著者
花木 瑞穂 村上 一馬 赤木 謙一 入江 一浩
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP43, 2015 (Released:2018-10-01)

【緒 言】 アルツハイマー病(AD)の原因物質と考えられている42残基のアミロイド b タンパク質(Ab42)は,分子間 b シート構造を形成することによって凝集し,脳内に蓄積する.近年,この過程で形成される凝集中間体であるオリゴマー(2あるいは3量体を基本単位とした2 ~ 24量体)が神経細胞毒性を示すことが知られている.Ab42の凝集はAD発症の15年以上前から起こる最も初期の病理変化であることから,凝集を阻害する化合物はADの予防薬となる可能性がある.野菜や果物に含まれるフラボノイドの多くはAb42の凝集抑制能を示すことから注目されているが,その抑制機構の詳細は不明な点が多い. 本研究グループはこれまでに,マリアアザミ種子のメタノール抽出物であるシリマリンが,in vitro及びin vivoにおいて抗AD活性を示すことを明らかにするとともに1),シリマリン中のAb42凝集抑制活性成分として,カテコール構造を有するフラボノイドである (+)-タキシフォリンを同定した2).さらに,(+)-タキシフォリンは,溶存酸素により酸化されてo-キノン体を形成し,Ab42の16あるいは28番目のリシン残基(Lys16, 28)と共有結合(マイケル付加)することによって,凝集を抑制することを明らかにした3)(図1).一方,カテコール構造をもたない一部のフラボノ 図1. カテコール型フラボノイドによるAb42凝集抑制機構3).Lys残基は分子間 b シート領域に含まれることから,付加体を形成することで分子間 b シートの形成を阻害していると考えられる.図2. 非カテコール型フラボノイドの構造およびフラボノイド非存在下/存在下での1H-15N SOFAST-HMQCスペクトル.黒はフラボノイド非存在下でのAb42(25 mM)のスペクトル,灰色は各種フラボノイド存在下(500 mM)でのAb42のスペクトルを示す.Kaempferoloxはケンフェロール酸化分解物を表す.イドにも凝集抑制作用が認められている.本研究グループの先行研究において,非カテコール型フラボノイドはリシン残基を標的とせず,別のメカニズムを介して凝集を抑制している可能性が示唆された3).本研究は,非カテコール型フラボノイドによるAb42凝集抑制機構を分子レベルで解明することを目的としている.【方法および結果】1. モリンおよびダチセチンによるAb42の凝集抑制機構の解析 本研究では,タキシフォリン(25 mMのAb42の凝集能を50% 阻害するのに要する濃度:IC50 = 33.0 mM)と同程度の凝集抑制能をもつ非カテコール型フラボノイドとして,モリン(IC50 = 30.3 mM),ダチセチン(IC50= 55.4 mM),ケンフェロール(IC50= 75.1 mM)に着目した(図2).まず,空気酸化による凝集抑制能への影響を調べるため,チオフラビンT蛍光法を用いて,低酸素条件下(デシケーター中アルゴン雰囲気下)における凝集抑制能を調べた.その結果,いずれも通常の酸素濃度下と同様に凝集を抑制した.また,モリンとダチセチンのUVスペクトルは48時間(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
入江 一浩 増田 裕一 村上 一馬 上村 諭子 大東 肇 原 英之 大橋 竜太郎 中西 梓 竹腰 清乃理
出版者
天然有機化合物討論会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
no.49, pp.61-66, 2007-08-24

Aggregation of the 42-mer amyloid β (Aβ42) plays a central role in the pathogenesis of Alzheimer's disease. Our recent research on the systematic replacement of Aβ42 with proline suggested that the formation of a turn structure at Glu-22 and Asp-23 could be essential to the potent aggregative ability and neurotoxicity of Aβ42. We verified the existence of this turn structure in the minor conformer of wild-type Aβ42 and E22K-Aβ42 (Italian mutation), by solid-state NMR using dipolar assisted rotational resonance (DARR). In E22K-Aβ42, the ionic interaction between Lys-22 and Asp-23 might promote the turn formation at this site. In order to identify the toxic conformation of Aβ42, we synthesized Aβ42-lactam(22K-23E) as a conformationally restricted analogue of the minor conformer, whose side chains of Lys-22 and Glu-23 are linked with an amide bond. Aβ42-lactam(22K-23E) showed much stronger aggregative ability and neurotoxicity than E22K-Aβ42. This implies that the minor conformer with a turn at Glu-22 and Asp-23 of Aβ42 should be considered as a toxic form. Neurotoxicity of Aβ42 is closely related to the radicalization at both Tyr-10 and Met-35. Our previous study reminds us that the S-oxidized radical cation at position 35, the ultimate toxic radical species, would be produced effectively through oxidation by the phenoxy radical at position 10 in the toxic conformer. Electron spin resonance (ESR) spectrometry using spin-labeling with MTSSL revealed that these residues are close to each other in Aβ42. This finding clearly accounts for the reason why the toxic conformer is more pathogenic than the physiological one.