著者
海老田 大五朗 杉本 隆久
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.9-25, 2020-09-30 (Released:2021-10-15)
参考文献数
38

本研究は、スポーツの記述についての、現象学から影響を受けた社会学の一分野であるエスノメソドロジー研究である。本研究の目的はスポーツを記述するときに、いわゆる身体知とされて他者から知ることができないとされることなどが、実際には記述の可能性に開かれていること、そしてこの記述可能性は私秘的なものではなく、そのスポーツに親しむ者であればだれでもアクセスできるものであることを、放映されたスポーツ番組にもとづきあきらかにすることである。 本研究では、不可知とされがちな領域を、「メディア的環境要因によるアクセス困難性」によって不可知とされがちな領域と、選手の内面的なものとされることで不可知とされがちな領域の2つに区分し、それぞれの領域におけるスポーツの記述と理解について分析した。その際、記述や理解のための参照リソースに焦点をあてた。前者はサッカー実践になじんでいるものであればだれでも知っているような規範や実践が主な参照リソースになっており、後者は瞬間的・反応的動きが可能になる理由を、「予期」や「確信」といった概念と結びつけられることで理解可能になっていることをあきらかにした。 本誌特集テーマと関連する「スポーツ指導の現場に役立つスポーツ社会学を構想する手がかり」として、このような分析によってえられる記述の位置づけについても考察した。本稿では、理解というものを身体的理解と概念連関的理解にわけて再定式化し、これら相互の翻訳可能性こそがスポーツのプラクティス(練習や実践)の源泉になることを示した。