著者
森川 千鶴子 モリカワ チヅコ
出版者
呉大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.16-21, 2004-09

本研究の目的は,痴呆の進行に伴い自分の想いを自ら表出する機会が減少してくる高齢者が,どのような願いを持ち,入院生活を送っているかをから明らかにすることによって,看護・介護者が重度痴呆性高齢者の理解を深め,今後のケアの向上を図ることである。A病院のアクティピティ活動「七夕」に参加した,痴呆性高齢者157人の短冊を対象とした。七夕の短冊は,ひらがなの表現が多く全体的に短い文章になっていた。短冊の全体的な平均文字数は10.7文字であった。短冊は,「元気」「長生き」「家族」「仲良く」「お金」「仕事」「短歌」「その他」の8つのキーワードに分類できた。痴呆性高齢者の認知力は,徐々に進行し障害されてくるが,すべての機能が同時に失われるわけではない。様々な季節の行事は,過去の体験からの長期記憶を掘り起こす貴重な関わりとなり,学習が促進してくると考えられる。保たれた能力を生かした直接的なケアの効果は,日常生活の基本的な動作の反復から生まれてくるのではないかと思われる。痴呆が進行してくると,本人自らが積極的にアクティピティ活動に参加することは難しくなることから,看護職は介護職・作業療法士ら他職種と連携を取りながら,アクティピティ活動への参加を促していく必要がある。
著者
古屋敷 明美 平岡 正史 佐々木 秀美 紀 成子 武井 功子 長吉 孝子 山下 典子 河野 寿美代 金子 道子 森川 晴美 山崎 弘子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.42-53, 2004-03-27

音楽が生体とこころに良い結果を及ぼすことは衆知の事実であり,この影響について生演奏を聴いた前後の血圧・脈拍・皮膚表面温度・こころの変化によって明らかにすることを目的とした。対象は本学の公開講座「音楽による癒し」のサックスとピアノ演奏・歌唱を聴いた参加者。自動血圧計による演奏前後の血圧・脈拍を計測した24名,サーモグラフを用いて演奏経過による顔面皮膚表面温度を計測した5名,調査に回答した78名である。結果は,演奏を聴いた後が演奏前より血圧が低下は約70%,脈拍数の減少約90%であった。収縮期血圧の12.0mmHg低下と脈拍数8.7回/分減少とに有意差があった。演奏前収縮期血圧が高い者は血圧低下が大きい。皮膚表面温度の変化は,前半と後半の演奏とも皮膚表面温度が約2℃上昇していた。こころに及ぼす影響は,演奏前にこころの緊張状態にある者が約半数を占め,苛立ち>不眠>憂〓>苦痛>不安の順であった。演奏後に気持ちが変化したと答えた者が8割あり,その変化はリラックスできた,楽しかった,感動した・感銘を受けた,心が落ち着いた,気持ちがほぐれた,心豊かになった,肩こりが軽くなったなどであった。生演奏を聴くことで血圧・脈拍が低下し,体温が上昇し,こころの緊張が緩和されることが実証できた。
著者
佐々木 秀美 榎 久仁裕
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-24, 2018-12-21

本論では,わが国の公衆衛生及び福祉について,戦後の"日本国憲法"および憲法25条の成立過程を中心に,戦後のGHQ サムス准将による公衆衛生改革も含めて歴史検証を行った。"日本国憲法"成立の過程ではGHQ 指導下で強引に執行されたものであったが,しかし,両国間の対話を通して実行された憲法改正であり,指導したアメリカでさえ,実現不可能といわれる程に水準の高いものであった。特に,第25条はマッカーサー原案として提示された民生局の『憲法改正草案』にもなかった条文であり,その第25条の前文は,民間の憲法研究会から提案された『憲法草案要綱』案からであり,後半部分はサムス准将自身が加筆・修正したものであると考えられた。その第25条は,国民の日常生活における福祉,即ち,健康問題という点で最も関連のある人権思想の反映である。この条文が整ったことにより,わが国は,社会保障・福祉問題で国内の整備が可能となった。看護専門職者にとって日々の看護実践の基盤となる法律であり,その存在価値は大きい。
著者
讃井 真理 田村 和恵 平間 かなえ 浅香 真由巳 今坂 鈴江 原 ひろみ 迫田 千加子 岡本 響子 熊田 栄子
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.22-28, 2011-09

