著者
杉浦 なぎさ 藤田 智子 大竹 美登利 菊地 英明
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>【目的】</strong><br /><br /> 男女が協力して生活することの重要性が謳われている現代において、男女がともに家庭科を学ぶ意義を感じられることは重要である。しかし、高校生は、家庭科の必要性は「現在」ではなく、「将来」の家庭生活にあると感じており(中西 2006)、中学生においても「現在」学ぶことに意味があると感じられるかは疑問である。また、高校生において、家庭科の有用性を認知することが食生活行動に結び付いていることが明らかにされており(藤田 2012)、実感をともなう学びにすることこそ、子どもたちが生活実践につなげるために有効なのではないかと考えられる。本田(2004)は、「子どもが学習にどのような意味や意義を感じているか」を「学習レリバンス」と定義し、学習そのもののおもしろさを示す「現在的レリバンス」と、学習が将来何かに役立つ感覚を示す「将来的レリバンス」の2つがそろうことで、男女ともに学習を長期にわたって継続したいと思えることを明らかにした。本研究では、中学生が家庭科を学ぶ意義を感じているかを明らかにするとともに、家庭科を学ぶ意義の感じ方の違いに着目して、生活実践行動を分析する。<br /><br /><strong>【方法】</strong><br /><br /> T大学附属中学校2年生、3クラス89名(男性31名、女性58名)を対象に、アンケート調査を行った。実施時期は、9月(単元前)、10月(単元後)、1月(単元後の追跡調査)の計3回である。単元については、2時間×3回の計6時間の授業構成として、「洗剤や柔軟剤の性質の理解を踏まえた選び方」「消費者が洗剤購入に必要な情報を考える」など実験や実習を取り入れた。3回の調査すべてに回答した86名(男性31名、女性55名)を分析の対象とする(有効回答率96.6%)。また、授業者が積極的に授業に取り組んでいると思う生徒を有意抽出してもらい、各クラス男女1名の計6名(男性3名、女性3名)にインタビュー調査を行った。10月に2回(単元途中と単元後)実施した。<br /><br /><strong>【結果】</strong><br /><br /> 学習レリバンスに関しては、家庭科全般と洗濯の学習において、「好き・おもしろい」を現在的レリバンス、「将来、役に立つ」を将来的レリバンスとして、単元学習後に聞いた。まず、家庭科全般に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは5割以上、将来的レリバンスは9割以上であった。一方で、洗濯の学習に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは40%に満たず、将来的レリバンスは9割以上であった。<br /><br /> 中学生の生活実践状況は、洗濯物を「しまう」は男女ともに実践度が高かったが、「洗う」は低かった。次に、学習レリバンスの感じ方による生活実践行動の違いをみるため、一要因の分散分析を行った。その結果、家庭科全般、洗濯の学習ともに「好き・おもしろい」と思う人ほど、学習後、有意に生活実践得点が高かった。<br /><br /> また、質問紙の自由記述(家庭科の学びの中で自分が成長できたと思う点)やインタビュー調査(授業でおもしろかったこと・新たに気付いたこと)から、中学生は洗剤のパッケージデザインを通し、消費者の立場からデザインや表記の仕方を工夫することで、洗剤の表記にも様々なアイデアがあることに気付き、「おもしろさ」を感じていた。また、実験を通して、洗剤の液性によるダメージの受け方や量による汚れの落ち方の違いを目で見て、「実際にお店で洗剤を見比べたい」「洗濯をおこなってみたい」など、科学的知識を基に自分の生活で試したいと考えており、「役に立つ」感覚が育まれたと考えられる。以上のように、授業で「おもしろい」「役に立つ」と感じることは、中学生の生活実践につながるきっかけになると考えられる。<br /><br /> 本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」[文部科学省平成28年度特別経費(プロジェクト分)]の研究成果の一部である。