著者
金城 政勝 東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.311-316, 1991-12-04

1. 西表島に分布する8属9種のセミの分布を種ごとに図示した。ヤエヤマニイニイの分布は,リュウキュウマツの分布と重なることが多い。リュウキュウクマゼミは島の周縁部の林や,里山に生息する平地性のセミである。ヤエヤマクマゼミ,イワサキヒメハルゼミ,タイワンヒグラシの3種は,里山から内陸部の林地に見られ,イシガキヒグラシは内陸部の原生林のみに見られた。イワサキゼミは各地に見られる広域分布型であり,ツマグロゼミの分布域は狭いようである。イワサキクサゼミは道路沿いのイネ科草地の種である。2. 西表島では,3月から12月までの10ヶ月間,いずれかのセミが見られ,7,8,9月の3ヶ月に発生する種の多いことがわかった。西表島のセミの出現期を沖縄の他の種と比較すると,出現期の遅れる種があることがわかった。3. 1988年9月12日,船浦において5種のセミの発音日周活動を調査し,その結果を示した。
著者
東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-158, 1977-12-01
被引用文献数
3

1.本論文は沖縄におけるサトウキビ栽培品種の変遷に伴って品種の形質と栽培管理方法がいかに変化し, これらがサトウキビ害虫の発生にどう影響したかについて検討したものである。2.沖縄において製糖が始って以来, 今日までに栽培されたことのあるサトウキビは10品種以上に及んでいる。しかし, 品種転換の短期間を除いては読谷山, POJ2725及びNCo310が栽培面積の65%以上を占めていた。この理由で, 本論文では1931年以前を読谷山時代, 1932∿1960年をPOJ時代, 1961年∿現在(1976年)をNCo時代と呼ぶことにした。3.沖縄で栽培され, あるいは現在栽培されているサトウキビ品種の特性のうち, 害虫抵抗性と関係があると考えられる主な形質について調査した結果, 株出適応性, 脱葉性, 葉幅, 葉姿, 57群毛茸の多少, 葉鞘開度などの形質が関与していることが判明した。4.栽培品種の転換によって当然サトウキビの栽培管理方法も変化した。読谷山時代には穴植法であった。POJ時代にはモジョバングン方式となり, NCo時代は農用機械の利用が多くなった。栽植密度も時代の変遷によって10a当り3,300⇾3,600∿27,00⇾2,400∿2,700本となった。植付時期は読谷山時代には春植が主で, 株出栽培が僅かにあった。POJ時代になって夏植が圃場の40%を占めていた。NCo時代には株出面積が75%, 夏植が20%, 春植が5%の比率となっている。施肥量は漸次増加した。剥葉作業はPOJ時代以前にはよく行われていたが, NCo時代には圃場面積の約半分しか行われていない。害虫防除はPOJ時代以前には捕殺または石油乳剤の散布に頼っていた。NCo時代になって合成農薬による化学的防除法がその中心となった。5.沖縄におけるサトウキビ害虫の種類は, 読谷山時代には42種, POJ時代には122種, NCo時代には165種記録されている。このように時代の経過に従って害虫の種類が増加した。しかし, これは調査, 研究の積重ねや取扱い方の違いによる影響が大きく, 害虫化した種類や侵入種は限られている。重要害虫は栽培品種の変遷に応じて変化してきたことが明らかである。読谷山時代にはCavelerius saccharivorus (Okajima)カンシャコバネナガカメムシ, Tetramoera schistaceana (Snellen)カンシャシンクイハマキ, Scirpophaga nivella (Fabricius)ツマキオオメイガ, Sesamia inferens Walkerイネヨトウの4種が重要であった。POJ時代には以上の種からツマキオオメイガが脱落し, Ceratovacuna lanigela Zehntnerカンシャワタアブラムシが加わった。NCo時代にはカンシャワタアブラムシの加害が減少し, Aulacaspis takarai TakagiタカラマルカイガラムシとMogannia minuta Matsumuraイワサキクサゼミが登場した。6.現在沖縄で栽培されている主なサトウキビ品種はNCo310とNCo376で, 前者は栽培面積の80%強, 後者は10%強を占めている。重要害虫はカンシャコバネナガカメムシ, イワサキクサゼミ, タカラマルカイガラムシ, カンシャシンクイハマキ, イネヨトウの5種があげられる。7.カンシャコバネナガカメムシの生活史及び各時代の発生消長について調査した結果を要約すると次のとおりである。(1)従来の各種資料と新たに得られた調査結果によると, 読谷山時代には発生密度が高く, POJ時代には減少し, NCo時代には再び発生が多くなった。(2)品種比較試験圃場及び品種保存園において発生密度を調査した結果, NCo310で個体数が最も多く, 次に読谷山に多く, POJ2725では少なかった。またNCo376ではNCo310に比べ発生密度が少なかった。(3)品種により発生密度が異なるのは, 産卵数, 幼虫死亡率, 幼虫発育日数, 57群毛茸による若令幼虫の保護, 品種によって生息空間に差があるためで, サトウキビ品種が産卵誘引性を有しないこと, 発育阻害因子を有すること, 57群毛茸を有しないこと, 葉鞘開度が小さいことは抵抗性であると考えられ, それらの形質は抵抗性因子としてあげることができよう。(4)サトウキビ栽培管理作業では剥葉, 植付時期(作型), 更新作型, 収穫後の残渣焼却が発生密度に影響する。(5)天敵は9種類確認された。そのうちでEumicrosoma blissae(Maki)カンシャコバネカメムシタマゴバチの寄生率が高い。この寄生蜂の生活史, 発生消長, 寄生率について明らかにした。また, 品種により寄生率に差のあることが認められ, 品種の形質が天敵の活動にも影響することを明らかにした。(6)読谷山とNCo310はPOJ2725に比較して抵抗性因子の保有が少ない。また, NCo時代にはカンシャコバネナガカメムシの個体数を減少させる管理作業が少なく, 発生密度を高くする株出栽培の面積が広くなった。これらのことは各時代における本虫の発生に影響したものと考えられる。8.イワサキクサゼミの生活史とサトウキビ圃場における発生密度増加の原因について調査した結果次のことが判明した。(1)25℃, 30℃における卵期間は, 平均それぞれ42日, 32日であった。
著者
東 清二
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.125-140, 1976-12-01

