著者
高瀬 恵子 吉留 厚子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.138-142, 2006-04-01
参考文献数
13

わが国では,看護学・助産学の成書および一般の育児書のなかで,哺乳瓶消毒に関して煮沸消毒,次亜塩素酸ソーダによる消毒が多く紹介されている。一方,アメリカでの哺乳瓶の取り扱いは,われわれの使用する食器と同様でよいとしている。今回の研究では簡便な消毒・洗浄方法を検索するために,電気ポットの温湯,電子レンジ,食器用洗剤による哺乳瓶の消毒・洗浄の効果を検討した。方法は,E. coli, B. subtilisを付着した哺乳瓶を電気ポットの温湯消毒(設定温度98℃,90℃,60℃),電子レンジ消毒(5分間,3分間),食器用洗剤での洗浄,ブラシのみの洗浄を行った。洗浄・消毒したのち,菌液を回収し,培養して菌濃度の推定を行った。結果,E. coli,B. subtilisでは98℃・90℃の温湯,5分間・3分間の電子レンジ,E. coliは食器用洗剤での洗浄で菌数は検出不可能であった。温湯消毒,3分間の電子レンジ消毒,食器洗い用洗剤での洗浄はいずれも有効であることが明らかになった。
著者
池田 かよ子 半藤 保 西脇 友子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.91-100, 2011-04
被引用文献数
1

思春期以降の母性準備期にある女子と携帯電話などの電子メディアの使用状況と疲労との関連を包括的にとらえた研究は見あたらない。この研究の目的は,思春期女子における携帯電話などの電子メディアの使用状況と疲労度および疲労自覚症状との関連を明らかにすることである。2009年4〜7月に信越地方の共学の私立高等学校の1年生女子217人を対象に,高校入学時の定期健康診断の時期に合わせて,面接により携帯電話などの電子メディアの使用状況,疲労自覚症状の聞き取り調査とフリッカー測定器による疲労度の測定を行った。その結果は以下のようである。1.携帯電話やゲーム,パソコン,テレビなどの電子メディア全体に接触している時間は1日平均9時間であり,そのうち携帯電話の平均使用時間は4.8時間であった。2.メールの1日平均送受信回数は118.7回であった。3.携帯電話,メール,電子メディアを量的に2群に分け,疲労自覚症状との関連についてみると,携帯電話の1日使用時間が5時間以上のほうに,またメールの1日送受信回数が120回以上のほうに,さらに電子メディアの暴露時間が10時間以上のほうに有意な関連があり,共通していた疲労自覚症状は,「きちんとしていられない」「めまいがする」の2項目であった。その他の症状としては「全身がだるい」「ねむい」「気が散る」「物事に熱心になれない」「瞼や筋肉がピクピクする」であった。以上より,最近の高校生は,携帯電話を代表とする電子メディアに多く接触しており,長時間の使用により身体のどこかに疲労が生じていることが示唆された。
著者
西頭 知子 佐々木 くみ子 末原 紀美代
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.81-88, 2012-04

本研究は,過疎認定地域に住む中学生の性行動と性意識の実態について明らかにすることを目的に実施した。過疎認定地域にある中学校の生徒を対象に自記式質問紙調査を行い,有効回答が得られた171名(71.3%)を分析対象とした。質問紙の内容は,属性,性行動について,性意識について,その他性行動・性意識に関連すると考えられた要因で構成した。得られた結果は,以下のとおりである。1.好きな人がいる割合,デート経験率,初デートの平均年齢において全国規模の調査と同様の結果が得られ,男女差がないという特徴も共通していた。2.今までに受けた性教育は,身体の生理や性感染症の病態的側面に関することが多かった。3.生徒たちは,家族,友人など周囲の人々と親密な関係を築いていることがうかがわれた。4.性に関する情報源は"友人"が多く,その他"雑誌"や"ビデオ"などのメディアがあげられた。5.生徒の約6割が友人と性に関する会話をしており,性に関する会話をしている生徒では友人の性的な行動や経験への関心が高かった。
著者
田中 美樹 布施 芳史 高野 政子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-77, 2011-04-01
参考文献数
13

