著者
河口 豊 日下部 宜宏 李 在萬
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

ユスリカは高等真核生物中で最も過酷な環境に多様な形で適応している生物の1つであり、高温、乾燥、低pH、低酸素状態に強い耐性を示す種が存在する。1種で全ての厳しい環壌に適応出来る訳ではないが、温泉ユスリカと総称される一群の種は、幼虫期を50℃程度の高水温下で過ごすことができる。このため、温泉ユスリカ由来のタンパク質は熱に対して比較的安定であると考えられる。熱耐性生物由来のタンパク質は、その精製の容易ざ、結晶構造の安定さより、PCR酵素に代表される試薬として、また、構造生物学における材料として幅広く活用されている。本年度も、強い高温耐性のユスリカの採集を目的に、調査を行い、数種のユスリカを採集した。しかしこれらのユスリカは42-45度程度の水温の温泉に生息しており、50度を超える温水からは採取できなかった。これらのユスリカよりmRNAを調整し、cDNAを作製したが、野外より採取した個体から調整したため、逆転写反応の効率が悪く、長鎖のcDNAを含むクローンが少なかった。そのため、クローンを選択、配列決定後、ホモロジー検索によりcDNAがタンパク質の全長配列を含んでいると判断されたものの割合が研究室で継代したユスリカ由来のクローンに比較して少なかった。これらのクローンについては、バキュロウイルスを用いた昆虫細胞系を用いて、ヒスチジンタグ付きの組換えタンパク質としての発現を試みたが、中程度の耐熱性を有するクローンがほとんどで、非常に高い耐熱性を示す組み換えタンパク質は得られなかった。