著者
奥 智佳子 池田 真起子 井上 晃一 村尾 昌信 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0499, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年慢性腰痛患者において腰部多裂筋(以下LM)が,椎間関節由来のReflex Inhibition(以下RI)により選択的な萎縮を来すことが多数報告される。腰背部のGlobal筋とLocal筋であるLMの活動バランスが崩れた状態となっている。このLMの活動が低下した腰部筋の活動バランスを是正するエクササイズとしてバードドッグ(以下BD-ex)が推奨されている。しかし実際に臨床でBD-exを適用する際,BD-exが四つ這い位を基本肢位とするため人工膝関節置換術を施行している者や高齢者では疼痛や転倒リスクの問題により実施困難であることを経験する。そこで我々は背臥位で安全に行えるLMの選択的強化をコンセプトに新たなエクササイズ(heel-push ex:HP-ex)を考案した。本研究の目的は,HP-exにおけるLMの活動度および腰背筋の活動特性をBD-exを対照に筋電図学的に評価し,その有効性を明らかにすることである。【方法】対象は健常人18名(男性10名,女性8名:平均年齢20.0±1.1歳,平均BMI21.3±2.0)とした。表面筋電計はNicolet VikingIV(Nicolet社)を用いた。筋電図導出筋はLocal筋であるLMとGlobal筋である胸腸肋筋(以下ICLT)とし左側の筋に統一した。背臥位にて足部を肩幅に開き,左膝関節屈曲30°で左足踵部の下に体重計を置き,それぞれ体重の5%,10%,15%の力で押しつけるよう指示した。BD-exは四つ這いにて右上肢を肩関節屈曲180°,左下肢を股関節伸展0°に保持させた。HP-ex 5%,10%,15%,BD-exの実施時におけるそれぞれの筋電図積分値(IEMG)を得た。得られたIEMGを,これに先立ち測定した最大随意収縮時筋電図積分値(MVIC)を用いて%MVICを求め4群間で比較した。ICLTの活動に対するLMの活動比(L/G ratio)を求め4群間で比較した。統計処理には,いずれも一元配置分散分析を用いた。有意差が認められた場合にはPost hoc検定としてBonferroni/Dunn法による多重比較を行った。有意水準はp<0.05とした。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。【結果】LMの%MVICは5%群が17.4±6.1%,10%群が19.9±6.3%,15%群が23.6±6.9%,BD-ex群が23.2±5.7%であった。L/G ratioは5%群が2.8±1.1%,10%群が2.0±0.6%,15%群が1.5±0.6%,BD-ex群が1.8±0.5%であった。5%群,10%群のL/G ratioはBD-ex群に対して有意差が認められた。【結論】LMの活動低下を是正して腰背部筋のGlobal筋とLocal筋であるLMの活動バランスを正常化するためにはL/G ratioが高くかつLMの%MVICが高いという条件が必要になる。この2点を考慮すると10% HP-exがLMの活動を賦活し腰背部のGlobal筋とLocal筋であるLMの活動特性を正常化する至適条件と考えられる。そして10% HP-exはBD-exと同等のLMの%MVICとL/G ratioを示した。10% HP-exはBD-exと同等のLMの%MVICとL/G ratioを有し背臥位でより安全に行える腰痛エクササイズであると考える。今後,慢性腰痛患者を対象にHP-exの効果を検証する介入研究が必要である。
著者
村尾 昌信 佐藤 嘉展 中嶋 正明
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.114-118, 2015-04-20 (Released:2017-06-09)

【目的】腰部多裂筋(以下,LM)の選択的活動を狙って考案したexercise(以下,N-ex)におけるLMの選択的活動性の程度を明らかにすること。【方法】健常大学生21名を対象に,表面筋電図によりLMと腰腸肋筋胸部線維(以下,ICLT)のexercise時における筋活動(以下,%MVIC)を評価した。さらに%MVICよりLocal筋/Global筋比(以下,L/G ratio)を求め,N-exにおけるLMの%MVICとL/G ratioを既存のexerciseと比較した。【結果】N-exは,LMにおいて腹部ドローインに対してのみ有意に高い筋活動を,ICLTにおいてバードドックに対してのみ有意に高い筋活動を示した。また,N-exはL/G ratioにおいて既存のexerciseに対して有意に高値を示した。【結論】筋電図学的解析により,N-exではバードドックと同等のLMの活動を保持しつつ,より選択的なLMの活動が得られることを明らかにした。
著者
