著者
田中 里奈 若林 たけ子 東中須 恵子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.113-121, 2016-09-30

本研究では、入院中の患者が衣服を選択する理由について明らかにし、その衣服が闘病意欲に与える影響について考察することを目的とした。 対象は衣服の自由選択を前提に病衣貸与体制を導入しているY総合病院に入院中で、研究協力に承諾が得られた患者62名。方法は患者のベッドサイドで質問紙に基づいた聞き取り調査を行った。対象となった入院患者62名中、妊婦を除く男性24名、女性30名の計54名を分析対象とした。分析は Microsoft Excel を用いた統計処理とt検定、χ2検定、及び記述的に分析した。 対象の特性は、病衣選択者74.1%で、t検定5%水準で女性の方が病衣の着用が有意に高い集団であった。これは入院対象者が家族と同居している割合が88.9%と高く、そのうち85.2%が家族に洗濯を依頼していたことが影響しているものと考える。私服を選択する理由は、病衣に対する抵抗感と、デザインやカラー、サイズが選べて動きやすい、着心地が良いために落ち着くなどの私服としての得点に二分されていた。病衣に対して不満を持っている割合は50%であったが、性別では女性のほうが男性よりも20%以上高かった。これは、一般的に合理性を重視するといわれている男性特有の性格的なことが影響しているのではないかと考える。病衣に対する不満理由は恥辱感、個の尊厳の喪失感、不合理性、不快感の4つの因子とその他で構成されていた。これは不満理由として女性から多く挙げられていたことと、清潔、耐久性、利益などの病衣としての特徴を備えていることではないかと考える。衣服と闘病意欲と性別との関係では、男性よりも女性のほうが闘病意欲は高く、病衣と私服と闘病意欲の関係では病衣のほうがχ2検定1%水準で有意に低かった。これは女性のほうが、退院後にも家庭での役割を持つためと考えられる。また、私服は社会性を維持していくために影響しているものと考えられた。 以上から入院中でも、個の尊厳を維持できる衣生活を心がける事が重要である。
著者
東中須 恵子
出版者
呉大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.59-63, 2009-03

鹿児島県初に設立された鹿児島県立鹿児島保養院(現姶良(あいら)病院)の創立50周年記念誌の閲覧,開設当初から勤務していた精神科医の回想談から,鹿児島県における精神医療と精神病者の取り扱いについてまとめた。鹿児島県における精神医療は,1923(大正12)年鹿児島県立鹿児島病院(現鹿児島大学医学部付属病院)に精神科が開設されたことに始まり,1924(大正13)年に29床で精神科分院の設立,1943(昭和18)年に姶良郡重富村平松(現在地)に150床で移転し現在に至っている。こうした流れは,昭和戦前・戦後の中で常に軍部との調整の中で展開されていた。しかし,離島や入院できない患者の処遇は悲惨であった。また,精神病者の取り扱いは警察で管轄していたが,1950(平成25)年,精神衛生法の施行によって入院治療が積極的に行われ,私設の精神病院が次々に建設されていった。入院治療は,非組織的な作業や,身体的ショック療法,ロボトミーが行われていたが,1955(昭和30)年初期の向精神薬の登場によって,薬物を中心とし作業療法や生活指導などの生活療法が積極的に行われた。