著者
山本 正雅 嶋 緑倫 志村 紀子
出版者
奥羽大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

【目的】ヒト末梢単核球をSPYMEG細胞とPEG法で融合しヒト抗体産生ハイブリドーマを作製する方法によりヒトインフルエンザウイルスに対する抗体作製が可能であることを示してきた(BBRC387(2009)180-185)。本法を用いて、血友病A患者に発生したインヒビター抗体の作製を目的とした。【結果】細胞融合には化学的なPEG法を用いた。コロニー形成率は10~30%と低かった。ハイブリドーマ培養上清の抗体をELISA法によりスクリーニングしたがインヒビター陽性ウェルは確認できなかった。感染症患者から抗インフルエンザウイルス抗体を作製したようにはインヒビター抗体が得られなかったことから、改善が必要と考え、(1)血中抗体の力価の差、(2)融合効率の改善、(3)抗体産生細胞の濃縮に関し検討した。(1)は高力価の患者を利用することで対応可能とした。(2)の対応は、電気的融合法を検討した。電気的手法は細胞への傷害が少なく、PEG法より高効率で抗体作製ができるとされる。SPYMEGでは電圧を400V以上にすることにより融合効率をPEGと同程度(100%融合率)に高めることに成功した。しかし本条件下では抗体産生率がPEG法に比べ約1/2と著しく低くPEG法を踏襲した。次に(3)であるが、血友病A患者からの融合成績では、融合初期に陽性クローンが確認できたが、培養途中で産生能を失うことが主な原因であった。そこで、抗原をコーティングした磁気ビーズを用い、抗体産生細胞を選択する方法を検討し、細胞を特異的に好成績であった。【考察】電気融合法はPEG法を超えなかったので、PEG法にて血友病A患者からのインヒビターの作製を試みたが、最終的に陽性クローンは得られなかった。今後、さらなる改善策として、磁気ビーズによる細胞の濃縮と、ウアバインなどによる遺伝子の脱落を抑えるなどの処理を行い、抗体産生を安定化させ、高力価のインヒビター陽性患者からの末梢単核球を調製し例数を多く試みる必要がある。
著者
藤井 輝久 高田 昇 日笠 聡 酒井 道生 竹谷 英之 櫻井 嘉彦 花房 秀次 小阪 嘉之 天野 景裕 嶋 緑倫 吉岡 章
出版者
The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
雑誌
日本血栓止血学会誌 = The Journal of Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.446-453, 2006-08-01
被引用文献数
1

8施設の血友病患者の入院医療コストを集計し, その特徴と診断群分類(DPC)点数表の導入に対する問題点を考察した. 2002年4月から2004年3月までの8施設における患者の各入院に対し, 血友病の種類, 体重, インヒビターの有無, 手術の有無, 入院日数, 請求点数などを集計した. さらにそれらのデータからそれぞれの因子により請求点数を解析し, どの因子が請求点数に関与しているか統計学的検定を行った. 入院日数, 請求点数は施設間にばらつきがみられ, 施設別1日あたりの平均医療コストは最少が124,110円, 最大が222,080円であった. 体重別では25kg未満127,280円, 25-50kg 210,720円, 50-75kg 280,861円, 75kg以上526,958円で有意差がみられた. インヒビターの有無(524,416円, 147,534円)でも有意差がみられた. 2004年度の血友病類縁疾患のDPC導入案と比較すると, 全施設で病院側の赤字になることが分かった. 以上より, 血友病患者の入院医療コストは患者の体重や状態により多種多様で, 安易にDPCを導入することは問題と思われた.
著者
吉岡 章 嶋 緑倫 杉本 充彦 松本 雅則
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

