著者
松前 健
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.23, pp.p75-96, 1995-03

鎌倉時代の軍記物、室町時代の謡曲、舞の本、それから江戸時代の浄瑠璃、歌舞伎に至るまで、民衆の英雄として、人気の的であった人物の一人は、悪七兵衛景清であった。景清の史実性についての確実な資料は乏しく、『吾妻鏡』などにも、その名は現れない。ただ十二巻本の『平家物語』では、八島合戦のとき、美尾谷十郎との一騎打ちの中で、豪快なシコロ引きの話が語られる位で、そのほかは、大勢の平氏の武者の中に、その名をつらねるだけで、それほどの武将とも思われない。