著者
杉山 明宏 牧野 日和 大澤 功 山本 正彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.38-46, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
33

【目的】本研究は,日本版感覚プロファイル短縮版(SSP-J)を用いて高齢者の触覚過敏が脱感作療法によって軽減するかどうかを明らかにし,拒否反応の状態および開口保持の状態が変化することで,口腔機能に影響を与えるか否かを検討することである.【対象および方法】嚥下障害の診断で入院し,言語聴覚士(ST)が嚥下訓練を実施した患者522 名から,1)自立した口腔ケアが困難な者,2)触覚過敏による拒否反応によって看護師の口腔ケアおよび食事の介助が困難な者,3)認知症と診断されている者,を満たした患者を抽出した.年齢は,SSP-J に準拠して65 歳以上82 歳までとした.訓練は,ST による脱感作療法後に口腔ケアを1 週間に5 回の頻度で行い,5 週間継続した.SSP-J による感覚刺激反応,改訂口腔アセスメントガイド(ROAG)による口腔機能の評価を行った.さらに,脱感作療法中の拒否反応の変化および口腔ケア中の開口保持方法の変化を記録した.【結果】抽出患者は20 名であった.脱感作療法後は,SSP-J の触覚過敏性および拒否反応が低下し,触覚過敏が軽減した.口腔機能の改善は特に「唾液」の項目で顕著であった.8 症例で開口保持具が不要となり,口腔ケアを受容した.【考察】脱感作療法の継続的な施行によって,高齢者の触覚過敏に軽減を認めた.先行研究より高い改善傾向を示した.脱感作療法においては,一度の介入時間を延長するよりも一定の介入で集中的に訓練するほうが有効である可能性が示唆された.脱感作が奏功しなかった患者に対しては,他の表在・特殊感覚刺激を複合・統合的に導入した新たな脱感作療法の構築が重要である.脱感作療法後は,開口保持が容易となったことで固有口腔内の口腔ケアが施行可能となった.ROAG における唾液の項目に改善がみられ,口腔内湿潤度が増加したと考えられた.