心筋梗塞や脳梗塞をはじめとした致死的な病的血栓症は多彩な要因で成立するが、生体防御に本来必須である止血機構が発症トリガーになると考えられている。止血機構は血小板粘着、凝集相と血液凝固相の2つが協調的に機能して成立するが、興味深いことに各々の相で中心的役割をはたすvonWillebrand因子(VWF:血小板粘着、凝集)と第VIII因子(FVIII:血液凝固)の2分子は生体では複合体を形成して存在することが知られている。本研究では古典的な血小板生物学や血液凝固学の枠組みを越えた視点で、第VIII因子/VWF複合体の包括的な血栓促進機能を生理的血流下で解析し、この複合体の適正な制御による新しい抗血栓症戦略の構築を目標とした。(1)第VIII因子の制御:我々は、強力な生理的線溶因子であるプラスミン(Plm)の第VIII因子制御機能の解明をおこない、PlmがFVIII活性を初期段階で約2倍上昇させ、その後速やかに低下させることを明らかにした。これらの知見で、今まで注目されていなかった凝固系と線溶系の密接なリンクが判明した。(2)VWFの制御:VWFの生物学的機能に大きく関与するマルチマーサイズの制御はADAMTS13がつかさどっているが、今回、ADAMTSI3によるVWF切断活性発現メカニズムを生理的な前血流動状況下で解析した。その結果、ADAMTS13は高ずり応力下での血栓形成現場でVWFを切断し、リアルタイムにVWF機能ならびに血栓成長を制御していることが判明した。このADAMTS13のVWF切断メカニズムはずり応力依存性であり、血流に直接暴露される血栓外表面部に優先的であった。今回明らかとなったADAMTS13のVWF切断メカニズムは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の病因論を明確に説明するのみならず、止血機転が機能した後に血管閉塞のみを特異的にブロックするユニークなものであり、止血機能と抗血栓機能とが両立する新世代型の抗血栓症戦略の可能性を示唆する。
著者
嶋 緑倫 田中 一郎 川合 陽子 辻 肇 中村 伸 森田 隆司
出版者
The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
雑誌
日本血栓止血学会誌 = The Journal of Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.107-121, 2003-04-01
参考文献数
19
被引用文献数
36 26

後天性インヒビターによる出血症状は, 一般に強く, 難治性で治療に苦慮する症例も多い. 近年, 凝固検査の普及により報告例が増加しつつあるが, わが国における後天性インヒビターの実態は不明であり, 治療法も標準化されていない. そこで, 日本血栓止血学会学術検討部会凝固委員会(森田隆司委員長)が実態調査を行った. 方法は日本血栓止血学会会員を中心に1次アンケートを依頼し, 後天性インヒビターの症例を有するとの返答のあった施設に対して2次アンケート調査を依頼した(調査期間:平成13年1月より平成14年5月31日). 計75症例の後天性インヒビターの報告があった. 内訳は, 抗第VIII因子インヒビター58例, 抗von Willebrand因子インヒビター7例, 抗第V因子インヒビター5例, 抗プロトロンビンインヒビター1例, 抗XI因子インヒビター1例, 抗フィブリノゲンインヒビター1例, 抗第VIII因子+第V因子+フィブリノゲン複合インヒビター1例, 抗第VIII因子+第IX因子複合インヒビター1例であった. 男女比は <B>41</B>:34, 発症年齢の範囲は2~80歳でピークは70歳台であった. 基礎疾患のある例とない例との比は <B>29</B>:46であった. 基礎疾患や臨床背景で多かったのは自己免疫性疾患, リンパ増殖性疾患や腫瘍, 妊娠, 分娩, 糖尿病などであった. 止血療法で抗第VIII因子インヒビター例では, 第VIII因子製剤22例が最も多く使用されていたが, 有効率は低く, 活性型第VII因子製剤や(A)PCC製剤などによるバイパス療法の有効率が高かった. 免疫抑制療法としてはステロイドの内服投与が最も多かった. 有効率は約60%で, 他の免疫抑制剤も同様であった. 転帰はインヒビター消失例37例, 低下例14例, 不変例8例で, 死亡率は15%であった.