- 著者
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吉岡 章
嶋 緑倫
杉本 充彦
松本 雅則
- 出版者
- 奈良県立医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
心筋梗塞や脳梗塞をはじめとした致死的な病的血栓症は多彩な要因で成立するが、生体防御に本来必須である止血機構が発症トリガーになると考えられている。止血機構は血小板粘着、凝集相と血液凝固相の2つが協調的に機能して成立するが、興味深いことに各々の相で中心的役割をはたすvonWillebrand因子(VWF:血小板粘着、凝集)と第VIII因子(FVIII:血液凝固)の2分子は生体では複合体を形成して存在することが知られている。本研究では古典的な血小板生物学や血液凝固学の枠組みを越えた視点で、第VIII因子/VWF複合体の包括的な血栓促進機能を生理的血流下で解析し、この複合体の適正な制御による新しい抗血栓症戦略の構築を目標とした。(1)第VIII因子の制御:我々は、強力な生理的線溶因子であるプラスミン(Plm)の第VIII因子制御機能の解明をおこない、PlmがFVIII活性を初期段階で約2倍上昇させ、その後速やかに低下させることを明らかにした。これらの知見で、今まで注目されていなかった凝固系と線溶系の密接なリンクが判明した。(2)VWFの制御:VWFの生物学的機能に大きく関与するマルチマーサイズの制御はADAMTS13がつかさどっているが、今回、ADAMTSI3によるVWF切断活性発現メカニズムを生理的な前血流動状況下で解析した。その結果、ADAMTS13は高ずり応力下での血栓形成現場でVWFを切断し、リアルタイムにVWF機能ならびに血栓成長を制御していることが判明した。このADAMTS13のVWF切断メカニズムはずり応力依存性であり、血流に直接暴露される血栓外表面部に優先的であった。今回明らかとなったADAMTS13のVWF切断メカニズムは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の病因論を明確に説明するのみならず、止血機転が機能した後に血管閉塞のみを特異的にブロックするユニークなものであり、止血機能と抗血栓機能とが両立する新世代型の抗血栓症戦略の可能性を示唆する。