著者
村本 和世
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-9, 2016 (Released:2017-03-17)
参考文献数
38

我々は食物を摂取するとき,多くの感覚を駆使して,食べ物の情報として統合している.この情報取得は,本来食物を識別し,摂取の可否を判断するために進化してきたと考えられるが,ヒトにおいて単なる摂食可否の分析から,美味しさを楽しむという別の情報処理が加わってきた.美味しさの基本となる情報,“風味”は食物の味だけでなくにおいや舌触りのような食感をも加えた総合感覚であり,特に味覚と嗅覚との感覚間相互作用が風味形成では重要となる.しかし,風味形成の脳内情報処理機構や感覚間相互作用が行われている脳領域については未だはっきりとはしていない.本稿では,風味の構成要素として重要な味覚と嗅覚の役割,受容機構,伝導経路,脳内情報処理機構などについて簡単に解説する.さらに,風味形成における“島皮質”の役割についての我々の研究の一端を紹介し,食に関する感覚・風味について考察してみたい.
著者
椛 秀人 奥谷 文乃 村本 和世 谷口 睦男
出版者
高知大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

雌マウスに形成される交配雄フェロモンの記憶のシナプス機構、鋤鼻ニューロンと副嗅球ニューロンの共培養によるニューロンの成熟分化、シナプス形成、及び幼若ラットの匂い学習機構を解析し、以下の結果を得た。1.フェロモン記憶の基礎過程としてのLTPの入力特異性と可逆性スライス標本を用いて、副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達に誘導される長期増強(LTP)に入力特異性と可逆性が認められた。2.僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達のalpha2受容体を介した抑制のメカニズムノルアドレナリンは僧帽細胞のG_<i/o>を活性化して電位依存性Ca^<2+>チャネルを抑制するほか、Ca^<2+>流入後の放出過程をも抑制することが判明した。3.alpha2受容体の活性化によるシナプス伝達のハイ・フィデリティの達成alpha2受容体の活性化は副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達のハイ・フィデリティを達成させた。これがLTP誘導促進の鍵となっているものと考えられる。4.副嗅球ニューロンとの共培養による鋤鼻ニューロンの成熟と機能的シナプスの形成副嗅球ニューロンとの共培養によって鋤鼻ニューロンが成熟分化し、3週間の共培養により両ニューロン間に機能的なシナプスが形成されることが判明した。5.幼若ラットにおける匂いの嫌悪学習とLTPとの相関匂いと電撃の対提示による匂いの嫌悪学習の成立には電撃による嗅球のbeta受容体の活性化が不可欠であった。スライス標本を用いて、嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達に誘導されるLTPもbeta受容体によって制御された。この知見は、このLTPが匂い学習の基礎過程であることを示唆している。