著者
宇都 良大 小野田 哲也 愛下 由香里 田中 梨美子 大重 匡
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.59, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】糖尿病において,末梢神経障害は最も早期に発症する合併症であるが,特に痛みを伴う有痛性糖尿病神経障害は大きな問題となる.その中でも,軽い触覚刺激などで疼痛を生じるアロディニアは,不眠症や抑うつ症状を伴いQOLを低下させ,治療行動へのアドヒアランスも低下する.今回,アロディニアを発症した症例に対して,痛みに考慮しながら療養指導や運動療法を行うことで,QOLの改善と運動療法のアドヒアランスが改善した1例を経験したので報告する.【症例】糖尿病教育入院を経験している2型糖尿病の49歳男性.夜間帯の仕事によって食事と睡眠が極めて不規則となり,体重増加と血糖コントロールが不良となった.また,アロディニアによって,四肢末梢・右顔面や全身にnumerical rating scale(以下NRS):4~8の持続疼痛が生じ,抑うつ状態の進行と睡眠障害が悪化し,就業不能となり再教育入院となった.インスリン強化療法と内服による疼痛コントロールが開始された.発汗で掻痒感が出現すること,低血糖への恐怖から運動に対しての意欲は低く,行動変化ステージは熟考期であった.生活習慣改善と体重コントロール目的でリハビリテーション(以下リハ)依頼となり,抑うつ状態や希死念慮に対しては,臨床心理士のカウンセリングが開始された.【検査所見】身長181.7cm,体重101.5kg,BMI30.7kg/m2,体成分分析(BIOSPACE社,In Body720)において骨格筋量37.7kg,体脂肪量33.7kg.血糖状態は,空腹時血糖200~210mg/dl台,HbA1c(NGSP)8.2%,尿ケトン体陰性.アキレス腱反射-/-,足部振動覚 減弱/減弱,末梢神経障害+,網膜症-,腎症+,自律神経障害+.【経過】介入時,覚醒状態不安定で,動作による眩暈・ふらつきを伴うため臥床時間が延長し,食事摂取量は不安定であった.生活習慣の構築を目的に,食前の覚醒促しと食後1~2時間の運動療法介入を設定した.自己管理ノートに日々の体重と,運動療法前後の血糖値を記録し,低血糖対策の個別指導をした.非運動性熱産生(以下NEAT)の指導を行い,日中の活動量向上を促した.運動療法プログラムは,NRSから有痛症状を訴にくい部位を判断し,股関節周囲のストレッチと体幹のバランス訓練を開始した.介入4日目から下肢筋力訓練を追加実施可能となり,介入12日目に掻痒軽減が図れたタイミングで有酸素運動を開始した.【結果と考察】内服による疼痛コントロールと,インスリン強化療法による糖毒性解除により,空腹時血糖値が90~100mg/dl台と改善したことに伴い,NRS:1~2と疼痛が軽減した.また,眩暈やふらつきが軽減したことで日常生活に支障がなくなり,カウンセリングにより情緒面の安定が図れたことで3週間後退院となった.仕事の関係上,夜型のライフスタイル変更は図れなかったが,食事時間を規則的にすることや昼間の活動量を高めることを約束された.体重97.4kg,骨格筋量37.0kg,体脂肪量30.7kgとなった.筋力訓練やウォーキングを自主訓練として立案・実行するようになり,行動変化ステージは準備期となった.【まとめ】アロディニアは,通常痛みを起こさない非侵害刺激を痛みとして誤認する病態であり,QOLの低下,糖尿病療養に必要なセルフケア行動やアドヒアランスが低下し,運動療法の阻害因子となる.しかし,疼痛コントロールやインスリン治療について十分に把握する事に加えて,病態を理解して疼痛部位の詳細な評価を行い,適切な運動療法の介入を行うことで,アドヒアランスの改善が生じたと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得た.対象者には研究内容についての説明と同意を得た上で実施した.
