著者
村宮 克彦
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.131-151, 2008-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿は,経営者の公表する予想利益の有用性を企業価値評価の観点から評価する.日本では,決算発表の際に経営者が次期の予想利益を公表している.これは,証券取引所の要請に基づくものであり,財務内容のサマリー情報が掲載される決算短信とよばれる書類の中で,大部分の上場企業の経営者はこの要請に応じる形で次期の予想利益を公表している.本研究では,経営者が公表するこうした予想利益を企業価値評価モデルヘインプットすることで株式の本源的価値(V)を推定し,現在成立している株価(P)との比率,すなわちV/Pに将来リターンの予測能力があるかどうかを検証することで,経営者が公表する予想利益の有用性を判断する.一連の分析から,経営者の公表する予想利益に基づくV/Pに将来リターンの予測能力があり,その予測能力の源泉は,市場のミス・プライシングに起因することを明らかにする.この分析結果は,経営者による予想利益が投資者の企業価値評価にとって有用な情報であり,投資者はそうした予想利益に基づいて企業価値を評価することで,市場でのミス・プライシングを利用して超過リターンを獲得できる機会を有していることを示唆している.