現在,学士課程の教育及び看護系人材育成は,知識や技術だけでなく利用者のニーズに対応し,応用力のある人材を,また,自発的な能力開発を継続するための素養を育成することが求められている。今回,本学の1年次~4年次の学生とオープンキャンパスに参画した学生に,オープンキャンパスという大学行事への参加に関するアンケートを実施した。その結果,1年次生のオープンキャンパス時の入学動機では,ボランティア学生と教職員の対応,またその関係性から感じ取った大学全体の雰囲気の良さを評価していた。そして,様々な模擬体験,或は学生ボランティアや教職員との関わりを楽しさと受け止め,学ぶこと・知ることへの意欲が記述されていた。オープンキャンパスに向けた後輩への選好メッセージを,各学年別に類似している内容毎カテゴリー化した。全学年に共通した項目は,仲間および教員との関係性を示す内容と,看護を学ぶことへの充実感,後輩への励ましと応援であったが,学年によってその内容に変化が見られた。学生は他者との関わりを通して,看護職者として不可欠である人間関係を構築していることがわかった。更に,正課外活動が,学生の主体的・自主的に学ぶ機会となっており,学生が主体的に学ぶことを支援することに繋がると考えられた。
著者
安藤 純子 加藤 重子 今坂 鈴江 岡平 美佐子 讃井 真理 林 君江 日川 幸江 Ando Junko Kato Shigeko Imasaka Suzue Okahira Misako Sanai Mari Hayashi Kimie Higawa Yukie アンドウ ジュンコ カトウ シゲコ イマサカ スズエ オカヒラ ミサコ サナイ マリ ハヤシ キミエ ヒガワ ユキエ
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.1-7, 2010-03

日本は,超高齢社会を迎え,高齢者の人口増に伴い医療費高騰の問題があげられる。このような社会背景の中で,本学部の老年・地域看護学領域で嚥下障害のある人のために開発されたソフト食の紹介を地域住民に対し3年間にわたり取り組んだ。地域の参加者にソフト食に対する意識を検討することを目的にアンケート調査を行なった。研究参加者は,ソフト食紹介の地域交流事業の参加者のうち,82名であった。説明内容の理解度は,回数を重ねるごとにわかりやすくなっている傾向があり,発達段階の影響を受けないことがわかった。美味しさに対しては,ソフト食のメニューの影響を受けること,また成人期の人に比べて老年期の人が美味しかったと思ったことがわかった。ソフト食の飲み込みやすさは,ソフト食のメニュー,発達段階の影響を受けることがわかった。このことから,地域住民のソフト食に対する意識が変化してきており,ソフト食は,老年期の人にとって美味しく,食べやすいことがわかった。また,介護者は「母親の食事に活かしたい」という意見もあった。
著者
讃井 真理 田村 和恵 平間 かなえ 浅香 真由巳 今坂 鈴江 原 ひろみ 迫田 千加子 岡本 響子 熊田 栄子
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.22-28, 2011-09

