著者
渋川 瑠衣 松下 姫歌
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.10, pp.171-183, 2010

近年, 大学生の自己のあり方に関して, 多様化・質的な変化を指摘する知見が多く見られるようになった。本稿では, 特に近年の学生相談の文脈で指摘されている「悩めない」大学生に注目し, その心理的特徴や自己にまつわる課題について整理した。その中で, 現代大学生の自己の特徴として, 状況依存的で, 相手に合わせて意識的・無意識的に変化するあり方があることが示された。また, 従来の一貫性の保たれた自己としてのあり方ではなく, それぞれの自己側面の繋がりが失われ解離・断片化していく新たな自己のあり方が一般化している傾向があることが推測された。本研究では更に, 自己の変動性・多面性研究に関する実証的研究を整理し, その問題点と課題を指摘した。その上で, 学生相談などの臨床場面における大学生の自己に関する理解をすすめるためには, 意識されている側面と意識されない側面を含めた大学生の自己に関する主観的体験を重視する必要性があると考えられた。
著者
松下 姫歌
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
no.67, pp.335-359, 2021-03-25

Evidence-based Medicine(エビデンスに基づく医療; EBM)の概念は心理療法の領域にも⼤きな影響を及ぼし、Evidence-based Practice in Psychology(心理学におけるエビデンスに基づく実践; EBPP)という概念も生まれた。しかし、EBMやエビデンスの概念については理解の混乱や誤解があることが指摘され続けており、EBPPの概念はその誤解に基づく形で生まれ、後に軌道修正がなされたものの、心理臨床実践の観点から様々な問題点が指摘されている。本稿の目的は、①EBMの概念の再検討を通じて、その理念の本質とエビデンス概念について明らかにすること、②それに基づき、EBPPの問題点を明らかにすること、③心理臨床実践におけるエビデンスの概念を再定義することであった。その結果、3種類のエビデンスが抽出され、これらを基に、心理臨床実践におけるエビデンス概念が検討された。
著者
井村 文音 松下 姫歌
出版者
広島大学大学院教育学研究科附属心理臨床教育研究センター
雑誌
広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
no.10, pp.21-34, 2011

This research aims at empirically examining the linkage between the acknowledgement of a family subsystems' functional status and tendencies in adult university student children. It focuses on the status of family functions, particularly those of family subsystems. In doing so, the study also identifies similarities in the recognition of family functions and the functional status of family subsystems. The result shows that the functions acknowledged within the family as a whole and in the family subsystem are different. In other words, while the recognition of family functions and status were common among parents, these aspects were not recognized in adult children. In addition, the study elucidates the relationship between the recognition of rules and lack of self-control in parent-child relationships. Moreover, it suggests a connection between a sense of self-condemnation and father-child relationships. Thus, the characteristics of relationships observed in family functions and the tendencies of adult children differ depending on the level of recognition within a family system or subsystem.
著者
松下 姫歌 橋村 裕治
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.8, pp.271-280, 2008

本研究では, 青年期における自己愛傾向は自我同一性の感覚に寄与する健康な側面をもちうるという仮説のもと, 大学生の自己愛傾向と自我同一性との関連を検討した。自己愛人格目録短縮版(NPI-S)の下位尺度の主成分分析によって抽出された「自己愛総合」と「注目-主張」の2成分の高低によって対象者を4群に分類し, 多次元自我同一性尺度(MEIS)の総合得点および下位尺度得点を比較したところ, 全体的な自己愛傾向の高い群は低い群よりも自我同一性達成感を強く持つという結果が示された。このことから, NPI-Sによって捉えられる一般青年の自己愛傾向の高まりは, 病理的な自己愛とは異なり自我同一性達成に寄与するものであると言える。また, 自分の感覚を軸に自己を捉える群の方が, 他者の視点を介して自己を捉えようとする群よりも, 自分の理想や願望を明確に意識していることが示された。