著者
海老田 大五朗
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.11-21, 2021-09

本研究の目的は、「認知症鉄道事故裁判」についての論文や資料を分析することで、この裁判における社会福祉的含意を引き出すこと、および本裁判で問題になったいくつかの記述を検討することである。本研究では、被告支援ネットワークの形成、「リスクの社会化」をめぐる議論、司法と行政の関係、認知症患者が起こした事故を「加害」と記述することへの違和感を考察した。被告支援ネットワークの形成には高齢者福祉や精神保健福祉行政の理念が深く関係していた。また、最高裁判決後、「リスクの社会化」についての議論が盛んになされた。最後に、本裁判と強く関係する「加害」や「徘徊」という記述の不適切性を指摘した。
著者
海老田 大五朗 杉本 隆久
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.9-25, 2020-09-30 (Released:2021-10-15)
参考文献数
38

本研究は、スポーツの記述についての、現象学から影響を受けた社会学の一分野であるエスノメソドロジー研究である。本研究の目的はスポーツを記述するときに、いわゆる身体知とされて他者から知ることができないとされることなどが、実際には記述の可能性に開かれていること、そしてこの記述可能性は私秘的なものではなく、そのスポーツに親しむ者であればだれでもアクセスできるものであることを、放映されたスポーツ番組にもとづきあきらかにすることである。 本研究では、不可知とされがちな領域を、「メディア的環境要因によるアクセス困難性」によって不可知とされがちな領域と、選手の内面的なものとされることで不可知とされがちな領域の2つに区分し、それぞれの領域におけるスポーツの記述と理解について分析した。その際、記述や理解のための参照リソースに焦点をあてた。前者はサッカー実践になじんでいるものであればだれでも知っているような規範や実践が主な参照リソースになっており、後者は瞬間的・反応的動きが可能になる理由を、「予期」や「確信」といった概念と結びつけられることで理解可能になっていることをあきらかにした。 本誌特集テーマと関連する「スポーツ指導の現場に役立つスポーツ社会学を構想する手がかり」として、このような分析によってえられる記述の位置づけについても考察した。本稿では、理解というものを身体的理解と概念連関的理解にわけて再定式化し、これら相互の翻訳可能性こそがスポーツのプラクティス(練習や実践)の源泉になることを示した。
著者
海老田 大五朗 野﨑 智仁 Ebita Daigoro Nozaki Tomohito
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.29-38, 2016-03

This study describes the design and practice of job assistance at café H. Job assistance is based on community strength and assists mentally-disturbed individuals who want jobs. Specifically, we considered how job assistance is utilized to support these individuals. We found that to optimize the use of the many volunteers who live in the K station community is to optimize for nonprofit organization to manage caféH on the economic front. In this study, we avoid absolutely defining strength. We attempt to describe the design that supports the available mentally-disturbed individuals who want jobs, which generates something good for them.本研究では、地域のストレングスを生かして就労支援を行う精神障害者就労支援施設、カフェHにおける就労支援実践やそのデザインを記述する。とりわけ、「地域のストレングスを活かすこととはどのような実践がなされることか?」を検討した。その結果、K駅近辺在住のボランティア(≒ストレングス)を最大限に活用することは、NPO法人が運営するカフェとして、経済面で最適化されることになることが明らかになった。本研究は、「ストレングスとは何か」と研究者の独断的な定義を避け、精神障害者に何らかのよきものがもたらされるであろうという支援実践者の見通しから遡及的に見出された、支援のデザインを記述する試みである。
著者
海老田 大五朗
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.51-63, 2012-09-30 (Released:2016-09-06)
参考文献数
22

本稿の目的は、「柔道整復」の歴史の一側面を系統立てることによって「柔道整復」という名称の謎に迫り、「柔道整復」という概念がいかにして構成されたかを分析することである。世界中を見渡しても、「柔道」のような特定のスポーツの名称を冠した療法は他に類を見ない。 本稿ではまず、「柔道」の発展史を確認することで、柔道整復術が公認される時代というのは、柔道が発展普及していく時代と重なることを示唆した。こうした時代背景こそが、「柔術」ではなく「柔道」を使用することになった要因の一つといえよう。 次に、「整復術」の源流といわれている「接骨術」と現在の「柔道整復」の差異を検討することで、非観血療法と呼ばれる療法が受け継がれ、他方で薬の処方については受け継がれなかったという事実を確認した。 最後に「帝国議会衆議院請願委員会議」の議事録などを検討することで、「柔道」が柔道整復師にとって独自の職業アイデンティティの一翼を担っている可能性を示唆した。
著者
海老田 大五朗 藤瀬 竜子 佐藤 貴洋
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.52-62, 2015-01-31 (Released:2016-07-31)
参考文献数
23