本研究の目的は,父親が「自分は父親になった」と自覚した時期や出来事と,児への愛着や子育て行動にどのように影響しているのかを明らかにすることである。対象者はA市内の保育園に通う3歳未満の子どもをもつ父親で,属性,父親として自覚や子どもへの愛着に関する無記名自記式質問紙法を行った。愛着に関する項目は,大日向により信頼性が確認された愛着尺度を用いた。父親の自覚がある者は97.1%で,自覚をもった時期は「子どもを初めて見たとき」32.9%,「初めて抱っこしたとき」30.0%であった。子どもへの愛着得点が高い父親は低い父親に比べ,父親としての自覚で「強く思う」と答えた割合が高く,父親としての自覚と子どもへの愛着に関連を認めた(P<0.05)。さらに,育児参加への自覚の認識が高い父親は父親としての自覚も高かった(P<0.05)。多くの父親が出生直後の子どもに触れることや顔を見ることで父親としての自覚を感じていた。父親としての自覚と子どもへの愛着,育児参加の自覚とも関連を認め,父親が父親としての役割を果たすとき,その根底にあるものは,父性の芽生えや「父親になった」という自覚であることが示唆された。
著者
八田 真理子 太田 郁子 家坂 清子 蓮尾 豊 北村 邦夫
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.629-636, 2010-01-01
参考文献数
18
被引用文献数
1

低用量経口避妊薬(以下「OC」)がわが国で発売されて10年になるが,いまだその普及率は低率である。一方で,OC服用により性感染症(以下「STI」)の拡大をまねくのではないかと危惧する考え方もある。今回,「OC服用で若者のSTIを拡大させているか」を知ることを目的に臨床現場で調査を行った。全国の避妊教育ネットワークに所属する25の産婦人科施設で受診し,クラミジア抗原検査を受けた29歳以下の女性1,630人に対して,OC服用の有無と性行動について詳細に問診した。その結果,OC服用・非服用間で,初交年齢,パートナー数,コンドーム使用状況などに有意差は認めず,クラミジア抗原陽性率もOC服用者で13.8%,OC非服用者で13.3%と有意差はなく,OC服用者の性行動が活発であるとはいえないことがわかった。OC服用者は,二重防御法の実践や不顕性感染発見のための検査などで定期的に産婦人科を受診していることから,むしろSTI予防や自身の健康管理に対する意識が高いことが示唆された。
著者
篠原 ひとみ 兒玉 英也 吉田 倫子 成田 好美
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.499-506, 2009-01
被引用文献数
1

乳児期の夜泣きに関して,母親211人に対しアンケート調査を行った。その結果,乳児の母親の18%が夜泣きに直面しており,その中の3割程度が深刻な状況にあると予測できた。夜泣きの開始時期は,生後5〜7ヵ月と生後1ヵ月以内が多かった。夜泣きの開始時期が7ヵ月以降の場合では,夜泣きの継続月数が長引く傾向が認められた。生後3ヵ月以前に開始した夜泣きは,持続時間が長く時間帯が0〜1時のものが多く,一方,4ヵ月以降に開始した夜泣きは,2時以降に多く持続時間は短い傾向がみられた。児の性別,出生体重,授乳方法やさまざまな保育環境に関するパラメーターについて,夜泣きの有無に関連するものはみいだせなかった。一度目覚めるとなかなか寝ない児の割合が夜泣きのある児で有意に高かった(<005)。今回得られた情報は,乳児期における夜泣きへの看護介入の基本情報として,重要と考えられる。
著者
山岡 久美子 齋藤 いずみ 西 基
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.412-420, 2006-07
参考文献数
7
被引用文献数
1

