著者
村上 研一
出版者
経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 = The annual of the Institute of Economic Research, Chuo University (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.53, pp.35-63, 2021

本稿では、地球温暖化の抑制をめざす各国の「脱炭素」の取り組みが自動車および関連諸産業に及ぼす影響について検討した。2020年には、中国や日本政府が目標年次を定めて温暖化ガス排出実質ゼロを実現する目標を打ち出し、環境問題を重視するバイデン氏が大統領選に勝利するなど、各国で「脱炭素」をめざす動きが進んだ。とくに自動車分野をめぐっては、EVやFCVなどゼロエミッション車の購入支援に加え、メーカーごとの排出量規制や、ガソリン車の販売を禁止する目標年次の設定などの施策が実施・予定されている。こうした政府の諸施策を受けて、世界の自動車メーカーのEVシフトが急展開している。テスラや中国メーカーがEV販売を拡大させる中、世界の既存自動車メーカーもEVの量産体制確立に向け、投資拡大や経営再編を進めている。また、車載電池やモーター、パワー半導体などEV関連部品・部材メーカーの生産拡大に向けた投資、原材料確保、技術開発などをめぐっても競争が激化している。さらには、充電インフラ整備や自動運転技術の開発・実用化など、社会システムの変革につながる動きもみられる。こうした状況の下、新興EVメーカーに加えて、新たに参入をはかるICT企業、政府支援を背景に急速に技術力・生産力を高めている中国企業など、多様なプレイヤーの動きが活発化している。