著者
リチャード A ヴェルナー
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.17-40, 1999-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
87

金融政策ツールに関する論文のほとんどは,「公式」な政策手段をめぐるものである.しかし,金融当局が民間部門の行動に影響を与える重要な「非公式」の手段が存在する.本稿では,日本の中央銀行が用いてきた金融政策の非公式の手段である,いわゆる「窓口指導」による信用規制の役割を検討する.「窓口指導」は超法規的政策手段であるため,その実施過程の解明には一次的・ニ次的な現場の証言を活用する.我々は,1980年代後半に実際の「窓口指導」に関与した中央銀行や民間銀行の担当者に直接インタビューを行った.調査の結果判明したのは,一般的な見解とは異なり,「窓口指導」は1980年代を通じて実施され,極めて有効であったということである.バブル時期の銀行貸出量は完全に日銀の信用統制で決定され,不動産向け等の過剰貸出現象は日銀の「窓口指導」の結果であった事も明確になった.最後に本稿では,政策的な意味合いを指摘している.
著者
花枝 英樹 芹田 敏夫
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.129-160, 2008-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
18
被引用文献数
4

わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い,回答企業629社の分析から,日本企業の平均的な認識としてつぎのような結果を得た.配当決定については,一時的な利益の変動では配当を変化させず,長期的に増益が見込めるときに初めて増配する.配当決定は投資決定とは独立に行われている.また,減配回避の考えが非常に強い.一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められているが,まだ,本来の役割についての理解が十分でない.現金配当についてはフリーキャッシュフロー仮説を支持しないが,自社株買いについては同仮説を棄却できなかった.ペッキングオーダー仮説,ライフサイクル仮説については,配当,自社株買いともに支持されなかったが,情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている.
著者
佐々木 隆文 佐々木 寿記 胥 鵬 花枝 英樹
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.19-48, 2016-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究では日本企業を対象に流動性保有の動機,目的をアンケートにより調査し,(1)日本企業においても米国を含めた外国企業と同様,予備的動機が余剰資金保有の最も重要な動機となっていること,(2)日本企業における余剰資金保有では,消極的な予備的動機(将来のキャッシュフロー不足への備え)のみでなく,積極的な予備的動機(将来,予想外の投資機会が生じた場合への備え)も同じぐらい重要な動機となっていること,(3)当座貸越の利用やメインバンクへの信頼感がコミットメントライン未設定の要因になっていること,(4)余剰資金保有の背景に直接金融へのアクセスが限定されているとの認識があること,(5)銀行への信頼感は積極的な予備的動機による余剰資金保有のみを代替し,消極的な予備的動機による余剰資金保有を代替しないこと,(6)ガバナンスのあり方が流動性手段の選択に影響を及ぼすなどの知見を得た.
著者
本多 俊毅
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-24, 2019-03-29 (Released:2019-03-31)
参考文献数
40

Markowitz[1952]によって平均分散ポートフォリオ理論が提案されて以来,およそ65年が経過した.平均分散モデルをそのまま実務で利用することは難しいし,最適化問題としても古典的な手法を用いた応用例のひとつに過ぎない.しかし,今日においても依然として重要な考え方であることは間違いない.本稿では,近年のファイナンス研究の展開を平均分散モデルと関連づけながら紹介し,資産市場の分析やポートフォリオ戦略の構築において,このモデルが現在でも非常に有効な方法論を提供していることを示してゆきたい.
著者
内山 朋規 岩澤 誠一郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.61-86, 2012-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
41