札幌市内のA病院で2001年1〜12月までになされた分娩1,008例について,曜日・時刻との関連を検討した。分娩数は,水曜日が最も多く(全体の18.45%),かつ在胎週数34週未満の児と出生体重1,500g未満の児が多く出生していた(それぞれ全体の30,35%)。母児の生命にかかわる胎児心音低下・弛緩出血などの件数は金曜日が最も多く(全体の18.18%),かつ午後14時ころがそのピークであった。また,金曜日には緊急帝王切開(全体の22.77%)・母体搬送(全体の26.09%)が多かった。水曜日に未熟児分娩が集中したのは,以前から入院していたハイリスク児を計画的にマンパワーの手厚い週の半ばに分娩させるためと考えられた。原因の特定には至らなかったが,金曜日に異常分娩が多いことが明らかであった。ハイリスク児出生が同じ日に集中した場合,NICUの負担が過大となる危険性,および土・日曜日に治療・検査を強いられる危険性がそれぞれ危惧された。産科部門・検査部門・NICUの人的資源の配分の際には,このような時間的な要素を考慮すべきこと,地域における関連病院・NICUの相互の連携体制を充実すべきことなどが必要と考えられた。
著者
牧野 友紀 石田 志子 藤田 愛
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.563-569, 2012-01

本研究の目的は,小中学生を対象とする月刊少女向けコミックのなかで描かれている恋愛と性に関連する言語やシーンについて分析し,コミックというメディアの現状を知ることである。研究対象は年間発行部数が多い月刊少女向けコミック4冊とした。結果,64作品中恋愛を取り扱っているものが34作品であり,そのなかで恋愛や性に関する言語517個が抽出された。その内訳は恋愛に関するものが90.9%,性に関するものが9.1%であった。また,性に関連する言語の半数が【好ましくない行為・行動】に分類され,恋愛や性に関するシーンの抽出では,【手から身体】が48.2%で,恋愛に関するシーンが中心であり,性的なシーンは含まれていなかった。しかし,キスシーンや抱擁シーンでは,男性から女性へという男性主導のシーンがほとんどであった。以上より,少女向けコミックにおける性や恋愛に関する表現には,ジェンダーステレオタイプの表現があることがわかった。メディアの影響力を知り,周りの大人たちが子どもたちのメディアリテラシーを養っていくことが重要である。
著者
近藤 由佳里 大庭 智子 田中 智子 古賀 あゆみ 光吉 久美子 大塚 康代 野口 ゆかり 新小田 春美 平田 伸子 加耒 恒壽
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.518-529, 2005-01
被引用文献数
3

現在, 意図しない妊娠による結婚「できちゃった結婚」が増加している。妊娠, 結婚という2つの大きなライフイベントに同時に直面するため, 母性不安が大きく, 順調な母性発達過程からともすると逸脱しやすいのではないかと考えた。そこで今回, 「できちゃった結婚」妊婦の母性不安と母性発達の現状を明らかにするため, 計画妊娠初産婦と比較する研究調査を行った。期間は2003年9月〜12月。F市産婦人科5施設の初産婦319名を対象に自記式質問紙調査を行い, 以下のことが明らかとなった。(1)「できちゃった結婚」群は計画妊娠群より母性不安度が高く(p<0.001), 特に妊娠判明時「戸惑った, 困った」と答えた妊婦が, 有意に母性不安度が高かった(p<0.001)。(2)母性不安因子は, 「薬や喫煙の影響」「経済状態」「産後の体型の変化」「世間体」「育児」「母乳」「夫の思いやり」「夫の反応」「家族の反応」の9項目において, 「できちゃった結婚」群が有意に高かった。(3)母性の発達過程(母性意識, 愛着形成)については, 両群で有意な差はみられなかった。(4)母性不安度の高い人は母性意識が低く, 特に「できちゃった結婚」群において強い相関がみられた。(5)母性不安度が高い人は対児感情が低かった。
著者
清水 嘉子 伊勢 カンナ
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.344-351, 2006-07
被引用文献数
4