著者
大重 匡 村山 光史朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101204, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに・目的】 スポーツ競技の前には軽度ないし中等度の運動でウォーミングアップをおこなう。ウォーミングアップの目的の一つは体温を上昇させる事にある。体温の上昇は骨格筋温を上昇させ筋収縮の粘性抵抗を減少させる。粘性抵抗減少は筋収縮の機械的効率を高めることになる。そこで、運動前にウォーミングアップではなく、手軽に行える部分浴が体温を上昇させ運動効率向上効果を示すことができるのかについて検討した。【方法】 対象者は健康な若年男性9名(内訳:年齢22.3±1.0歳、身長174.0±3.8cm、体重63.6±10.3kg(Mean±SD)) である。部分浴は下腿浴とした。下腿浴は十分な安静後、室温21℃前後の環境で、41℃の部分浴を10分間施行後エルゴメータによる運動負荷を実施した。同一被験者にはcontrol群としてランダムに1日以上の間隔を空け部分浴を施行せず運動負荷のみ行った。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。下腿浴時の測定項目は舌下温、呼吸数、心拍数、血圧とした。測定は安静時と部分浴10分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205、呼吸数・心拍数は日本光電社製BSM-2401、血圧は水銀血圧計を使用した。運動負荷はCOMBI社製エアロバイク75XLを使用し十分な安静後ウォーミングアップ程度の運動を考慮し75W3分間施行した。安静時および運動負荷中はアニマ社製携帯型酸素消費量計 AT-1100を用い酸素消費量、分時換気量、呼吸数を測定した。血圧は水銀血圧計で測定した。また運動負荷終了時には主観的作業強度Borg Scaleを用い測定した。統計処理は主観的温感強度以外対応のあるt検定で行った。主観的作業強度についてはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行った。【倫理的配慮 説明と同意】 本研究は当国立大学医学部の倫理審査会において、審査を受け承認されたのち行った研究である。なお、被験者に対して本研究の説明を行い、同意文書を得て行った。【結果】 下腿浴後舌下温は安静時より有意に0.22±0.14℃上昇した(P<0.01)。呼吸・循環反応は呼吸数が2.8±4.4回/分に有意に増加し、心拍数も有意に5.3±7.7bpm増加した(P<0.05)。血圧は収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下したが有意差は認めなかった。運動負荷時の心拍数はcontrol群127.0±15.4(bpm)、下腿浴群123.4±15.1(bpm)となり有意に低下した(P<0.05)。酸素消費量はcontrol群15.8±1.4(ml/min・kg)、下腿浴群14.5±1.9(ml/min・kg)となり有意に低下した(P<0.01)。分時換気量はcontrol群29.5±2.8(ml/min)、下腿浴群27.5±2.7(ml/min)となり有意に低下した(P<0.05)。呼吸数・血圧は、control群より下腿浴群で減少したが有意差は認めなかった。主観的作業強度のcontrol群の平均は13±1.8点、下腿浴群の平均は12.4±.9点となり有意差は認めなかったが、運動強度はおおよそややきつい程度の運動強度であった。【考察】 ウォーミングアップを行わなくても下腿浴のみ施行することで、舌下温が0.2℃程度上昇し、下腿筋へ加温によって運動に対する準備が行えたと考える。下腿浴群とcontrol群と比較すると心拍数、酸素摂取量、分時換気量において75Wの運度強度で有意に減少したことは、温熱効果によって筋の柔軟性の向上、筋へ血流促進、運動時の内呼吸効率向上、さらに安静時の心拍出量の円滑化が全身の呼吸循環機能を円滑にしたため運動負荷強度が減少したと考えられる。