現在,学士課程の教育及び看護系人材育成は,知識や技術だけでなく利用者のニーズに対応し,応用力のある人材を,また,自発的な能力開発を継続するための素養を育成することが求められている。今回,本学の1年次~4年次の学生とオープンキャンパスに参画した学生に,オープンキャンパスという大学行事への参加に関するアンケートを実施した。その結果,1年次生のオープンキャンパス時の入学動機では,ボランティア学生と教職員の対応,またその関係性から感じ取った大学全体の雰囲気の良さを評価していた。そして,様々な模擬体験,或は学生ボランティアや教職員との関わりを楽しさと受け止め,学ぶこと・知ることへの意欲が記述されていた。オープンキャンパスに向けた後輩への選好メッセージを,各学年別に類似している内容毎カテゴリー化した。全学年に共通した項目は,仲間および教員との関係性を示す内容と,看護を学ぶことへの充実感,後輩への励ましと応援であったが,学年によってその内容に変化が見られた。学生は他者との関わりを通して,看護職者として不可欠である人間関係を構築していることがわかった。更に,正課外活動が,学生の主体的・自主的に学ぶ機会となっており,学生が主体的に学ぶことを支援することに繋がると考えられた。
著者
迫田 千加子 田村 和恵 佐々木 秀美
出版者
呉大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.1-11, 2007-03

大正時代に発刊された『看護學教科書』を保有する94歳の元看護婦と出会ったことを手がかりに,戦前の広島県における看護婦養成の足跡を看護婦規則と関連させながら検証した。明治以降,医学の進歩と共に病院の整備が進み,それに伴い各地で看護婦の養成が始まった。広島県は,軍制基盤都市として栄え,全国に先駆けて,1893年(明治26年)日本赤十字社広島支部が看護婦養成を始め,1904年(明治37年)には呉海軍共済組合病院で看護婦養成が開始された。1915年(大正4年)国として初めての看護婦規則が制定され,無資格者による看護が規制された。そのことによって看護婦不足が生じ,東京看護婦学校などの簡易教育所による教育が隆盛した。広島県でも看護婦規則制定に伴い,看護婦不足が起き,講習会や簡易の看護教育でそれを補った。元看護婦が受けた教育は開業医で働きながら学ぶ方法であり,東京看護婦学校と類似した簡易教育であった。
著者
東中須 恵子
出版者
呉大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.59-63, 2009-03

鹿児島県初に設立された鹿児島県立鹿児島保養院(現姶良(あいら)病院)の創立50周年記念誌の閲覧,開設当初から勤務していた精神科医の回想談から,鹿児島県における精神医療と精神病者の取り扱いについてまとめた。鹿児島県における精神医療は,1923(大正12)年鹿児島県立鹿児島病院(現鹿児島大学医学部付属病院)に精神科が開設されたことに始まり,1924(大正13)年に29床で精神科分院の設立,1943(昭和18)年に姶良郡重富村平松(現在地)に150床で移転し現在に至っている。こうした流れは,昭和戦前・戦後の中で常に軍部との調整の中で展開されていた。しかし,離島や入院できない患者の処遇は悲惨であった。また,精神病者の取り扱いは警察で管轄していたが,1950(平成25)年,精神衛生法の施行によって入院治療が積極的に行われ,私設の精神病院が次々に建設されていった。入院治療は,非組織的な作業や,身体的ショック療法,ロボトミーが行われていたが,1955(昭和30)年初期の向精神薬の登場によって,薬物を中心とし作業療法や生活指導などの生活療法が積極的に行われた。
著者
田村 和恵 佐々木 秀美
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-45, 2012-09

本研究は,看護場面において患者が知覚する看護師の優しさを,明らかにしていくことを目的としている。今回,入院患者4名に対して,ある看護場面を想定して看護師を優しいと感じた時はどんなときであるかを,半構成的インタビューを用い質的に分析を行った。その結果,【優しい関わり合いへの期待】【傾聴的態度】【共感的態度】【個人を尊重した関わり】【理解ができる説明】【調整を図る】【水準の高いケアの提供】【専門家としての信頼】【気持ちの良い接遇】という,9個のカテゴリーが得られた。この9個のカテゴリーを検討していった結果,患者が知覚する看護師の優しさの基本となっている行為は,人と人との関わりに依拠するものであり,人間関係が基本となっており,患者は言語的・非言語的コミュニケーションによって,言わんとしている内容に対して的確に判断して,対応してくれることを期待しており,患者はそれを優しさであると受けとめていた。さらに,看護師の専門的な知識・技術に対するニーズへの期待も,優しさに深く影響を与えていた。
著者
久保 泰子 津久江 一朗 加藤 重子 佐々木 秀美
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-15, 2011-09

