著者
村越 貴光
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.63, 2023 (Released:2023-09-28)

I. はじめに これまでの研究(伊藤2003;橋詰ほか2005)では,地名認知は居住地からの距離減衰効果が働いており,鉄道の路線網,他人からの口伝えも影響していることが明らかにされている.しかしながら,それらの認知理由は,調査対象者の実証分析が不十分である.そのため,実際に通学途中や居住経験での地名認知については詳しく解明されていない.また,従来の空間認知研究のアンケート用紙は,白地図に番号を振っただけであり,全体的に位置認知の回答率が低い傾向である.駒澤大学の学生は,出身地が東京都,かつ現在の居住地も東京都である学生が少なく白地図のみでは位置認知の回答が難しいと判断した.そのため,地理的な事象を白地図に記載すれば,地名認知に影響すると考え,鉄道路線とランドマークを記載した.大学生を対象とした東京都の空間認知研究は少なく,大学生は中学生,高校生よりも行動圏が広いため,広範囲の地名を認知していると考えられる.地名認知研究の多くは2000年代以前であり,現在と比較すると,スマートフォンが普及し,SNSやメディアによって大学生の情報ツールが変化している.本研究では,駒澤大学の学生を対象とし,地名認知理由に着目して東京都の地名認知調査を行った.II. 研究方法 伊藤(2007)は,駒澤大学の学生に東京の地名認知調査を行っているが,筆者の担当科目「人文地理学」の受講生を対象とした.その対象者は,地理学に興味のある学生が多く受講していると考え,地理学に精通していない学生にも調査した網羅的な研究が必要と考えた.そこで,2022年9月に,協力が得られた専門教育科目,教職課程,教養科目の講義で,受講学生を対象に,20分程のアンケート調査を行った.認知の対象としたのは,東京都の島嶼部を除く53市区町村である.アンケート調査では,回答者が知っている地名を10個回答し,知っている理由を選択肢から1つ選んだ.また,回答した地名の位置を調査用紙の白地図の番号で回答し,その理由も選択肢から1つ選んだ.アンケートの白地図に,地下鉄以外の鉄道路線と本研究の事前調査で多くの回答が得られたランドマークを記載した.事前調査は,「東京都のランドマークといえばどこですか」という設問を設けた.アンケート回収数は438で,有効回答数は355であった.III. 結果名称認知率を見ると,駒澤大学が東京都世田谷区にあることから,世田谷区の地名の認知率が他の市区町村と比較すると極めて高い.多摩地区は,町田市と八王子市を除くと,東京23区と比較すると認知率が低い.東京23区は網羅的に認知されており,特に,新宿区,渋谷区が認知され,墨田区,港区の認知率も高い.名称認知理由は,訪問経験,居住経験,メディア・SNSが見られた.位置認知に関しては,名称認知と比較すると回答率は低い。つまり,名称は認知していても位置まで認知していないことが明らかになった.位置認知理由に関しては,訪問経験,居住経験,白地図にランドマーク,鉄道路線図を載せたことが認知に影響している.つまり,位置についてはヒントがあれば回答できることが判明した.事前調査で得られたランドマークは,大学生の余暇活動に関連する場所であり,位置まで回答できたと考えられる.回答者の居住地別の地名認知を見ると,居住地からの距離減衰が確認できた.多摩地区居住者に関しては,JR中央線が認知境界線であり,中央線を含む南部地域が顕著に認知されていた.多摩地区居住者以外は,東京23区を中心に地名認知されていた.また,多摩地区の地名認知は,主に八王子市と町田市の認知率が他の多摩地区の市町村と比較すると高いことが分かった.