著者
杉浦 直人 幸田 泰則 高橋 英樹 河原 孝行
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、絶滅危惧種レブンアツモリソウの生物学的特性を解明し、その研究成果を効果的な保全管理・指針の実施に反映させることである。また、自生地の再生に用いるのに適した株の供給技術の開発もめざす。さらにカラフトアツモリソウとの交雑に関する現況調査も実施する。以下、4年間の調査研究によって得られた成果の概要を記す。1.マルハナバチ媒花としてのレブンアツモリソウの花の特性を明示するとともに、その結果率および稔性種子率に関するデータ解析等から送粉者としてのニセハイイロマルハナバチの能力についても評価した。また、この送粉昆虫にとって、ヒロハクサフジなどのマメ科草本が花資源として重要なことも解明した。2.生育地の立地や植生等に関する知見、たとえば、低標高で北西斜面の、比較的水はけの良い土地を好む、あるいはマイズルソウなどが共存種として頻出するなどのレブンアツモリソウの生育環境に関する共通項を解明した。また、花形態の解析や標本調査等から、その分類学的位置についても考察を加えた。3.レプンアツモリソウ個体群の遺伝的多様度を求め、地域集団問に大きな相違がないことを明らかにした。さらに、カラフトアツモリソウとの間に雑種が生じており、このまま放置すれば雑種化が進行してしまう危険性があることも指摘した。4.自生地の復元に最適な株の供給を可能にする共生発芽法の技術を確立し、この方法を用いて開花株を得ることにも成功した。また、菌との共生系の実態を解明するとともに共生菌の分類学的検討も行い、その由来が樹木の外生菌である可能性を示唆した。これらの諸知見は、現存自生地での保全管理にとどまらず、自生地の再生・復元を行なう際にも有益と考えられた。