本研究では,A精神科病院一般病棟保護室環境を分析・解釈し,その物理的環境を人権と倫理的医療という側面から,治療と人間の尊厳の問題を検討した。保護室環境の分析・解釈結果では,①患者及び他者の生命を守り安全に医療を提供,②自然の恩恵が受けられず人の精神に不快な感情を刺激し安楽が妨げられる療養環境,③人間の尊厳に関する問題とQOL の低下の3つのカテゴリーが抽出された。これらのカテゴリーを人権と倫理的医療という側面から検討した結果,患者および他者の生命を守るということは,人の生存権の問題である。よって,保護室環境は,安全に医療を提供する場所として構造機能上の質的向上,医療及び保護という観点からは,生命の維持と行動観察がよくできる環境設定と同時に,回復を促進するために,自然の恩恵が受けられ人の精神に不快な感情を刺激しない保護室環境とすること,回復を促進できる保護室環境と行動制限の最小化およびセルフケア能力に応じたケアを提供することによってQOL の低下を引き起こさないことが人間としての尊厳を守ることにつながることが分かった。保護室環境の問題は,治療と人間の尊厳のバランスの重要性を示唆しており,精神看護学領域における最重要課題である。
著者
津田 右子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.8-26, 2001-09

日本の近代的な看護教育は,ナイチンゲールによって発展させられた一つの専門職として職業化された近代看護が日本に導入され,いわゆるTrained Nurse(正式な看護婦)としての誕生をみた時を出発点としている。これは西洋看護教育(ナイチンゲール方式)の導入と言うことも出来る。そして,草創期とは,このような看護婦養成が開始された明治18年を基点に,主に明治20年代をさしている。ここでは,1.有志共立東京病院看護婦教育所,2.京都看病婦学校,3.桜井女学校付属看護婦養成所,4.帝国大学付属看病法練習科,5.日本赤十字社看護婦養成所,6.聖路加病院附属高等看護婦養成所の6校を対象にとりあげ、近代看護教育の草創期に関わった人々の資料や当時の卒業生の声を集めて,その教育観をまとめた。(英文抄録:Modern training of nurses in Japan commences with the appearance of the qualified nurse following the introduction of modern nursing as a profession along the lines developed by Florence Nightingale. This may be characterised as the introducion of Western-style nurses' training by the Nightingale method. The pioneering days of nursing in Japan thus begin in 1885 and continue throughout most of the last decade of the nineteenth century. The present paper concentrates on six schools, namely Yushi Kyoritsu Tokyo Byoin Kangofu Kyoikusho [Yushi Kyoritsu Tokyo Hospital Nurses' Training Institute], Kyoto Kangofu Gakko [Kyoto Nurses' School], Sakurai Jogakko Kangofu Yoseisho [Sakurai Girls' School Nurses' Training Institute], Teikoku Daigaku Fuzoku Kanbyoko Renshuka [Imperial University Nursing Practice Department], Nihon Sekijujisha Kangofu Yoseisho [Japan Red Cross Nurses' Training Institute] and Sei Ruka Byoin Koto Kangofu Yoseisho [St Luke's Hospital Higher Nurses' Training Institute]. It sifts through materials on the people who contributed to the pioneering days of modern nurses' training in Japan and listens to the voices of the young women who were trained in these schools in an attempt to build up a picture of the educational philosophy of the age.)
著者
佐々木 秀美
出版者
広島文化学園大学看護学部
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.28-47, 2011-03