人々には,右裾が厚く左裾が薄いリターン分布を持つ,宝くじのような証券を好む傾向があるとされる.このような証券は割高で期待リターンが低くなるという累積プロスペクト理論による示唆に基づき,分布の歪みを表す二つの尺度を用いて,株価リターンと投資家行動に関する実証を行う.まず,分布の歪みによって翌月の平均リターンはクロスセクションで異なり,宝くじのような証券ほど,平均的に将来のリターンが低いことを示す.この差は,期待効用理論による示唆とは整合せず,リスクプレミアムとして解釈することも難しい.次に,洗練されていない投資家は,宝くじのような証券を多く保有する傾向があり,さらには,このような証券を割高な水準にまで買い上げるという見方に整合的な結果も示す.本稿の実証結果は,累積プロスペクト理論の示唆する投資家行動がわが国株式市場で実際に存在し,株価形成に影響を及ぼしていることの証拠を提示するものである.
著者
須田 一幸 竹原 均
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.3-26, 2005-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は,第1に,残余利益モデルと割引キャッシュフローモデルを用いてロング・ショート・ポートフォリオを構築し,ポートフォリオ・リターンの発生構造を分析する.ポートフォリオ・リターンの推移を月次で観察した結果,残余利益モデルに基づきロング・ショート・ポートフォリオを構築した場合,ポートフォリオの構築後6カ月間について大きなリターンを獲得できることが明らかになった.本研究は,第2に,残余利益モデルの推定と会計利益の質との関係を究明するため,ポートフォリオの構成企業が公表した会計利益における会計発生高と異常発牛高を分析した.その結果,残余利益モデルに基づいて作成したロング・ショート・ポートフォリオと,異常発生高によるロング・ショート・ポートフォリオにおけるリターンの間に,統計的に有意な関係が存在していることがわかった.さらに,異常発生高を計測し会計利益の質をコントロールした上で,残余利益モデルによる株式価値評価を実施すれば,株式価値評価の精度は向上するということが判明した.
著者
瀬之口 潤輔 小畑 崇弘 酒本 隆太 倉橋 節也
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.71-89, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
27

計量モデルを用いた株価予測は多くの研究者や実務家によって行われているが,計量モデルによる株価予測が可能かについては依然として結論は出ていない.予測変数が持つ長期的な情報と短期的な情報がそれぞれ株価に反映される可能性があること,株価と多くの予測変数の関係は単純な線形ではないことなどにより,株式市場の構造をモデル化することが困難であることが理由として挙げられる.本研究では,このような株式市場の複雑な構造を捉えるために,多重解像度解析により複数の要因で異なる周波数特性の変化を抽出したものを説明変数とし,非線形非連続な関係を表現できるxgboostをモデル作成手法として株価予想モデルを作成し,比較的高い予想精度が示されることを確認した.また株価予想モデルが株式市場の局面変化に合わせて変化している様子を示すことにより,大局的な株式市場の構造変化を認識することも可能にした.
著者
鈴木 雅貴
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-25, 2019-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
86

本論文では,株式バブルの識別に関するファイナンス研究の最新動向を展望する.株式バブルは実体経済に多大な影響を及ぼしうるものの,そのメカニズムについていまだ解明されていない部分が多い.その一因は,株式の基礎的価値(ファンダメンタルズ)の推定が難しい点にある.そこで,本論文ではまずファイナンス研究の領域で長年用いられてきた株式ファンダメンタルズの推定手法を概観し,その応用上の問題点を整理する.一方,株式関連デリバティブ価格や近年登場した株式配当先物の価格には,将来の株式配当に関する情報が多く含まれていることが最新の研究によって明らかにされている.そこで,本論文では株式配当先物価格を用いた株式ファンダメンタルズの推定手法を提案する.株式配当先物価格には,長期配当に関する投資家の(リスク調整済み)期待が瞬時に反映されるため,これを有効活用することによって,従来手法よりも即時性が高くかつ客観的な株式ファンダメンタルズの推定値を得ることが可能となる.また論文後半では,当該手法から算出される株式バブル変数を用いて,株式バブルの発生メカニズムに関する定量的な分析を行う.
著者
平元 逹也
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.31-55, 2002-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究では,日本企業を対象に,比較可能な専業企業のポートフォリオから求めた多角化企業の理論上の企業価値と実際の価値との比較によって,多角化による企業価値への影響を検証した.分析結果から,多角化による企業価値の破壊が確認された.多角化の辿展により価値破壊は増大し,関連事業への多角化も非関辿事業への多角化と同様に企業価値の破壊をもたらすことが確認された.企業の多角化は経営者の専門性の低下,経常資源の分散などによるマイナスの影響を引き起こし,多角化の進展はその影響を強めると考えられる.関連事業への多角化は,事業間のシナジー効果が期待できるが,関連事業であるがゆえの事業間のコンフリクト,重複投資による非効率性などにより企業価値にはマイナスの影響を与えると考えられる.また,ガバナンス構造との分析では,メインバンクは債権者の立場から,多角化に対してもモニタリング機能を果たしているという示唆が得られた.
著者
山田 徹 後藤 晋吾
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
pp.420002, (Released:2020-04-28)
参考文献数
60

