著者
杉井 正史
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.29-40, 2002

シェイクスピアの『夏の夜の夢』は、彼の劇の最高傑作であると言われている。ロマンティックな雰囲気や筋の滑稽さだけではなく、演劇に対するさまざまな示唆があるからである。『夏の夜の夢』では、さまざまな人物が登場する。第一の登場人物のグループは、アテネの貴族社会の人間たちであり、領主のシーシアス(Theseus)、彼と間もなく結婚することになるアマゾン国の女王のヒポリタ(Hippolyta)、と臣下たちとその若い恋人たちなどである。第二のグループは、機屋のニック・ボトム(Nick Bottom)や大工のピーター・クィンス(Peter Quince)などの職人階級のグループである。第三のグループは、妖精の王オベロン(Oberon)とその妻のタイタニア(Titania)、そしてパック(Puck)など部下の妖精たちである。時は、聖ヨハネの祝日の6月24日の前夜というみずみずしい季節であり、場所は森の中、そして神秘的な妖精たちの登場。これらのロマンティックな雰囲気、そして妖精の惚れ薬による若い恋人たちの恋の騒動、妖精の女王タイタニアのロバに変身したボトムへの恋、職人たちによる間違いだらけの劇の上演のような滑稽な筋。これらが人々に好まれる理由であるに違いない。……