本論では,前稿における検証結果を踏まえて,精神的危機からと自立までのプロセスを通して,行為の源としてのナイチンゲールの思想をさらに探究した。神秘主義と科学主義の交差するイギリスの教育思想の影響を受けたナイチンゲールは,成長・発達段階において,神の存在と日常生活の様々な現象とが,神との一体感の中で生まれるものであると感じ,真実の目は真理の探究につながると考えた。その考えは,イギリス経験認識論日常生活における様々な現象を原因と結果の関係において解釈しようとする科学主義的要素と相まって,全て実際に起きている現象を科学的な目で観察・認識しようとした。その真実の目と真理の探究が彼女をして,批判のみならず一歩進んで,自身の取るべき行為を導きだした。彼女の主張は急進的であり,伝統的な社会規範を覆すものであった為に,家族との対立,精神的危機状況を作り出したが,その状態を克服したときにナイチンゲールは人間としての強さを獲得し,自立へのプロセスを踏んだ。彼女の思想の背景には人間存在の問題として人格と生存権の問題があった。
著者
松井 英俊
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.66-73, 2004-03-27

本研究では,医師や看護師が"インフォームド・コンセント" (Informed Consent)という言葉を患者・家族に使う際に,その言葉のもつ歴史的経緯や裁判で取り上げられた判決事例などから検討した。ICの誕生は1957年とされている。これは,歴史家のマーティン・S・パーニックと心理学者のジェイ・カッツがICの根拠について歴史的な証拠について述べてあることが,R.フェイドンとT.ビーチャムの「インフォームド・コンセント」という論文(R.フェイドン・T.ビーチャム,酒井忠昭 秦洋一訳:『インフォームド・コンセント-患者の選択-』みすず書房)によって明らかにされた。それらの歴史的経緯のなかから治療に関する患者の同意や患者の権利により,患者の自己決定に対しての医師や看護師のインフォームド・コンセントの充実をはかることが重要であること。それにより,患者-医療従事者関係を良くしていくことにつながり,患者が主体となった患者中心の医療に発展していくということが示唆された。
著者
遠矢 福子 山本 明弘 橋本 明
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.11-23, 1999-09-25

わが国の地域精神医療・保健を巡る状況は、この10年間で著しく変貌している。欧米諸国の実状を見据え、今、地域社会をケアの場とする生活モデルづくりが始まろうとしている。その一つの示唆として、ベルギー・ゲールのファミリーケアは、長い伝統を引き継ぎながらも時代の流れに対応し、現代においても、世界的に高い評価を受けている。一方、京都・岩倉村コロニーは、終戦と共にその幕を降ろし、今では、営利目的の集団的私宅監置、差別的隔離収容といった評価さえ受けている。けれども、保養所における入所者の動向や処遇状況を丹念に見ると、そこもまた、今日的な意味での「中間施設的要素」をもって運営されていたことが見えてくる。ファミリーケアが地域精神医療に果たすべき役割の重要性は、今や世界中で確認されており、今後、わが国においても、これを如何に地域支援システムに取り込むかが、必須の課題となろう。他の障害者と違い、家族の支援さえ得にくい精神障害者にとって、医療と福祉(生活)が有効に連動する公的支援システムは不可欠であり、「岩倉村保養所」再考の意味はそこにある。
著者
竹中 和子 藤田 アヤ 尾前 優子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.24-30, 2004-03-27
被引用文献数
1

子どもの死の概念に関する多くの研究は,学童期以降を対象にしている。しかしながら,3歳児でも死について考えており,死の不安を言葉で表現したという報告もある。病気を持つ子どもへのインフォームド・コンセントやデス・エデュケーションの問題を考えるうえでも,幼児期からの死の概念の発達について明らかにしていくことが必要である。本研究では絵本を基に作成した紙芝居を用いることで,幼児期のうち簡単な質問なら答えることのできる3歳以上の健常幼児における死の概念について明らかにようとした。調査の結果,以下のことが明らかとなった。(1)死の不動性は,4歳7ヶ月から理解し始め,6歳前後でほとんどの幼児が理解していた。(2)の不可逆性は,3歳9ヶ月から理解し始め,6歳前後でほとんどの幼児が理解していた。(3)死の普遍性は,4歳3ヶ月から理解し始め,6歳2ヶ月以上でほとんどの幼児が理解していた。(4)幼児における死の概念の発達には身近な死の経験,アニミズム,マス・メディアなどの要素が関わっていることが予測された。(5)年少の子どもに対しても,生の問題として死を考えるデス・エデュケーションに取り組んでいく必要性が支持された。
著者
中村 美保子 三木 喜美子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.51-58, 2003-12-25