本研究は育児している母親の肯定的な情動を「育児幸福感」とし,育児幸福感を感じる際の事情から,育児幸福感と育児事情の実態を明らかにした。3歳以下の子どもを育児している母親にアンケート用紙を配布し,Lazarusの理論による7項目の情動である安心,希望,愛情,喜び,感謝,同情,誇りを育児中に感じる頻度を5段階評価とした。さらに,それぞれの情動を感じる育児事情について自由記述を求めた。調査用紙は188名に配布し101名から回収された。結果として母親が育児中に感じる肯定的情動の中心は,愛情,喜び,感謝であり,安心,誇り,希望と続き,同情は少なかった。育児幸福感を感じる際の事情は14項目に分類できた。育児幸福感を感じる際の事情は,主として「子どもの成長・発達・健康」および「子どものしぐさ」などの子ども中心の構成であり,その他として「周囲の援助・声かけ・つながり」などであった。本研究の結果は,育児支援としては,(1)育児する中で喜びや愛情を感じた時の子どもの様子について語れる場を提供すること,(2)母親が他者と良好な関係であるという認知を促すこと,(3)子どもの成長に関する肯定的なフィードバックにより母親の努力や能力が認められること,(4)母親が育児協力を周囲に求められるように援助すること,(5)カウンセリング技術による母親の肯定的な自己認識を促すといった働きかけの重要性を明らかにした。
著者
伊藤 美栄 上垣 まどか 遠藤 弘恵 大橋 和子 鈴木 希衣子 曽根 真由美 山地 佳代
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.134-141, 2012-04
参考文献数
12

女性からみたパートナーとのジェンダー認知の差異とコンドームネゴシエーションの関連を明らかにするため,大学生または看護学生の女性1,582名に質問紙を配布し1,065名の回答を得た。そのうち性交経験のある未婚女性582名を分析対象とした(有効回答率36.8%)。結果,コンドームの使用を希望する女性は531名(91.2%)であったが使用頻度が「毎回」の者は325名(55.8%)にとどまった。ジェンダー・タイプとコンドームネゴシエーションの関連は女性が未分化型の場合は低く(P<0.01),パートナーが心理的両性具有型の場合は高かった(P<0.05)。また,パートナーが男性性優位型の場合はコンドームの使用頻度は低かった(P<0.01)。パートナーとのジェンダー認知の差異とコンドームネゴシエーションとの関連はなかったが,コンドームを毎回はしないと回答した女性のうち,パートナーより男性性は低く女性性が高い群と「相手がコンドームを装着してくれない」は関連がみられた(P<0.05)。女性のコンドームネゴシエーションはジェンダー・ステレオタイプに従っており,青年期男女へのジェンダーの視点をおいた性教育の必要性が示唆された。
著者
小林 康江
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.117-124, 2006-04
被引用文献数
2

本研究の目的は,母親が自ら「できる」と思える子育ての体験を記述することである。それにより,産後の母親のケアの示唆を得ようとするものである。研究方法は,退院後1ヵ月健診まで実家に里帰りをした初産婦5名を対象に,家庭訪問と半構成的面接法を実施した。分析は,母親が育児について語っている文脈を事例ごとに抽出し記述した。その結果,産後1ヵ月の母親は,母親自身で「できる」と思える子育ての体験がある母親と,「できる」と思える体験のない母親がいることが明らかとなった。「できる」と思える子育ての体験のある母親の状況は「自分の努力と導きから実母と同じように世話ができること」「消去法から体感覚を用いて子どもの泣きの理由がわかること」「余裕をもてること」「試行錯誤と,家族・看護者の支援によって効果を実感すること」であった。また「成長している子ども。成長していないながらも母親になっている私」「応援したくなるかわいい子ども。子育てに自信がもてた私」「私を必要としている子ども。子どものことをわかってあげられる,余裕がある私」と母親自身と子どもとの関係をとらえていた。一方,「できる」と思える体験がない母親は「こだわりをもち続けること」「子育てと生活をコントロールしたい」というように育児をしていた。そして子どもと母親自身の関係を「私を嫌う子ども。がんばりが足りない,取り残される私」「思うようにならない子ども。子どもから嫌われている私」ととらえていた。
著者
中塚 幹也 江見 弥生
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.278-284, 2004-07
参考文献数
16
被引用文献数
3