中野 愛美 宇谷 知紘 中島 美里 村尾 昌信 中嶋 正明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0970, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ヒトの体幹筋は,動的活動時における主動筋としての作用のみならず,常に抗重力位に晒される脊柱の安定化筋としての作用も有する。体幹筋は,機能や構造などの違いから,ローカル筋とグローバル筋とに大別される。ローカル筋は個々の腰椎に分節的に付着し,分節的な動きの制御において重要な役割を持つ体幹深層筋である。一方,グローバル筋は原則的に腰椎をまたいで付着し,大きなトルクを発生させる体幹浅層筋である。通常ローカル筋とグローバル筋は互いに協調し,脊柱の安定性を維持・調節していると報告されている。一方,高齢者や腰痛患者に多く認められるグローバル筋の過活動は,ローカル筋が担う脊柱の分節的安定性を阻害する因子となりうる。しかしながら,随意的に分節的な脊柱の運動を得ることは難しく,ローカル筋とグローバル筋の協調性を再教育させるための有効な運動療法の報告はほとんどない。我々は,ピラティスの体幹のコアマッスルの活動を刺激するとされる「ショルダーブリッジ」というエクササイズに着目した。ショルダーブリッジによってローカル筋の活動が賦活されれば,不要な代償活動から解放されたグローバル筋のスティフネスが抑制され,結果的に脊柱の可動性が高まる可能性がある。本研究の目的は,ショルダーブリッジが,グローバル筋のスティフネスに与える影響を明らかにすることである。【方法】対象:腰部および下肢に整形外科的既往のない大学生17名を対象とした。運動課題:通常のブリッジ(以下,N-Bridge)と脊柱を分節的に動かすショルダーブリッジ(以下,S-Bridge)を運動課題とした。各運動課題の開始肢位は,セミファーラー肢位とした(膝屈曲120°)。N-Bridgeは,脊柱を直線状に保持した状態で臀部を挙上・下制するものとし,挙上・下制は各々1秒で行わせた。S-Bridgeは,脊柱を分節的に動かすことを意識させたブリッジ動作とし,挙上・下制ともに各8秒間かけて行わせた。挙上は,先ず骨盤を後傾させ,下部腰椎から上部頚椎に向けて椎体を順に床からはがしていくようにして臀部を挙上させた。下制は,逆に上部頚椎から下部腰椎に向けて椎体を順に床に降ろしていき,最後に骨盤をニュートラル肢位にさせる。両課題は挙上・下制を1セットとし,8セット行わせた。評価課題:脊柱柔軟性の評価は,指床間距離(Finger Floor Distance:FFD),胸椎および腰椎の前屈可動域とし,胸椎および腰椎の前屈可動域の計測にはスパイナルマウス(Index Co, Ltd)を用いた。測定は直立位,前屈位にて行った。胸椎後弯角および腰椎前弯角について,それぞれ前屈位と直立位における角度の差【前屈-直立(°)】を求め,胸椎および腰椎の前屈可動域の指標とした。統計処理:N-Bridge群とS-Bridge群との比較にはMann-Whitney U testを用いた。統計処理にはStatView 5.0を用い,検定の有意水準は5%とした。【結果】FFDは,運動課題実施前でN-Bridge群3.8±7.2cm(Mean±SD),S-Bridge群1.0±5.4cm(N.S.:no significant),運動課題実施後でN-Bridge群4.5±7.5cm,S-Bridge群3.0±6.4cmとなった(N.S.)。胸椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群39.1±23.9°,S-Bridge群30.0±25.3°で,運動課題実施後にN-Bridge群41.8±18.9°,S-Bridge群16.8±8.9°となりS-Bridge群で有意に大きい値を示した(P=0.0033)。腰椎前屈可動域は,運動課題実施前にN-Bridge群69.4±12.9°,S-Bridge群66.6±13.4°となった(N.S.)。運動課題実施後にN-Bridge群69.3±13.5°,S-Bridge群69.3±14.2°となった(N.S.)。【考察】本結果から,脊柱を分節的にコントロールするS-Bridgeを行うことにより胸椎前屈可動域が増加することが明らかとなった。FFDにおいて両群間に差が見られなかったのは,FFDが胸腰椎の前屈可動性の因子に加えてハムストリングスの伸張性因子を含んでいることによると考える。胸椎前屈可動域に差はあったが腰椎前屈可動域に差がなかったのは,S-Bridgeにおいて腰椎よりも胸椎の動きが大きいことによると考える。随意的に脊柱の分節的コントロールを最大限に要求される運動を行うことで体幹のグローバル筋とローカル筋の協調的制御能が賦活されグローバル筋の過緊張が修正されたのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】脊柱の分節的運動による筋緊張調整効果が明らかとなれば腰痛や頸部捻挫における筋緊張亢進に対する新たなアプローチ方法の開発につながる。