選果場に出荷された有袋栽培の'橋場白鳳'(早生),'白鳳'(早中生),'清水白桃'(中生)および'白麗'(晩生)から,3段階のサイズ(L,M,S)の果実を入手し,完熟状態(手で皮が剥ける)に達するまで25℃の室温においた.それらの果実について,果皮色と果汁成分の分析と果肉の食味テストを行い,果実のサイズによる品質の相違を検討した.'橋場白鳳'では,S果実は地色が暗く,'清水白桃'のL果実は着色が濃いが色調が暗く,'白麗'のL果実は着色が薄くて黄色が強く,いずれも外観が劣った.果汁中の主要な甘味成分であるスクロース+フルクトース含量は,'白鳳','清水白桃'および'白麗'ではSまたはL果実で高く,酸味成分のリンゴ酸+クエン酸含量は,それら3品種のL果実で最も低かった.'橋場白鳳'では果実サイズによる糖・酸含量の有意な差がなかった.果実に苦みを与えるアスパラギン含量は,'橋場白鳳'と'白鳳'ではL果実で高かったが,'清水白桃'と'白麗'ではどのサイズでも含量が低かった.モモ香の主成分であるγ-decalactoneは,'橋場白鳳'ではL果実で高かったが,'白鳳'と'清水白桃'ではM果実で,'白麗'ではS果実で高かった.官能テストの結果,'白鳳'のL果実と'白麗'のS果実は食味が劣った.これらの結果から,岡山の「白桃」を代表する'白鳳','清水白桃','白麗'の大果は,中程度の大きさの果実より甘味と酸味が低く,アロマが弱いなど,食味が薄く,肉質も劣ると考えられる.
著者
西井 賢悟 小松 泰信 横溝 功
出版者
岡山大學農學部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.67-74, 2003-02
被引用文献数
1

1995年に岡山県南西部の総社市農協、真備町農協、山手村農協、清音村農協、そして吉備昭和農協の五農協の広域合併によって設立された吉備路農業協同組合(以下JAきびじと略す)管内のモモ共販を事例とし、次のような検討を行う。第一には、農協の広域合併にともない成立した産地の組織機構と各組織構成主体の概況・役割について明らかにする。第二には、当事例において合併後に行われた共販一元化の話し合いが決裂していることから、この状態を産地という組織がコンフリクト状態に陥ったと捉え、マーチ=サイモンの組織論、特に組織コンフリクト論を適用してその発生のメカニズムを明らかにする。そして第三には、共販一元化の話し合い決裂後に各出荷組合がとった行動をコンフリクトに対する適応行動と捉え、その行動の意味と産地における農協共販の展開方向について考察する。
著者
本多 昇 岡崎 光良
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
no.20, 1962-09