財務データベースにある全ての項目を用いて財務シグナルを生成するデータマイニング法を用いて,現行の日本株ファクターモデルの説明力を検証し,今後のモデル改良への示唆を得た.検証対象は主にFama–Frenchファクターモデル群とした.収益性ファクターと低投資ファクターを含む新しいファクターモデルは,これらを含まない3ファクターモデルに比べて財務シグナルのポートフォリオ・リターンをより良く説明する.しかし,ブートストラップ法による検定により,偶然(偽発見)の可能性を勘案した後でも現行のファクターモデルでは十分に説明できないアノマリーがあることがわかった.これら頑健なアノマリーの中には,企業の無形資産投資や経営者の内生的な意思決定を強く反映すると解釈できる財務シグナルが複数見つかった.これらは今後のファクターモデルが織り込んで発展していくべき方向を示唆していると考えられる.
著者
村宮 克彦
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.131-151, 2008-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿は,経営者の公表する予想利益の有用性を企業価値評価の観点から評価する.日本では,決算発表の際に経営者が次期の予想利益を公表している.これは,証券取引所の要請に基づくものであり,財務内容のサマリー情報が掲載される決算短信とよばれる書類の中で,大部分の上場企業の経営者はこの要請に応じる形で次期の予想利益を公表している.本研究では,経営者が公表するこうした予想利益を企業価値評価モデルヘインプットすることで株式の本源的価値(V)を推定し,現在成立している株価(P)との比率,すなわちV/Pに将来リターンの予測能力があるかどうかを検証することで,経営者が公表する予想利益の有用性を判断する.一連の分析から,経営者の公表する予想利益に基づくV/Pに将来リターンの予測能力があり,その予測能力の源泉は,市場のミス・プライシングに起因することを明らかにする.この分析結果は,経営者による予想利益が投資者の企業価値評価にとって有用な情報であり,投資者はそうした予想利益に基づいて企業価値を評価することで,市場でのミス・プライシングを利用して超過リターンを獲得できる機会を有していることを示唆している.
著者
内山 朋規 濱田 将光
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.31-54, 2007-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
28
被引用文献数
1

個別銘柄データを用いて,わが国の普通社債のクレジットスプレッド変化やリターンのクロスセクションにおける様々な特徴を実証する.結果として,クレジットリスクの低い社債では前月スプレッド変化や国債イールド変化といった割引率が社債スプレッド変化の銘柄間格差に重要な変数である一方,クレジットリスクの高い社債では株価リターンや株価ボラティリティが重要な変数であることを示す.また,クレジットリスクが高い社債ではスプレッド変化にモメンタム効果がある一方,クレジットリスクの低い社債ではスプレッド変化にリバーサル効果があること,さらに,社債リターンには株式市場とは逆のモメンタム効果が観察され,クレジットリスクの高い社債で顕著であることが分かる.また,クレジットリスクの高い社債では,株価が社債スプレッドや社債リターンに先行し,株式市場は社債市場よりも早く情報を価格に反映する傾向があることなども示す.
著者
Paul Pfleiderer Terry Marsh 渡辺 泰明
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.41-59, 2012-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
5

