著者
吉田 圭一郎 杉山 ちひろ
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.491-503, 2017-09-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
42

本研究では,2010年に八丈島で発生したスダジイの集団枯損と立地条件や植生構造との関連性を明らかにすることを目的とした.地理情報システム(GIS)による解析から,枯損したスダジイは三原山の南西向き斜面の尾根上に偏って分布する傾向があった.南西向き斜面と北東向き斜面とで主要な構成種は共通しており,サイズの大きなスダジイの幹密度や胸高断面積合計はほぼ同等であった.したがって,スダジイの集団枯損の地域的な差異は,被害を受ける樹種の優占度や大径木の出現頻度といった植生構造の違いにより生じたものではないことが示唆される.ブナ科樹木の萎凋枯死現象は,カシノナガキクイムシが媒介する共生菌により通水阻害が引き起こされることで被害が生じる.これらのことから,八丈島では2010年の梅雨明け直後に卓越した乾燥環境が起因となり,より乾燥した立地条件となる南西向き斜面の尾根上を中心に,スダジイが一斉に枯損したものと推察された.