1)水田地帯で約70cmの厚さに盛り土した葡萄園に1949年3月に栽植されたキヤンベル種葡萄で栽植距離18×1.8mにて一文字仕立(双腕コルドン)に整枝されたものについて1959~1961年にわたつて早期落葉の発生状態を調査し,若干の考察を加えた.2)キヤンベル種葡萄の萠芽期は4月中旬,開花期は5月下旬,硬核期は7月中旬,収穫期は8月中旬である.10~11節で摘心された本梢葉について7月から8月末におこる早期落葉を主とし,その発生率について調査した.ほゞ9月上旬までは,先づ葉身が葉柄との接着点から離脱するがそれ以後は概して葉柄を着けた葉身が葉柄の基部から離脱する.3)先づ樹勢別3区の平均の落葉率についてみるに1958年の7月末,8月末及び9月末日の累加落葉率はおのおの4.7,22.0及び44.3%である.ところが1959年には落葉期が著しく早くなり7~9月の各月末の累加落葉率はおのおの21.1,71.6及び88.6%となつた.その後1960年9月15日には累加落葉率が87.1%であり,1961年には8月31日に87.3%であるように連年落葉の時期が早くなつて来ている.4)1959年に前年に比し早期落葉が急増したことについては1953年に暴産したため樹勢の弱つたこと,1959年7月中旬の窒素肥料追肥によつて副梢の暴発及びおそのびによることが認められるほか,双腕コルドン整枝が誘発するT/R率のアンバランスの危期に到達したためと推定される.5)1958年及び1959年には強>弱>中勢区の順に早期落葉が顕著であつたのは,この両年には強勢区の樹では特におそ伸びにより,生長週期が乱されることにあるようである.然るに1960,1961年には早期落葉の順位が弱>強>中勢区になつたことについては,強勢区の樹勢がおさまつたこと,弱勢区では連年衰弱の程度が甚だしいことによると思われる.6)1961年における早期落葉には明らかに3つの波相がみとめられた.7月24日をピークとする第1の波相では弱勢区が特別に顕著であり,強・中勢区ではともに顕著ではない.8月3~7日をピークとする第2の波相は第1,第3の波相よりも著しくはない.第2の波相では強勢区の落葉が特に著しい.8月21日をピークとする第3の波相は中勢区が特に顕著であり,強勢区はそれに半ばし弱勢区ではさほど著しくない.7)弱勢区では根群が極めて浅いために梅雨あけ直後即ち7月中旬の乾燥によつて落葉が誘発され,またそれによつて連年の「樹力」の衰退度が急速である.1961年においてさえ強勢区の繁茂度(単位面積当りの葉面積)は中勢区の1.71倍であることは8月上旬に至つて吸水量のアンバランス,日照不良の度をますこと,又は葉中の苦土含量も低めとなること等により落葉が誘発されるものと思われる.中勢区はその生育相が最も適正ではあるが結果性が高いために暴産に陥り易く,かえつて収穫期にはなはだしく落葉する.このことは果実1kg当りの葉面積の小であること及び前報した如く収穫直前に起る8月上・中旬の光合成能の激減と関連していることは興味がある。
著者
白石 友紀 豊田 和弘 鈴木 智子 目黒 あかね 長谷川 幸子 西村 富生 久能 均
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.27-34, 2010-02-01

In this report, an effect of FFC-ceramic (FFC-Japan Co. Ltd., Tsu) water on the process of infection by a pea fungal pathogen, Mycosphaerella pinodes was investigated. Energy dispersive X-ray analysis showed that both of the FFC-ceramic water and a common ceramic water contained mainly Ca and S elements, of which the relative atomic percentages were 53~56% and 44~45%, respectively. Lesion formation by pycnospores of M. pinodes on pea leaves was inhibited severely by the application with both ceramic waters at the 1/2~1/6 concentration of saturated solution. Cytological observation under microscope showed that germination, germ-tube elongation and penetration were severely inhibited by these ceramic waters. However, such inhibitory effect of FFC-ceramic water was superior to that of the common ceramic water. On ethanol-killed pea epidermal tissues, both FFC-ceramic water and the common ceramic water blocked the germination, germ-tube elongation and penetration by the pathogen, indicatingthe direct effect of both ceramic waters on the fungus. In this case, the inhibiting effect of FFC ceramic water was more intensive than the common ceramic water. CaSO(4) at a 1/2~1/4 concentration of saturated solution blocked penetration by the fungus on the killed epidermis of onion bulb but scarcely affected germination and germ-tube elongation. Based on these results, we discussed the role of FFC-ceramic water in disease tolerance of plants and its availability for cultivation.本研究は,FFCセラミックス(TM)(株 エフフシージャパン)の植物病原菌の発病抑制効果について調べたものである.FFCセラミック水は原液の1/2~1/6の濃度でエンドウ褐紋病菌の発病を顕著に抑制した.この原因を調べたところ,FFCセラミック水は,病原菌の発芽,発芽管伸長,侵入(貫入)を顕著に阻害することが判明した.FFCセラミック水中にはCa並びにS,O元素が多量に存在し,SEM観察の結果と合わせると,CaSO(4)が多量に含まれることが示唆された.そこで,CaSO(4)飽和液の1/2~1/4濃度で,病原菌に対する作用を調べた結果,発芽あるいは発芽管伸長はほとんど阻害されず,低率ながら侵入も観察された.これらの結果を総合して,FFCセラミック水やCaSO4の栽培場面での応用を考察した.
著者
泉本 勝利
出版者
岡山大學農學部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.85-95, 2010-02