また確認は出来ていないが温熱刺激によるHeat Shock Protein(HSP70)作用も一因となっていると考える。【まとめ】1.本研究では健常若年者に対して運動前に下腿浴を施行し運動負荷強度に変化がみられるか検討した。2.下腿浴施行により体温が上昇し、呼吸数・心拍数がわずかに増加した。3.下腿浴後に運動を行った群と下腿浴を行わずに運動を行った群と比較して同一運動時の酸素消費量、分時換気量、心拍数が下腿浴後に運動を行った群で有意に減少した。【理学療法学研究としての意義】下腿浴でも深部体温を上昇させることができ、中等度(ややきつい)負荷強度において身体かかる負荷強度が減少できることが明らかになった。これにより循環障害により運動強度に制限のある者に対して運動前の下腿浴施行で運動強度を減少させることができ、運動の施行がより安全に運動がおこなえることに役立つと考える。
著者
堤 恵志郎 大重 匡 瀬戸口 佳史 大勝 祥祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P1096, 2009

【目的】慢性呼吸不全患者は呼吸困難・息切れ時に呼吸の回復を目的として、上半身を前傾させ、上肢を肩から垂らすことなく、ものの上に置く肢位をとる.しかし、運動によって呼吸循環反応が亢進した後の回復過程を、座位姿勢で比較している報告は見当たらない.そこで今回、前傾座位姿勢によって生じる影響を明らかにすることを目的とし、健常者を対象に呼吸循環反応亢進後の回復過程を、自然座位と前傾座位とで比較し検討した.<BR><BR>【対象】対象者は健常若年男性12名(22.2±0.9歳、174.7±6cm、66.2±9.2kg)とした.各対象者には本研究の目的、方法を説明し同意を得た.なお、本研究は鹿児島大学研究倫理委員会にて承認を得ている.<BR><BR>【方法】まず対象者には、椅子座位にて5分間の安静座位を取らせる.この安静座位には、背もたれにもたれずに上肢を体側に垂らした座位(自然座位)、体幹を前傾させ両肘を各膝につけた座位(前傾座位)の2条件とした.その後、5分間のトレッドミル歩行を行わせ、それぞれ5分間の安静座位と同じ姿勢で回復過程を測定した.測定パラメータは、安静座位時、回復過程の0、3、6、9分時における心拍数、血圧、SPO<SUB>2</SUB>、RPEとした.統計学的処理は、安静時・回復過程0分値において、対応のあるt検定を用いて比較した.そして、2条件間における回復過程を比較するために2元配置分散分析を行い、交互作用の有無を検定した.その後の検定としてTukey法による多重比較を行った.<BR><BR>【結果】両条件間の安静時・回復過程0分では、いずれの値においても有意差は示されなかった.回復過程では、心拍数において両条件間に交互作用が認められ、回復過程3、6、9分時時点の値は、それぞれ自然座位と比較して前傾座位で有意に低値であった.しかし、SPO<SUB>2</SUB>、血圧、RPEでは、いずれも両条件間で有意差は示されなかった.<BR><BR>【考察】前傾座位で心拍数の回復が早かったのは、呼吸パターンが深くなり、酸素の取り込み量を高く維持し得る状況下にあったためと考える.これは、体幹を前傾させ上肢を支持することで、肩甲骨の固定がなされ、呼吸補助筋である肩甲帯挙上筋群の緊張が解かれたためと考える.また体幹を前傾することにより、腹壁の緊張を解き、横隔膜の降下を容易にすることで呼吸を整えることができたためとも考える.そして、静脈還流量は筋ポンプ作用に加えて胸腔内圧の陰圧による呼吸ポンプ作用によって維持されており、この深い呼吸パターンがこの呼吸ポンプ作用を増し、Frank-Starling機序によって1回心拍出量が増加したと推察される.つまり、前傾座位をとることで、深い呼吸パターンとなり1回心拍出量が増加し、心拍数の回復を早めるにもかかわらず、血管にかかる負担やRPEが自然座位と差がないということが示唆された.
