著者
中村 遼 海老澤 健太郎 奥澤 智子 李 忠翰 関谷 勇司
雑誌
インターネットと運用技術シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.40-47, 2022-12-01

本研究では,Equal Cost Multi-path (ECMP) を拡張することで既存の ECMP の欠点を解消した新しいロードバランス手法を提案する.一般的なハードウェアルータの持つ ECMP 機能はトラフィックをフローごとに複数のネクストホップに分散することができる.つまり ECMP をそのままロードバランサとして利用できれば,専用の機材を導入するのと比較してコスト面,運用面における負荷が少ない.しかし ECMP は,フローのハッシュ値とネクストホップ数によってパケットの転送先を決定するため,ネクストホップとなるサーバの数が増減した場合,既存のコネクションが異なるサーバに届き切断されるという問題がある.本研究では,この問題を解決するため ECMP を拡張した ECMP with Explicit Retransmission (ECMP-ER) を提案する.ECMP-ER は Layer-3 の ECMP を基礎としており,既存の経路制御プロトコルで動作する.その上で ECMP-ER では,ルータが ECMP の経路について,現在のネクストホップに加えて過去のネクストホップ情報も保持する.サーバの増減時に異なるサーバに届いたフローのパケットは,サーバがルータへ再送し,さらにルータが過去のネクストホップを参照して再送することで最終的に適切なサーバへ転送される.本研究では ECMP-ER を P4 スイッチを用いて試作し評価した結果,ECMP では 20% 以上のコネクションが切断される状況においても,ECMP-ER は全てのコネクションを維持したままトラフィックを分散できることを確認した.
著者
小堀 和人 李 忠翰 廣津 登志夫
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2022-OS-155, no.1, pp.1-9, 2022-05-19

近年普及の進んでいるマイクロサービスアーキテクチャでは,多数のモジュールが目的や状況に応じて柔軟に連携しあうため,構成が複雑になりやすくシステム全体を通した性能分析や負荷状況の把握が困難である.このような分散した複数のモジュールからなるサービスの実行状況の監視や性能の分析のためには分散トレーシングが用いられる.分散トレーシングでは,各マイクロサービス上で収集した統計情報の整合性を確保するため,サーバ間の高精度な時刻同期が重要である.Linux 上の高精度時刻同期プロトコル (Precision Time Protocol: PTP) の実装では,NIC のドライバ上でパケットのタイムスタンプを取得することで時刻同期の精度を向上させることができるが,これはドライバの実装に依存するためより汎用な仕組みで実現することが望ましい.本研究ではカーネルが提供する機能の一つである eBPF を用い,可搬性の高い高精度時刻同期を実現した.その設計と実装について述べるとともに,PTP マスタとの同期のずれの推移を元に,本提案実装がドライバ依存の実装と同等の性能を持つことを示す.
著者
金子 直矢 李 忠翰 阿部 博 岡田 和也
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2023-IOT-60, no.18, pp.1-8, 2023-03-08

移動体通信機能を備えたコネクティッドカーが普及しつつあり,将来的に通信機能を活用した様々なサービスの登場が期待される.その 1 つとして挙げられる自動車の遠隔運転では,従来運転者が車内で知覚していた視聴覚情報を,遠隔地にいるオペレータへ低遅延かつ安定的に伝送しなければならず,特に視覚情報である映像は,オペレータが主として運転操作に用いるため欠かせない.しかし,移動体通信は自動車の走行位置および時間によって信頼性,可用帯域,遅延が動的に変化するため,通信品質が保たれず遠隔運転の中断に繋がる可能性がある.遠隔運転の中断を抑制するために,通信品質の劣化を早期に検知または推測し,品質劣化エリアの回避,映像品質の制御を通した要求帯域の低減や,他の通信手段への切り替え等の手法が必要である.既存研究では移動体通信回線情報を用いて,可用帯域の予測および予測結果に基づく映像品質制御手法を提案している.本報告では,公道を走行中の自動車から移動体通信回線を用いて遠隔地へ映像を伝送する環境で,通信品質,映像品質および移動体通信回線情報の採取を行い,自動車走行環境における通信・映像品質劣化の推測可能性を検討する.