食肉生産はコストと労力がかかり、比較的高価な食品素材である。食肉は栄養的価値のみならず嗜好的にも優れ、人気の高い食品素材である。明治時代以降、肉食禁止令が廃止され、政府も奨励した結果、消費量が増加した。近年、飽食、グルメ時代といわれる一方、自給率低下など日本の危うい食事情について危惧されている。食品の選択は栄養価などよりも、まず嗜好性、美味しさが最優先されていることからも、食品は量的確保のみならず品質の良いことが要求される。品質劣化で廃棄されれば負の生産になってしまう。食品は嗜好性、栄養分、安全性、経済性などが総合的に判断されて消費者に選択される。「これらのうち嗜好性が最も受諾性に影響する。」といわれるが、日本に限らず世界史は食糧難の歴史であり、つい最近まで供給側が経済的に有利であった。この状況では量が優先され、消費者は粗悪品でも甘受せざるを得なく、品質の向上について意識的に取り組まなくても済んでいた。近年、少なくとも先進国では食料の生産性、保存技術の飛躍的進展によって、量の確保は十分に行えるようになった。すると、需給関係は逆転し、経済的に消費側が有利になっており、際限なく品質への要求が高くなっている。本稿は食品とくに食肉の品質について述べる。本稿では食肉の品質について焦点をあて、まず、評価と管理について説明する。続いて、色調品質の特性解析と管理の自動化、テクスチャー品質のヒューマンインターフェース、安全性に関わる事項のヘムタンパク質による細胞DNA損傷の抑制、機能的品質に関わる亜硝酸を使わない発色およびACE(アンジオテンシン�T-変換酵素)阻害活性について述べる。
著者
Acosta T. J.
出版者
岡山大学農学部
雑誌
岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.63-71, 2005-02-01

A transpectal color Doppler ultrasonography was used to assess changes in the ovarian structures and to determine blood flow that tale place in the follicle wall and within the corpus luteum (CL) dring specific physiological events such as ovulation, CL development, and CL regression in cows. To investigate the local release of vasoactive peptides, steroid hormones, and prostaglandins (PGs) in each ovarian structure, the capillary membranes (0.2mm diameter and 5-10mm length) of a microdialysis system (MDS) were implanted surgically implanted into the follicle wall or within the CL along with ovarian venous and jugular catheters to collect simultaneous, real-time information on the ovarian and systemic change in the secretion of factors regulating vascular function. Based on the results obtained from in vivo experiments, it was proposed that a physiological relevant "cross-talk" between the vascular components (endothelial cells) and steroidogenic cells occur in the bovine ovary particularly during ovulation, CL formation and regression.カラードップラー超音波断層診断装置は,直腸を介して卵巣内の構造変化および血流変化を評価することができ,排卵,黄体形成,黄体退行などの卵巣生理現象の観察に有効である.私は,ウシにおいてカラードップラー超音波断層診断装置を用いて卵胞壁および黄体内の血流変化について検討するとともに,微透析システム(MDS;microdialysis system)を卵胞壁および黄体内に装着し,局所的な血管作動性物質,ステロイドホルモンおよびプロスタグランディン類の分泌を調べた.また,卵巣静脈および頚静脈より血液を経時的に採取し,血管機能を調節する因子の経時的変化についても検討した.これらの成果から,ウシの卵巣生理現象(特に,排卵,黄体形成,および黄体退行)において,卵巣内の血管内皮細胞とステロイド産生細胞(卵胞内膜細胞,顆粒層細胞および黄体細胞)間にクロストーク(相互調節作用)の存在することが示唆された.