性同一性障害(GID)329症例に対し,思春期の問題点を明らかにすることを目的として自記式質問紙調査,臨床解析を行い,female to male(FTM)症例とmale to female(MTF)症例とに分けて検討した。小学校入学以前に性別違和感を自覚し始めることが多いFTM症例に比較し,MTF症例では発症が遅い症例が多かったが,ほとんどが思春期以前に性別違和感を自覚していた。思春期に多い問題行動では,不登校が全体の29.2%,自殺念慮が74.8%,自殺未遂・自傷行為も31.0%と高率であった。また,二次的に生じたと考えられる強迫神経症やうつ状態などの精神科的合併症も17.9%にみられ,特にMTF症例で高率であった。このような思春期の問題を解決するためには,学校保健の役割は重要であり,性別違和感のある児童が早期に相談しやすい態勢を整えることで医療施設へ紹介可能となる。また,的確な診断が行われた症例には,二次性徴を抑制するなどの医学的介入で,種々の問題を回避できる可能性がある。
著者
実積 麻美 大谷 愛佳 山崎 愛沙 山下 恵 和田 亜弓 谷脇 文子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.542-550, 2008-01

本研究は実母からの出産体験の伝承(実母が経験した妊娠・出産・育児の体験や,その体験によって感じた思いを実母自身の言葉で表現し,娘に語り伝えること)に対する妊婦の意味づけを明らかにすることを目的とした。妊娠中期・後期の初産婦6名に半構成的面接法によりデータを収集し,質的帰納的に分析を行った。その結果,実母からの出産体験の伝承に対する妊婦の意味づけとして,次の5つの特徴,『母への親密性を強める』『親になる偉大さを感じる』『親準備性に向かう』『次世代への伝承の必要性を感じる』『自己成長のきっかけとなる』が見出された。そして,実母の出産体験の伝承が妊婦の自律性の育成を培い,母性意識の発達を促し,主体的な親になる準備性を支えていることが明らかとなった。本研究における看護への示唆として,伝承により意味づけられた妊婦の主体性をより促進する援助の重要性が見出された。伝承を看護の中に位置づけることで,妊婦の主体性を促進し,妊婦が目指す出産体験を尊重するような援助につなげていく必要がある。
著者
渕元 純子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.396-398, 2005-01
被引用文献数
1

少子化の波が押し寄せ, 合計特殊出生率は1.29という戦後最低の値を示した。また, 伝統的にあった三世代複合世帯や「向こう三軒両隣」といった近隣関係は崩れ, 子育てを家族内や地域で支え合う旧来の関係は期待できない時代となっている。孤立したなかでの子育てが増え, 育児不安が増大し, 親のストレスはたまり, そしてついには子どもの虐待が始まる。子育て、女性健康支援センター (社)日本助産師会は, 「母子に身近な地域で, 助産師が気軽に相談に応じることにより, 親の育児不安の緩和、解消および育児ノイローゼやマタニティーブルーの予防を図り, ひいては子どもの虐待を防止する」ことを目的に, 平成10年度より各支部に「子育て、女性健康支援センター」の設置を推進してきた。これを受けて, 滋賀県支部では平成11年度より電話相談、来所相談、訪問相談を中心とした活動を開始した。相談内容の概略 実際の相談内容は多岐にわたる。平均相談時間は11分で8割は15分以内だが, 2時間を超える相談も少なくない。
著者
山崎 由美子 中山 和美 久保田 隆子 寺田 眞廣
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.405-413, 2005-01
被引用文献数
2