イワサキクサゼミMogannia minuta Matsumuraの生活史と, 1963年以来サトウキビ圃場において発生密度が増加した原因について調査した。その結果次のことが判明した。(1)25℃, 30℃における卵期間は, 平均でそれぞれ42日, 32日であった。(2)鉢植えサトウキビで飼育した幼虫の1齢終了日はふ化後33∿36日, 2齢は63∿66日, 3齢は165∿170日, 4齢は300∿305日, 5齢は640日以後と推定された。また幼虫期間は個体間差が大きいこともわかった。(3)鉢植えサトウキビ及びススキで幼虫を飼育した結果, サトウキビでは2年で羽化する個体が多く, ススキでは3年で羽化する個体が多かった。(4)サトウキビ圃場の更新により幼虫個体数が約95%も減少することがわかった。(5)サトウキビ圃場の成虫は羽化直後平均541個の卵を有しているが, 死後の卵巣内残存卵数は125個で, 約400卵産下することがわかった。ススキ原の成虫はそれぞれ504個, 204個で約300卵産下する。サトウキビ圃場の成虫は産卵数が多いと推定された。(6)天敵は25種類確認された。農薬散布によりアリ類は19∿33%の個体数に減少し, クモ類の個体数は26∿55%に減少する。(7)これらのことからイワサキクサゼミがサトウキビ圃場において発生するようになったのは, セミの発育経過日数が個体により差があること, 及び株出栽培の増加によりサトウキビ圃場が耕起されずにセミの1世代期間以上も安定した状態で続いたことによるものと考えられた。一度サトウキビ圃場で発生するようになったセミは, 1世代期間が短縮したこと, 産卵数が増加したこと, 株出サトウキビにおいて産卵数が多いこと, 農薬散布によって天敵が減少し, セミの生存率が高くなったことなどで個体数が増加したと判断された。すなわち品種の変遷や栽培方法の変化によってイワサキクサゼミは重要害虫になったものと判断された。