著者
杉本 篤史
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.47-60, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
57

言語権概念は社会言語学領域ではすでに十分な合意があるものの,憲法学の領域ではまだあまり馴染みのない概念である.本稿はこのような日本における言語権の理解状況をふまえて,法律学の見地から国際法上の言語権概念をいかにして日本国内法において受容せしめるか,またその条件は何かについて検討する.まず国際法上の言語権概念の発展過程を追い,ついで,日本国内法への言語権の受容を妨げている日本国憲法の問題について考察する.具体的には,憲法14条(平等条項),96条(条約の国内法的直接効力),13条ほか(公共の福祉)の規定により,国際人権条約の内容を国内法に受容する政府の法的義務は,単なる政治的努力義務に過ぎなくなっていることを指摘する.さらに,言語権が不在のまま展開されている日本の言語政策・言語教育政策を概観し,これらをふまえて障害者権利条約の考え方による言語権概念の問い直し状況を検討し,同条約により「現在進行形で問い直されつつある国際法上の言語権概念」を日本国内法へ受容するための法的条件および課題について検討する.