著者
大重 匡 村山 光史朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101204, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに・目的】 スポーツ競技の前には軽度ないし中等度の運動でウォーミングアップをおこなう。ウォーミングアップの目的の一つは体温を上昇させる事にある。体温の上昇は骨格筋温を上昇させ筋収縮の粘性抵抗を減少させる。粘性抵抗減少は筋収縮の機械的効率を高めることになる。そこで、運動前にウォーミングアップではなく、手軽に行える部分浴が体温を上昇させ運動効率向上効果を示すことができるのかについて検討した。【方法】 対象者は健康な若年男性9名(内訳:年齢22.3±1.0歳、身長174.0±3.8cm、体重63.6±10.3kg(Mean±SD)) である。部分浴は下腿浴とした。下腿浴は十分な安静後、室温21℃前後の環境で、41℃の部分浴を10分間施行後エルゴメータによる運動負荷を実施した。同一被験者にはcontrol群としてランダムに1日以上の間隔を空け部分浴を施行せず運動負荷のみ行った。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。下腿浴時の測定項目は舌下温、呼吸数、心拍数、血圧とした。測定は安静時と部分浴10分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205、呼吸数・心拍数は日本光電社製BSM-2401、血圧は水銀血圧計を使用した。運動負荷はCOMBI社製エアロバイク75XLを使用し十分な安静後ウォーミングアップ程度の運動を考慮し75W3分間施行した。安静時および運動負荷中はアニマ社製携帯型酸素消費量計 AT-1100を用い酸素消費量、分時換気量、呼吸数を測定した。血圧は水銀血圧計で測定した。また運動負荷終了時には主観的作業強度Borg Scaleを用い測定した。統計処理は主観的温感強度以外対応のあるt検定で行った。主観的作業強度についてはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行った。【倫理的配慮 説明と同意】 本研究は当国立大学医学部の倫理審査会において、審査を受け承認されたのち行った研究である。なお、被験者に対して本研究の説明を行い、同意文書を得て行った。【結果】 下腿浴後舌下温は安静時より有意に0.22±0.14℃上昇した(P<0.01)。呼吸・循環反応は呼吸数が2.8±4.4回/分に有意に増加し、心拍数も有意に5.3±7.7bpm増加した(P<0.05)。血圧は収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下したが有意差は認めなかった。運動負荷時の心拍数はcontrol群127.0±15.4(bpm)、下腿浴群123.4±15.1(bpm)となり有意に低下した(P<0.05)。酸素消費量はcontrol群15.8±1.4(ml/min・kg)、下腿浴群14.5±1.9(ml/min・kg)となり有意に低下した(P<0.01)。分時換気量はcontrol群29.5±2.8(ml/min)、下腿浴群27.5±2.7(ml/min)となり有意に低下した(P<0.05)。呼吸数・血圧は、control群より下腿浴群で減少したが有意差は認めなかった。主観的作業強度のcontrol群の平均は13±1.8点、下腿浴群の平均は12.4±.9点となり有意差は認めなかったが、運動強度はおおよそややきつい程度の運動強度であった。【考察】 ウォーミングアップを行わなくても下腿浴のみ施行することで、舌下温が0.2℃程度上昇し、下腿筋へ加温によって運動に対する準備が行えたと考える。下腿浴群とcontrol群と比較すると心拍数、酸素摂取量、分時換気量において75Wの運度強度で有意に減少したことは、温熱効果によって筋の柔軟性の向上、筋へ血流促進、運動時の内呼吸効率向上、さらに安静時の心拍出量の円滑化が全身の呼吸循環機能を円滑にしたため運動負荷強度が減少したと考えられる。また確認は出来ていないが温熱刺激によるHeat Shock Protein(HSP70)作用も一因となっていると考える。【まとめ】1.本研究では健常若年者に対して運動前に下腿浴を施行し運動負荷強度に変化がみられるか検討した。2.下腿浴施行により体温が上昇し、呼吸数・心拍数がわずかに増加した。3.下腿浴後に運動を行った群と下腿浴を行わずに運動を行った群と比較して同一運動時の酸素消費量、分時換気量、心拍数が下腿浴後に運動を行った群で有意に減少した。【理学療法学研究としての意義】下腿浴でも深部体温を上昇させることができ、中等度(ややきつい)負荷強度において身体かかる負荷強度が減少できることが明らかになった。これにより循環障害により運動強度に制限のある者に対して運動前の下腿浴施行で運動強度を減少させることができ、運動の施行がより安全に運動がおこなえることに役立つと考える。