本稿では終末期における患者I氏のクォリティ・オブ・ライフとその看護について「QOLに影響する要因:因果モデル」を使用し 1)物理的環境 2)社会的相互作用 3)身体的健康状態 4)精神的健康状態 5)性格と経歴の5つの要因から考察した。結果,1.QOLは様々な構成要素からなり,ひとつのニーズに対しても全体的なQOLとして,トータル的に患者をみていかなければならない。2.QOLは様々な構成要素が関連しており,ひとつの要因がすべてに関連する。3.個人の生育歴や社会的背景により個々に違い様々である。そのため,QOLの評価の際には個別的に考える事が重要である。4.「その人にとっての幸福感」を視点にもつことが最も重要である。5.幸福感は患者・家族にとり,主観的なものであるが,QOLを高めるケアを提供する看護は,幸福感や価値観をどこにおくか,看護者の価値観で患者をみていないか,患者・家族を客観的に評価し考えていかなければならないことが明らかになった。
著者
中島 優子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.80-84, 1999-09-25
被引用文献数
1

近年、ホスピス・緩和ケア病棟は急速に増加しており、長い間片隅に追いやられていた終末期の患者に温かな光が注がれるようになった。しかし、その数は十分とはいえず、年間27万人がガンで死亡している現代、専門病棟で緩和ケアを利用できる患者はごく一部に過ぎない。多くのガン患者は一般病棟で終末期を迎えているのが現状である。こうした現状から一般病棟における緩和ケアを推進する必要があると考える。本稿では、一般病棟で緩和ケアを行っていくなかで、援助の限界を感じた事例をあげ、看護者の役割と課題について考察した。
著者
滝沢 韶一
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-8, 2002-03-25
被引用文献数
1

生後早期より特異の発達障害を呈す自閉症は1940年代前半期にアメリカおよびオーストリアにおいて相次いで報告された。それぞれ早期幼児自閉症(カナー)および自閉性精神病質(アスペルガー)と命名され,前者は小児精神分裂病との異同,後者は精神分裂病質との近縁性が議論され,その過程で当事者の家族(殊に母親)がスケープゴートの役割を担わされた。1960年代に入りイギリスのラター等によりその病態について認知障害の可能性が指摘されるにおよび,次第に治療教育的接近が可能となった。ほぼ同時期にアメリカのショプラー等により開発されたTreatment and Education of Autistic and Related Communication Handicapped Children (TEACCH) プログラムは現在国際的に最も高い評価を得ている。本邦においても20年前より同プログラムに対する関心は高まっているが,公教育における導入は未達成である。僅かに目覚めた教師達や施設職員による部分的実践が全国各地で行われている。さらに学校教育を終えた年長の自閉症者達(高機能を含む)への対応が焦眉の急である。そのためにも自閉症の病態についての正しい理解と福祉・教育的体制の確立が欠かせない。
著者
湯川 和子 石井 香奈子 山下 洵子
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.20-26, 2002-09-27

地域の食文化や味を記録に残し,更に多くの人にちが継承し育んでいくことを願望して「21世紀に伝えたい味・残したい食品」「食の思い出」の2項目をアンケートにより調査した。呉市内に在住・在勤者およびその関係者(5歳から98歳までの男女1,010名)にアンケートにより回答を得たところ,ちらし寿司,味噌汁,煮しめなどの伝統的な和食が上位にあげられていた。「食の思い出」では「郷土食],「家族と一緒に料理をした」,「食卓を囲んだ思い出」など地域や家族と繋がる思い出が多く寄せられた。