著者
杉村 宗典 貝谷 和昭 吉谷 和泰 高橋 清香 柴田 正慶 橋本 武昌 吉田 秀人 花澤 康司 泉 知里 中川 義久
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.11-18, 2012 (Released:2015-06-18)
参考文献数
9

症例は45歳,男性.平成20年,エプスタイン奇形に伴うB型WPW症候群に対してアブレーションを施行し,治療に成功した.以後,心電図にデルタ波を認めなかったが,アデノシン三リン酸(ATP)投与にて停止する左脚ブロック型の頻拍が再発し,平成21年5月再治療となった.電気生理学的検査(EPS)において370msec未満の連結期で心房期外刺激を加えると,His束電位の消失とともに頻拍時と一致する左脚ブロック型QRS波形が再現性をもって出現した.そこで三尖弁輪自由壁に多電極カテーテルを留置したところ,電気生理学的三尖弁輪10時方向において,心房波(A波)と心室波(V波)の間に先鋭な電位を認めた.マハイム線維の存在を疑い,この電位(M電位)について検討すべく再度心房プログラム刺激を行い,AH時間とAM時間を比較した.両者の減衰伝導特性は極めて近似しており,かつAM時間はAH時間より常に一定時間の延長を示し,HV時間は不変(45msec)であった.房室結節の不応期の時点でもM電位は記録され,長いAV時間の後に左脚ブロック型QRS波が追従した.誘発された持続性頻拍の逆行性心房最早期興奮部位はHis束記録部であり,電気生理学的検討により本頻拍は右側自由壁房室間に存在するマハイム線維を順行し,房室結節を逆行旋回路とする反方向性房室回帰性頻拍(antidromic AVRT)と診断した.マハイム電位を指標に通電し,頻拍の根治が得られた.マハイム線維の伝導時間が房室結節の伝導時間より常に長く,減衰性が房室結節とほぼ同等であるため,期外刺激にても連続的な心室早期興奮の顕在化がみられないまれな1例を経験したので報告する.