著者
杉山 富士雄
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 = Journal of the Faculty of International Studies Bunkyo University (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-52, 1999-10-01

In South-East Asia, one can see the phenomena at work with the Japanese company's investments accompanying a technological transfer to local workers and managers. Why does a Japanese company invest in this area? How does a Japanese company's manager recruit his staffs? How does he educate and train a lot of workers in the time of his factory beginning to operate? To investigate these problems, I went to South-East Asian countries and had an interview with managing-directors of a Japanese company.\n 1980年代後半からの急速な円高を契機として、日本企業は生産拠点を東南アジアに移転し、グローバルな経営展開で、生産技術及び日本的な生産管理方式を現地に定着させる努力をしてきた。しかし、日本で開発された技術や生産方式を東南アジアに移転するためには、これまで様々な阻害要因に直面しなければならなかった。そして今後は、現地の経済成長にともない新たなボトル・ネックに直面することが予想される。そのような中で、より一層現地サイドの希望するような技術移転を進めるためには、現地社会との共生をめざした経営の現地化・ローカライゼーションがこれまで以上に必要とされる。 そこで、日本企業が何故当該地域に進出したのか、現地でどのように人材を募集し、どのような方法で育成しているのか、また技術移転をどのように開始し、どのくらいのレベルまで推進してきたのか、企業内で生産管理および品質管理を行うために、どのような訓練および人材育成をしているのか、経営の現地化をどのように実施しているか、現在どのような阻害要因に直面して技術移転が進まなくなっているのか、今後技術移転を進めるうえでの課題は何か、というような問題点を考察するために、東南アジアに生産拠点を持ち、ほとんどの製品をシンガポール経由で世界市場に輸出するT社の事例研究を行った。 T社は、マレーシアのマラッカやインドネシアのバタム島に工場を持ち、シンガポールのオフィスを資材調達の拠点とするパソコン周辺機器メーカーである。それは、現在の東南アジアの経済成長を支える輸出志向型産業の典型である。T社の個別事例研究を取り上げることで、アジアに進出する日本の多国籍企業に対する、現地政府の外資優遇措置やインフラ整備策、親会社のアジア経営戦略、さらには日本的経営の現地での定着可能性などを特徴的に解明する糸口になると思われる。 筆者は、1999年3月にシンガポール、マラッカ、バタムの現地調査に赴き、3か国それぞれのT社現地法人社長にインタビューを行った。以下の内容は、それを基に筆者が論文として体裁を整えたものである。なお、本研究は、日本私立学校振興・共済事業団の学術振興研究資金助成を受けて行われた。