本研究は、障害者を雇用する側が障害者の特性や抱える困難に配慮する労働の「デザイン」に焦点を定めて分析し、障害者を生産者として位置づけるための創意工夫を、インタビュー調査やフィールドワークによって明らかにする。その際、障害者の特性や抱える困難を「方法の知識」という切り口によって細分化し、その細分化された困難を克服するような「デザイン」がどのように組み立てられているかを記述する。ここでは2つのデザインを検討する。1つは、障害者の雇用を可能にする作業のデザインである。もう1つは、障害者が会社に定着することを可能にする組織のデザインである。言いかえるならば、筆者らは、これら2つのデザインによって、知的障害者が採用され企業に定着することが、どのように実現するのかを論証する。
著者
海老田 大五朗
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.11-21, 2021-09

本研究の目的は、「認知症鉄道事故裁判」についての論文や資料を分析することで、この裁判における社会福祉的含意を引き出すこと、および本裁判で問題になったいくつかの記述を検討することである。本研究では、被告支援ネットワークの形成、「リスクの社会化」をめぐる議論、司法と行政の関係、認知症患者が起こした事故を「加害」と記述することへの違和感を考察した。被告支援ネットワークの形成には高齢者福祉や精神保健福祉行政の理念が深く関係していた。また、最高裁判決後、「リスクの社会化」についての議論が盛んになされた。最後に、本裁判と強く関係する「加害」や「徘徊」という記述の不適切性を指摘した。
著者
海老田 大五朗 酒井 りさ子 嶋津 祐輝
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-35, 2019-03

本研究の目的は、自己覚知を自己理解と同一視することによって生じる「実習教育の死角」を顕在化させることである。同時に、ソーシャルワーク実習教育において、実習生の気付きを言語化することの重要性を示す。本研究では2つの実習指導ケースを用いて、2つの考察をした。1つは「自己覚知」から「倫理的葛藤の解消」へと結びついたケースを記述した。もう1つは、「自己覚知」から、実践で共有される方法論の記述と結びついたケースを記述した。実践で共有される方法論を記述することの意義を述べ、実習生の自己覚知を促すことによって記述の精度を上げるべきポイントを特定し、「気付き」そのものを実習指導教育に生かす方法を例示した。
著者
海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.104-115, 2011

本研究は、接骨院における柔道整復師と患者のコミュニケーション研究の一編である。本研究で使用するデータは、柔道整復師によるセルフストレッチングの指導場面の映像データであり、このデータについて相互行為分析を行った。セルフストレッチングの指導の中で、患者の身体の操作および構造化が、柔道整復師と患者の相互行為によって達成され、いわゆる「I-R-E」連鎖構造が多くみられた。患者の身体の構造化とこれらの連鎖構造こそが本データの相互行為秩序を特徴付けている。
著者
海老田 大五朗 藤瀬 竜子 佐藤 貴洋
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.52-62, 2015

本研究は、障害者を雇用する側が障害者の特性や抱える困難に配慮する労働の「デザイン」に焦点を定めて分析し、障害者を生産者として位置づけるための創意工夫を、インタビュー調査やフィールドワークによって明らかにする。その際、障害者の特性や抱える困難を「方法の知識」という切り口によって細分化し、その細分化された困難を克服するような「デザイン」がどのように組み立てられているかを記述する。ここでは2つのデザインを検討する。1つは、障害者の雇用を可能にする作業のデザインである。もう1つは、障害者が会社に定着することを可能にする組織のデザインである。言いかえるならば、筆者らは、これら2つのデザインによって、知的障害者が採用され企業に定着することが、どのように実現するのかを論証する。
著者
海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.82-94, 2011

