著者
近藤 禎二 津村 義彦 河原 孝行 岡村 政則
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.177-179, 1998-06-01
被引用文献数
2

針葉樹では葉緑体DNAが父性遺伝し,ミトコンドリアDNAが種によって父性あるいは母性遺伝することが報告されている。ヒノキ科についてはオニヒバ属について一例報告されているのみである。そこで,わが国において林業上重要なヒノキ属について葉緑体DNAとミトコンドリアDNAの遺伝様式を調べた。ヒノキとサワラの種問雑種4個体から全DNAを抽出し,制限酵素HindIIIで切断し,タバコの葉緑体DNAのpTB 8をプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは,4個体すべてが父親であるサワラと同じパターンを示した(Fig.1)。ミトコンドリアDNAについては,BglIIで切断し,PCRで増殖したcoxIをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは,4個体すべてが父親であるサワラと同じパターンを示した(Fig.2)。以上の結果から,ヒノキ属では葉緑体DNAおよびミトコンドリアDNAとも父性遺伝すると考えられ,オニヒバ属での結果と一致した。ミトコンドリアDNAは葉緑体DNAに比べて種間の多型が多かった。PCRで増殖したcoxI遺伝子の一部は長さが1325bpで,被子植物とも高い相同性を示し,これをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは明瞭なパターンを得た。
著者
杉浦 直人 幸田 泰則 高橋 英樹 河原 孝行
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、絶滅危惧種レブンアツモリソウの生物学的特性を解明し、その研究成果を効果的な保全管理・指針の実施に反映させることである。また、自生地の再生に用いるのに適した株の供給技術の開発もめざす。さらにカラフトアツモリソウとの交雑に関する現況調査も実施する。以下、4年間の調査研究によって得られた成果の概要を記す。1.マルハナバチ媒花としてのレブンアツモリソウの花の特性を明示するとともに、その結果率および稔性種子率に関するデータ解析等から送粉者としてのニセハイイロマルハナバチの能力についても評価した。また、この送粉昆虫にとって、ヒロハクサフジなどのマメ科草本が花資源として重要なことも解明した。2.生育地の立地や植生等に関する知見、たとえば、低標高で北西斜面の、比較的水はけの良い土地を好む、あるいはマイズルソウなどが共存種として頻出するなどのレブンアツモリソウの生育環境に関する共通項を解明した。また、花形態の解析や標本調査等から、その分類学的位置についても考察を加えた。3.レプンアツモリソウ個体群の遺伝的多様度を求め、地域集団問に大きな相違がないことを明らかにした。さらに、カラフトアツモリソウとの間に雑種が生じており、このまま放置すれば雑種化が進行してしまう危険性があることも指摘した。4.自生地の復元に最適な株の供給を可能にする共生発芽法の技術を確立し、この方法を用いて開花株を得ることにも成功した。また、菌との共生系の実態を解明するとともに共生菌の分類学的検討も行い、その由来が樹木の外生菌である可能性を示唆した。これらの諸知見は、現存自生地での保全管理にとどまらず、自生地の再生・復元を行なう際にも有益と考えられた。
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
著者
河原 孝行
出版者
森林遺伝育種学会
雑誌
森林遺伝育種 (ISSN:21873453)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.15-22, 2014-01-25 (Released:2020-07-13)
参考文献数
15
著者
河原 孝行 平岡 裕一郎 渡辺 敦史 小岩 俊行 滝 久智 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

ウルシは日本の伝統工芸を支える漆を得るための重要な特用林産物である。文化財修復など国産漆の需要は高まっており、安定供給が求められているが、その伝統に反し、ウルシの育林技術は確立されていない。健全な育苗を行っていくために、ウルシ林がどのような繁殖構造を持っているか遺伝解析によって検討した。<br> 北海道網走市及び岩手県二戸市浄法寺町に植栽されるウルシ林を材料として用いた。SSR10座を用い、multiplexによるPCR増幅後ABI prism 3100XLにより遺伝子型を決定した。 網走の2林分において6mx6m内の全ラメットを採取し、クローン構造を決定した。成長良好箇所はラメット数が少なく(134)、22のマルチジェノタイプ、不良個所はラメット数が多く(223)、24のジェノタイプが検出された。この結果、約20年での萌芽枝の最大伸長は4m前後であり、自然実生による更新も行われていることが示された。また、上伸成長がよい個体では萌芽枝を発生しないか少ないことが示された。 <br> 両地域の代表的な母樹を選び、父性分析を行ったところ、隣の林分からの遺伝子フローもあることが示された。
著者
古川 成治 吉丸 博志 河原 孝行
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.341-345, 1999-11-16

ニホンギリ・チョウセンギリの混在する会津地方のキリを材料に, DNA分子マーカーにより分類を試みた。花の形態に基づき各種24個体, 計48個体を選抜し実験に供した。RAPD分析による多型的バンドデータをもとに分類した結果, 14タイプに分類された。また, 遺伝距離を算出しクラスター分析を行ったところ, 花の形態と一致しない二つのクラスターに分かれることが判明した。次に葉緑体DNAの一部のシークエンス決定を行った結果, matK遺伝子上に2カ所の塩基置換があり, この2カ所の塩基置換は制限酵素で切ることにより識別できることが判明した。48個体の識別を試みた結果, これも花の形態とは一致しない二つのタイプに分類された。この葉緑体DNAの制限酵素断片長多型で識別できる二つのタイプのキリは, RAPD分析の結果と一致したが, 花の形態による分類とは一致しなかった。