【目的】看護系女子学生の喫煙状況や身体症状などの実態を調査し, 効果的な喫煙防止対策を模索することを目的とする。【研究方法】対象は神奈川県内の看護系大学1年生と短大2, 3年生の320人で, 2003年2〜3月に質問紙調査を実施した。倫理的配慮のもとに同意が得られた264人からの回答を集計, 解析した。【結果】現在喫煙している人を喫煙群, 今まで喫煙したことがない入を非喫煙群, 1ヵ月以上禁煙している人を禁煙群と分類した結果, 喫煙群39人(14.8%), 非喫煙群203人(76.9%), 禁煙群22人(8.3%)であり, 短大生の喫煙率, 禁煙率は大学生に比べ有意に高かった。また, 喫煙群では家族, 特に母親の喫煙率が他の群に比べ有意に高く, 「痰が絡む」「咳が出やすい」「食事がおいしくない時がある」「寝起きが悪い」という身体症状も有意に高かった。FTND(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence)によるニコチン依存度評価では, 5人が重度依存に該当した。【考察】喫煙状況は学年や学歴による違いが示唆された。また, 将来母になる可能性のある学生に情報提供することと家族を交えた禁煙教育の必要性が示唆された。ニコチン重度依存者に対しては, 適切な治療を開始するための情報提供とサポート体制を整える必要がある。
著者
石川 康代 杉浦 絹子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.237-248, 2011-07

本研究は,男性のもつ月経観と月経の知識を測定する尺度を開発し,これを用いて男性のもつ月経観と月経に関する知識の現状を明らかにすること,ならびに男性に向けた月経に関する教育や情報提供のあり方について示唆を得ることを目的とした。月経観尺度,月経の知識尺度,月経に関する情報の入手方法,月経に関する情報提供に関する意見・考えで構成した無記名自記式質問紙による調査を行い,男子大学生および既婚男性計170名の回答を分析した結果,以下のことが明らかとなった。月経観尺度および月経の知識尺度は,内的整合性,弁別性いずれもおおむね良好な尺度であった。月経観尺度は第I因子「面倒」,第II因子「我慢」,第III因子「羞恥心」,第IV因子「誇り」で構成され,累積寄与率は51.96%であった。1項目あたりの平均得点は,「我慢」5.64±1.01,「面倒」4.52±1.40,「誇り」4.16±1.13,「羞恥心」3.18±1.08の順に高かった。月経の知識尺度は第I因子「気分の変化」,第II因子「留意」,第III因子「活動」で構成され,累積寄与率は54.03%であった。1項目あたりの平均得点は,「留意」5.75±1.07,「活動」5.21±1.06,「気分の変化」3.97±1.13の順に高かった。男子大学生群と既婚男性群間には,月経観尺度および月経の知識尺度の尺度総得点および下位尺度得点すべてにおいて有意差はみられなかった。また,対象の背景変数と両尺度の総得点および下位尺度得点にも関連はみられなかった。尺度のいずれかの項目に「わからない」と回答した者は計68.8%に及んだ。月経に関する情報源は,対象の大半が小中学校時,保健体育の教師からと回答しており,また月経について妻と話すことがある既婚男性では25.0%と少なかった。男性が月経について知っていたらよいと思うことについての回答は,多いものから「月経時に起こりやすい症状や心身の変化」(64.1%),「月経時のタブー」(62.4%),「月経時の過ごし方」(58.8%)の順であり,これらは「わからない」の回答が多かった項目と相応していた。以上より,男性が身近な女性の月経時の不調などを理解し配慮ができるよう,学校教育の場やマスメディアなどを通じて,より具体的かつ正確な月経に関する情報を提供していく必要性が示唆された。