著者
貴嶋 芳文 木山 良二 大重 匡 前田 哲男 湯地 忠彦 東 祐二 藤元 登四郎 関根 正樹 田村 俊世
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1505, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺者の自立歩行獲得は,リハビリテーションにおける目標の一つであり,早期の自立歩行獲得は歩行機会を増加させ,さらなる身体機能の向上や生活空間の拡大に繋がると考えられる。諸家により,歩行能力の客観的な評価として,加速度センサを用いた検討が報告されている。我々はこれまでの横断的な研究で,加速度センサを用いた評価が,脳卒中片麻痺者の歩行自立度の判定に有用であること,麻痺の程度により歩行自立度に関与する要因が異なることを報告した。しかし,脳卒中片麻痺者の回復に伴う,歩行中の加速度の変化を縦断的に検討した報告は少ない。そこで本研究では,歩行非自立時(要監視)と歩行自立時における,歩行中の腰部および大腿部の加速度の差を比較し,歩行自立度の変化に伴う,歩行中の加速度の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,脳卒中片麻痺者18名(Br. Stage IV8名,V10名,右片麻痺10名,左片麻痺8名,男性12名,女性6名,平均年齢68±7歳)であった。加速度センサは,対象者の腰部と両大腿部にそれぞれベルクロを用いて装着した。対象者は,室内16mの直進路を快適速度で2回歩行し,中央10mを解析対象区間とした。10m解析区間から定常状態である中央の3歩行周期を抽出し,得られた加速度のデータより,腰部と両大腿部のRoot Mean Square(RMS),自己相関係数(定常性)を算出した。また,10m歩行速度,Berg Balance Scale(BBS),Fugl-Meyer Assessment(FMA)を測定した。計測は,上肢による支持なしで16mの歩行が可能となった時期(歩行非自立時)と,病棟での歩行が許可された時期(歩行自立時)の2回行った。歩行自立時と非自立時の各指標を,対応のあるt検定を用い比較した。また,加速度のセンサから得られた指標については,Br. Stage毎に比較した。すべての統計解析は,統計ソフトR(2.8.1)を用い,統計学的な有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本計測の際には,当該施設の倫理委員会の承認並びに対象者自身からのインフォームドコンセントを得た後,実施した。【結果】歩行速度(P=000),BBS(P=000),FMA(P=000)は非自立時に比べ,自立時で有意に高値を示した。自己相関係数も同様に,非自立時に比べ自立時に高い値を示し,歩行の定常性が改善していることが示された。有意な差の認められた項目は,Br. Stage IVでは腰部の前後(P=000)・上下成分(P=000),麻痺側大腿部の左右成分(P=000),非麻痺側大腿部の前後(P=000)・上下成分(P=000)において有意な差を認め,Br. Stage Vでは腰部の上下成分のみ有意な差を認めた(P=000)。またRMSにも有意な増加を認め,Br. StageIVでは腰部前後成分(P=000),麻痺側大腿部前後(P=000)・左右(P=000)・上下成分(P=000),非麻痺側大腿部左右成分(P=000)で有意に高い値を示した。Br. Stage Vでは非麻痺側大腿部左右成分を除くすべてにおいて有意な差を認めた(P<000)。【考察】今回の結果では,バランス能力や麻痺の改善に伴い,歩行自立度,歩行速度が向上し,それに伴い,歩行中の加速度のRMSおよび,自己相関係数が改善していた。しかし,麻痺の程度により,差がある指標が異なり,歩行自立度に関与する要因が異なることが示唆された。麻痺が重度であるBr. Stage IVでは,非自立時と自立時の比較において,腰部・両大腿部の自己相関係数が増加した指標が多く,歩行の定常性が,歩行の自立に大きな影響を与えることが示唆された。一方で,Br. Stage Vでは,非麻痺側大腿部左右成分を除くすべてのRMSで有意な増加を示したのに対し,自己相関係数の増加は腰部の上下成分のみであり,歩行の定常性が歩行自立度に与える影響は小さいと考えられた。【理学療法学研究としての意義】先行研究による歩行分析は,腰部加速度センサのみを使用したものや横断研究が多く報告されているが,本研究により回復過程における被験者内の腰部・大腿部加速度変化を調査することで,自立歩行獲得時にどのような加速度成分に変化があったかを把握することができ,Br. Stageに応じた歩行評価や治療効果判定指標となる可能性がある。