著者
李 雅旬
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.111-124, 2016-12-15

川端康成『美しさと哀しみと』は雑誌連載当時、加山又造の挿絵が六十六葉も添えられていた。それらが非常に好評であったにもかかわらず、これまでの『美しさと哀しみと』論ではほとんど考慮に入れられてこなかった。また、初出の結び方について、同時代評にも先行研究にも批判の声が絶えなかったが、その原因はいったいどこにあるだろうか。さらに、『日本の文学』の第三十八巻『川端康成』(中央公論社、一九六四・三)に収録される際に結末の部分は書き加えられた。この加筆をめぐってどう解釈すればよいか。この小論の目的は、『美しさと哀しみと』の物語内容と挿絵とを合わせて分析し、とりわけ最後の一葉、およびそれに関連する小説の結末を再検討することにある。つまるところ、初出の結末は古賀春江の「煙火」に描かれた画面に向かって進んでいたのであり、川端所蔵の美術品は隠された形で物語の展開に関与していたのである。なお、結末の加筆に関しは、時間論的観点から、加筆によってテクストに余韻が無くなったという批判的な解釈を導き出す。