著者
松井 秀郎 竹内 淳彦 田邉 裕 濵野 清 吉開 潔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1.シンポジウムの趣旨 1)新学習指導要領における地誌学習(諸地域学習)の拡充 平成25年度からいよいよ高等学校での新学習指導要領が完全実施となる。なかでも地理Bでは、三つの大項目の中で「(3) 現代世界の地誌的考察」を設け、諸地域の地誌的な学習内容を充実し、また、「地誌的に考察する方法」を身に付けさせることも重要なねらいとされている。 内容の取扱いでは「アで学習した地域区分を踏まえるとともに,様々な規模の地域を世界全体から偏りなく取り上げるようにすること。また,取り上げた地域の多様な事象を項目ごとに整理して考察する地誌,取り上げた地域の特色ある事象と他の事象を有機的に関連付けて考察する地誌,対照的又は類似的な性格の二つの地域を比較して考察する地誌の考察方法を用いて学習できるよう」とされ、これまでのいわゆる静態地誌,動態地誌に加えて、比較地誌の方法によっても考察することが求められている。 2)地理学における地誌研究などの衰微と再興への方途 高等学校での地理教育において、地誌学習が拡充される一方で、地理教育の根幹となる地理学における地誌研究や方法論としての地誌学の衰微が著しい。宮本昌幸・武田泉によれば地誌学を専門とする日本地理学会会員数は減少し、題名に地誌と明記した著書・論文や学会発表も低調な状況にある。 このような問題意識から、地誌学の興隆期から地誌学に強い関心を抱きつつ研究を続けてこられた先生方や、高校教育現場の長として地理教育に力を入れておられる校長先生、全国の学校での地理教育・社会科教育の指導を進めている教科調査官の参加を求めて、本シンポジウムを地誌研究などの再興に向けた講演と総合討論の場としたい。2.講演内容の概要 (1)濵野 清:「新学習指導要領における地誌学習の位置付け」 新学習指導要領における地誌学習重視の視点は、小・中・高等学校を貫く改訂の柱である。学力の重要な要素として基礎的・基本的な知識、技能の習得が求められる中、日本や世界の諸地域に関する地理的認識を養うための学習が、改めてその学習指導要領の内容として位置付けられることとなった。 ここでは、とりわけ大項目レベルで内容構成が変更された中学校と高等学校に焦点を絞り、その概要を確認したい。 (2)竹内 淳彦:「いま、地誌を考える」 「地誌」は正しい地方づくりのための基本である。"地域性の解明と記述"を目的とする地誌の基本は田中啓爾の研究に見られ、田中の「指標をもとにした地域性の解明」と動態的な「地位層」の考えこそが地誌研究のベースとなる。これらをもとに地域区分、域の重層、シンボルなどが検討される。「地誌」の充実のためには、学界、教育界、行政挙げての強力な取り組みが不可欠である。 (3)田邉 裕:「私の受けた地誌教育から考える」 1950年代の大学では、多田先生が外国地誌、福井先生が自然地誌、飯塚先生が「日本と世界」を中心に地誌全般を講じ、1960年代のレンヌ大学ではフランス地誌を受講した。共通する特徴は系統的・画一的でなく、「そこはどのような所か」を明らかに出来るような地域性の指摘から入っていた。自分がヨーロッパ地誌を講ずる立場になって、網羅的でありながらトピック的な地誌とその順序性の論理構築を心がけた。 (4)吉開 潔:「私の体験的地誌教育論」 グローバル人材の育成やリベラルアーツの重視など、総合的な知識・思考力を求める最近の教育動向は、地誌学及び地誌教育の活性化に資するものといえる。かつて高校地理教師として世界地誌を指導したとき、大学で地誌関係講座を履修した経験が活きた。新学習指導要領で地誌学習が充実された今こそ、地誌学研究者と中・高地理教師が連携・協力して、魅力ある地誌授業の開発・実践に取り組んでいく必要がある。