本研究は、接骨院における柔道整復師と患者のコミュニケーション研究の一編である。本研究で使用するデータは、柔道整復師による触診場面の映像データである。触診において、柔道整復師は患者の痛みがある箇所を触りながら確認していく。このときの、柔道整復師と患者の間でなされている相互行為を記述する。柔道整復師は患者の表情や呼吸をモニターしながら触診や牽引施術をしている。柔道整復師の触診や牽引施術は患者との相互行為のなかで達成されていることを示した。
著者
海老田 大五朗 Ebita Daigoro
出版者
新潟青陵学会
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.45-54, 2011-09

The present study offers a detailed description and analysis of the interaction between a judotherapist and patient during a medical interview at a judo therapy clinic. Particular attention ispaid to the way the therapist elicits the information necessary for therapy from the patient, howthe patient provides this information, and how this information is concretized and therapeuticgoals established. By analyzing video data of the body language used by the therapist and patientas they interact, the process of eliciting the needed information and its concretization is describedand analyzed.本研究の目的は、接骨院でなされている問診における、柔道整復師と患者の相互行為を詳細に記述していくことである。とりわけ本研究では、「柔道整復師が患者から施術に必要な情報をどのようにして引き出すのか」、「患者は柔道整復師にどのようにして情報を与えるのか」、「引き出された(与えられた)情報はどのように精緻化されていくか」ということに焦点を当てる。ビデオデータを分析していく中で、柔道整復師と患者との相互行為における患者の判断や身振りなどによって、施術に必要な情報は引き出されたり、精緻化される過程を記述した。
著者
中村 和生 海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.51-61, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
61
被引用文献数
1

本稿は、社会学の一潮流であるエスノメソドロジー&会話分析(EMCA)研究が、保健医療における様々な実践にたいしてどのようにアプローチしてきたのかを、メディアの利用、ならびに臨床への介入的な貢献という角度からレビューし、保健医療のEMCA研究の意義の一端を描くことを目的とする。検討の結果、第1に、利用可能なメディアの拡張に合わせて、EMCA研究がアプローチすることのできる保健医療の実践が大きく広げられてきたことが確認できた。そして、第2に、広い意味で直接的な観察をとおした実践の秩序の分析的解明を主眼とするEMCA研究が、何らかの点でその解明に基づきながら、臨床の現場に多様な形で介入的な貢献を果たすということは、可能であるばかりでなく、既にそれなりの規模において展開されていることを確認した。
著者
井口 高志 木下 衆 海老田 大五朗 前田 拓也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、「地域包括ケア」「地域共生社会」が目指される時代に、地域において障害や病い、または、生きづらさなどを抱える人たちがどのように支援と関わりながら日常生活を送り、それを支える人たちがどのように支援実践や居場所を形成してきた/いるのかを、領域横断的な研究者の経験的調査によって明らかにする。この作業を通じて、現在、政策目標とされている地域包括ケアや地域共生社会に向けた課題の明確化を目指す。中心となる研究領域は認知症ケアおよび障害者支援であり、これらの研究を中核として、さらに他領域の支援実践に関する研究の知見を付き合わせていく。
著者
海老田 大五朗 引地 達也
雑誌
新潟青陵学会誌 (ISSN:1883759X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.38-48, 2020-09

日本における知的障害児の後期中等教育卒業後の第三の選択肢として、福祉制度を利用した「学びの場」を構築する動きが全国に広まっている。しかしながら先行研究において、「学びの場」における教示内容の精査が十分なされてきたわけではない。そこで本研究では、「学びの場」のであるシャローム大学校とみんなの大学校でのメディア教育実践について、マクルーハンのメディア論を参照しながら記述した。とりわけ知的・発達障害者(精神障害者)に対して最適化された時間と空間のデザインを模索する。キーワードは、「コミュニケーション行為」、「同時間性」、「メディアを使用した遠隔授業の使用方法」である。「学びの場」であるシャローム大学校とみんなの大学校では、障害者を情報弱者にしないために、メディア教育はトラブル回避を念頭に置きつつ、メディア使用によってマクルーハンのいう人間の機能拡張が可能になることが目指されていた。本研究は、こうした教育実践の事例報告である。