本稿では,金融危機の下でリスクとリスク回避姿勢の双方が顕著に高まった状況において需要と供給という基本的な経済理論がどのように作用するかを検証した.我々はこれを行うにあたり,非常に簡易的なモデルを構築し状況の変化に応じて投資家は,投資家間でどのように取引をすべきかをそのモデルにおいて検討した.第2節では,本稿の「基本シナリオ」を説明することとする.状況が変化する中でリスクプレミアムがどのように決定されるかを説明し,また投資家が危機対応の為の調整を実行するときに生じる取引を検証する.第3節では,本稿の基本シナリオにかかる種々のバリエーションを検討し,そうした異なるシナリオにおいても,基本シナリオから導き出した全般的な結論が成立することを示す.そして第4節では検証結果の要約を行い,全体のまとめを提示する.
著者
久保田 敬一 竹原 均
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.3-23, 2007-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究は,Fama and French[1993]で提案されたファクターモデルにおいて導入されたSMBファクター,およびHMLファクターを,米国実証研究における標準的方法に基づいて日本データについて測定し,その特性を検証するとともに,日本市場におけるFama-French3ファクターモデルの有効性,頑健性を再検証する.1977年9月から2006年8月までの29年間のデータを使用して新たに分析を行った結果,HMLファクターは,現在でも期待リターンと統計的に有意な相関関係を持つことが明らかとなった.またSMBファクターに関しては,小型株効果が長期で安定的ではないことを原因として,期待リターンとの関係も不安定であった.しかしながら,アセットプライシングの実証分析上,不要とは判断すべきでないことを示唆する証拠も主成分分析の結果から得た.次に我々はスタイル分析を実施することにより,証券会社が情報提供し,実務界で広く利用されているスタイルインデックスと,SMB,HMLファクター構築の過程で計算されるFama-French6ベンチマークの性質が大きく異なることを示した.この結果,スタイルインデックスを代用して計算した擬似SMB,HMLではなく,Fama/French[1993]において提案された方法に従ってSMB,HMLファクターを測定することが,実証研究結果の国際比較可能性を確保するための必要条件であることを最後に主張する.
著者
霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.27-48, 2021-04-17 (Released:2021-04-17)
参考文献数
34

資産価格変動要因の特定はファイナンスにおける重要なトピックの一つである.その中でも日次など短期の変動要因を特定することは,経済イベントと紐づけて議論するために特に重要である.しかし,短期の変動要因の分析に適した方法は少なく,関連した研究はこれまでなされていない.本研究では,オプション価格情報を利用した変動要因の分解方法を提案し,米国株式指数の日次リターンの変動要因を分析する.具体的にはRecovery Theoremを用いてオプション価格から推定した実分布とSDFをもとに,リターンをキャッシュフロー要因と割引率要因に分解する.オプション価格は情報を迅速に織り込むため,短期の変動要因の分析に適すると考えられる.実証分析の結果から,キャッシュフロー要因が短期の価格変動の主要因であることが明らかになった.ただし,FOMCアナウンスメント日には割引率要因の影響がそれ以外の日と比べて大きくなることもわかった.
著者
花枝 英樹 胥 鵬 鈴木 健嗣
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-100, 2010-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
58
被引用文献数
2

わが国全上場企業を対象にM&Aに関するサーベイ調査を行い,回答企業526社の分析からつぎのような結果を得た.第1に,近年の日本におけるM&Aの主目的は市場シェア拡大の水平的なM&Aが中心で,実際に成果があったと意識されている.しかし,ブランドカや研究開発力といった見えざる経営資源の有効活用については成果が少ない.第2に,M&Aに際しての人員,給与体系,事業部門の調整の仕方の違いがM&Aの効果に大きな影響を及ぼしている.第3に,70%近い企業が成熟衰退事業を現在・今後抱えると答えており,雇用維持を配慮した対処に腐心している.第4に,敵対的買収に対して否定的な考え方が強いが,敵対的買収に対する備えとしては,業績改善,IRの充実,株主への利益還元を重視している.また,防衛策として株式持合いも重視しており,事前警告型買収防衛策を導入すれば株式持合いは必要ないと考えるのではなく,両者をむしろ補完的に考えている.
著者
白須 洋子 米澤 康博
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.101-127, 2008-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
67
被引用文献数
2

