- 著者
-
松下 道雄
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2004
生体内で働いているタンパク質には無数の準安定構造があり、絶えずその間を移り変わり、決して同じ姿に留まらない。こうしたタンパク質の構造の揺らぎがタンパク質の機能の制御に深く関わっていることは以前から指摘されていたが、構造揺らぎの詳細を知る手立てがなかった。そこで一分子観察によって個々のタンパク質の分子構造を直接分光測定しようというのが本研究の目的である。一分子の分光測定には最低でもミリ秒程度の時間が必要なために、室温での構造変化を追うことはできない。このため、測定が十分可能になるまで温度を下げて測定を行う。今回の研究で、一個のタンパク質の構造変化のダイナミクスを温度を変えながら測定することに成功した。同一のタンパク質を温度を変えながら分光測定したのは世界ではじめてである。解析の結果、温度に依存しないトンネリングと考えられる構造変化が見つかった[Oikawa, et. al.J.Am.Chem.Soc.130(2008)4850.]。低温での単一分子分光は、主に技術的な困難からもっぱら赤外領域に限られていた。このため、光合成細菌の光捕集複合体について豊富な構造情報をもたらしたが、生化学的に興味深い酵素は、フラビンタンパク質群に象徴されるように可視域に吸収を持つものが多い。単一タンパク質について、可視域での励起と蛍光検出が低温でできるよう、まず低温用反射対物レンズを開発し[Fujiyoshi,et al.Appl.Phys.Lett.91(2007)051125.]、これを使って単一のGFPを二光子励起し、その蛍光スペクトルは低温でのGFPの構造変化を如実に表わしていることを示した[Fujiyoshi,et al.Phys.Rev.Lett.100(2008)168101.]。