本稿は,1997年から2002年前半までのいわゆる金融逼迫時における国内社債流通利回りの対国債スプレッド(杜債スプレッド)変動を実証的に分析し,その変動要因を明らかにすることを目的としている.分析の結果,金融逼迫時等の状況下では,投資家は,より流動性のある社債又は国債へ,あるいは,より安全性の高い高格付け債に資金需要を逃避させる,いわゆるflight to liquidityあるいはflight to qualityと言われる現象が見受けられた.前者は流動性制約を有する投資家の流動性需要によって,後者は投資家の危険回避度の高まりによってそれぞれ説明できることがわかった.また両現象のうちflight to liquidityの方が強いことも明らかになった.流動性に関しては,これまでの分析はマーケット・マイクロストラクチャーの視点から見た,執行コストを分析の対象としたものであったが,本稿は投資家の流動性需要という価格に直接的に影響を与える要因を取り上げた点に特長があり,従来の実証分析とは大きく異なる.
著者
加藤 英明 高橋 大志
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.35-50, 2004-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
11

本稿は,日本の株式市場と天候の関係を過去40年間の日次データを基に分析したものである.伝統的ファイナンスの立場にたてば,天候が株価に対し影響を与えると考えることは難しい.しかし,分析の結果は,株価の動きと天候の間には,統計的に有意な関係があることを示している.さらに,その関係は,これまでに報告されている月曜効果,1月効果などのアノマリーを考慮しても,強く残ることが確認された.これらの結果は,伝統的ファイナンスの仮定している合理的な意思決定では投資家行動を説明できないことを示唆している.
著者
金 鉉玉 藤谷 涼佑
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.59-87, 2022-05-31 (Released:2022-05-31)
参考文献数
44

本稿では,長期負債の返済のタイミングにおける雇用水準の変化を分析することで,企業が資金調達を目的として雇用水準を変化させるのかを検証する.2000年度から2018年度までの45,630企業/年を用いた分析の結果,長期負債の返済と雇用水準の変化は負の関係にあることがわかった.具体的には,次期に長期負債の返済を迎える企業はそうでない企業と比較して,当期の雇用水準が減少しているもしくはその増加が抑制されていることが確認された.このような傾向は,財務情報の質が高いほど,また銀行企業間関係が強いほど弱くなることも確認された.さらに,長期負債の返済と雇用水準との間の負の関係に財務情報の質が与える影響は,銀行企業間関係が弱い企業で強くなることも明らかになった.これらの発見は,代替的な資金調達のコストが高い企業ほど,雇用水準を変化させることで資金調達を行う傾向にあるという仮説と整合する.そして,この資金調達を目的とした雇用水準の変化に与える影響という点において,財務情報の質と銀行企業間関係とが代替的な関係にあることを示唆している.
著者
金 鉉玉 藤谷 涼佑
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
pp.450001, (Released:2022-04-05)
参考文献数
44

本稿では,長期負債の返済のタイミングにおける雇用水準の変化を分析することで,企業が資金調達を目的として雇用水準を変化させるのかを検証する.2000年度から2018年度までの45,630企業/年を用いた分析の結果,長期負債の返済と雇用水準の変化は負の関係にあることがわかった.具体的には,次期に長期負債の返済を迎える企業はそうでない企業と比較して,当期の雇用水準が減少しているもしくはその増加が抑制されていることが確認された.このような傾向は,財務情報の質が高いほど,また銀行企業間関係が強いほど弱くなることも確認された.さらに,長期負債の返済と雇用水準との間の負の関係に財務情報の質が与える影響は,銀行企業間関係が弱い企業で強くなることも明らかになった.これらの発見は,代替的な資金調達のコストが高い企業ほど,雇用水準を変化させることで資金調達を行う傾向にあるという仮説と整合する.そして,この資金調達を目的とした雇用水準の変化に与える影響という点において,財務情報の質と銀行企業間関係とが代替的な関係にあることを示唆している.